取りあえず逃避することを選択した四人は、まず誰をボスとして行動するのかを決めた。結局ふたりの大家をボスとし、田中と山本の意見を尊重するが、ふたりの大家の意見がまとまらなければ最後はジャンケンで決めるという変則民主主義によることとなった。しかし、こんな仕組みが長続きするはずがない。それよりも先を見すえる対処がいい加減であることをあざ笑うように周辺の環境が急変する。そう、あの不思議なテレビが驚くべきニュースを流しているのだ。
「大砂漠で大量の水が湧いて溢れ出しました」
どう見ても湖にしか見えない。
「ここはタクラマカン砂漠でした。一晩でこのように様変わりしました」
「まさか、メキシコ湾に吸いこまれた海水がタクラマカン砂漠に噴きだしたとでも」
テレビが田中に応答する。その声は山本の声のようにも聞こえる。
「そうです。この湖の成分は海水と同じです。それにこれを見てください」
「ク、鯨!鯨が潮を噴き上げているわ!」
まるで山本が山本に呼応するように叫ぶ。
「タクラマカン砂漠だけではありません。サハラ砂漠、それに半島のほとんどが砂漠のアラビ
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ア半島でも同じことが起こっています」
それぞれの映像が流れるが、字幕がないのでどれがタクラマカン湖か、サハラ湖か、アラビア湖か区別できない。その雰囲気を感じとったのか、画面は上空からの映像に変わる。衛星から撮影された写真だ。
「ブルー、鮮やかなブルー」
山本が感動する。アラビア湖が周りの海の色とは一線を画す鮮やかなブルーの輝きを放つ。画面がサハラ湖へ、つまり西アジアから北アフリカに移動する。湖のように小さくなった地中海の青緑とはまったく異なるブルーのサハラ湖が画面の左に現れたかと思うと中央部に近づく。そして更に画面は左側、つまり西に向かって移動する。画面上部にあるはずの地中海が見えなくなる。地中海の入口のスペインとモロッコが地続きになっているのだ。やがて大西洋が見えてくるが、見慣れた大西洋ではない。
「キューバやハイチの島がない。地続きになっている!」
「それに南北のアメリカ大陸の東海岸が大きくせり出している」
「それどころかメキシコ湾が巨大なまん丸い湖に見える。あれは!」
メキシコ湾の中心部に巨大な渦巻きが見える。何もかもを吸いこむブラックホール、いやブルーホールと化したメキシコ湾に目が奪われてその周りの状況を見落としてしまう。四人の記憶にある地形、とは言っても安物の地球儀レベルだが、彼らの記憶のレベルをはるかに上回る
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鮮明な映像が次々と現れるが、驚くだけで声も出ない。
やがて太平洋へと画面が進む。太平洋は大西洋ほど海水が極端に減っていないためか、四人は落ち着いて画面を見つめる。それでも大きな島がゴロゴロ見える。しばらくしてから画面の左端に日本列島が現れ始めると、ふたりの大家が合唱する。
「北方四島が北海道と地続きになっている!」
少し時間をおいて田中が叫ぶ。
「東北の太平洋側の海岸線が!」
三陸海岸を含む海岸線がかなり海側に移動している。そして笑顔で誰に言うのでもなく呟く。
「少なくとも大陸棚の一部が陸地化している」
「あの大地震で地盤沈下したところは助かるな。これなら大潮に悩まされることはない」
その呟きを破る大家の声がする。
「沿岸漁業が壊滅する」
「そうかな」
「わあ!沖縄がとてつもなく大きな島になっているぞ」
「ひょっとして、大西洋のようにもっと大量に海水が減ればカムチャッカ半島から台湾まで地続きになるかもしれない」
「日本海も消滅するかもしれんぞ」
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「いったいどうなるんだろ」
やがて中国のタクラマカン砂漠、いや、キラキラと輝くタクラマカン湖が現れる。あまりにも巨大な湖に度肝をぬかれる。
「なんと大きな……」
「オーストラリア大陸より大きいかも……」
「いったい何が原因で……」
「メキシコ湾に穴が開いたから?」
「誰が開けた?それとも地震?ハイチでまた大地震でも起こったのか?」
「確かニューヨーク空港で聞いたあのテレビのニュースでは地震ではないと言っていたような記憶がある」
「あの空飛ぶ潜水艦の仕業か?」
三人の思い思いの発言に割り込むように山本が突然大声をあげる。
「スミスさんと私の会話を覚えてる?」
誰からも反応はない。
「『不可思議な謎に挑戦するのが三度の飯より好きな男がいる』と言ってたでしょ」
「思い出した」
田中が堪えるとふたりの大家も頷く。山本がふーと安堵の息を出す。
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「そしてその男が『今は海の底で謎の物体と格闘中だ』とも言っていたな」
「そうです。スミスさんはこの異変の原因を知っていたんだわ。それはこの異変事態を知っていることになるわ。しかもその原因を作り出した人物までもよ」
「原因?何を言っているんだ」
田中が興奮気味の山本を心配そうに見つめる。
「詳しく話すわ。想像が入るかもしれないけれど」
田中は真剣な眼差しで山本を見つめると一言だけ発する。
「黙って聞く」
ふたりの大家も同調する。山本は大きな胸を膨らませてからゆっくりと息を吐いて落ち着きを手にする。
「スミスさんは『おもしろい男がいる』と言ってたわ。そのときその男が何かをしでかすというニュアンスを感じたの」
一息ついて続ける。
「話は少し逸れるけれど、随分前にスミスさんに付いてメキシコ湾に突きだしたフロリダ半島の地底を取材したことがあるの。そこには至るところに大小様々な洞窟があってかなり大きな地底湖もあったわ。そう!そうだわ!メキシコ湾の底に巨大な空洞が存在しているとすれば、穴が開くとかなりの海水を取りこむことは否定できないかも…… 」
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山本の言葉が途切れる。要はそれから先の推測が不可能だということだ。
「溜め込むことができるのなら、なぜ、タクラマカン湖やサハラ湖……。やっぱり大西洋の海水は間違いなく砂漠に移動したんだ!」
「その可能性、否定できないわ」
「ひょっとしてあのあの空飛ぶ潜水艦がメキシコ湾に穴を開けたんじゃ」
田中が興奮する。
「その潜水艦にスミスさんの言うおもしろい男が……」
立派な服の大家が田中の言葉を制して冷静に山本を促す。
「もう一度スミスに取材を申し込むべきじゃ」
立派な服の大家の意見に質素な服の大家が同調すると山本が強く頷く。
「すぐ手配します」
そのときテレビから新たなニュースが流れる。
「スミス財団のスミス氏が来日しました」
「えー!」
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