ニューヨーク空港の混雑するロビーで仕方なく搭乗手続きをしながら大家が田中と山本に呟く。
「もうひとりのわしはどうなったんだ?」
質素な服の大家の疑問に田中が続く。
「それにあの女やがっちりした男は?」
「結局、ヒントらしいヒントもなかった。あのスミスというアメリカ人は食わせ者か」
大家に山本が頭を下げる。
「スミスさんも手を尽くしています。そのうち見つかるわ」
山本に田中が同調する。
「スミスさんは信頼できる。山本さんを実の娘のように思っている」
「わかった。別に山本さんを責めているんじゃない。逆に感謝している。ここはスミスに任せるしかないか」
やっと大家が納得する。
「なにか起きたら、必ずスミスさんは私に連絡してくれるはずです。安心してください」
山本の笑顔に大家が頷くと搭乗手続きが終わる。そのとき聞き覚えのある独特の声が三人に
[257]
届く。
「パパ~」
大きな団子をふたつ胸元に引っ付けた女が老人とじゃれている。すぐさま大家がまっしぐらにその老人に向かう。ニューヨーク空港の混み合った出発ロビーで背が低い大家は人の間をすり抜けるようにもうひとりの大家に向かって走る。
「パパ?!」
「おまえは誰だ」
「わしじゃ」
そのとき大震動が起こってロビーの天井に大きなテレビ画面が現れる。縁が広くて白い巨大なテレビだ。そのテレビから緊急ニュースが流れる。
「メキシコ湾で異変が発生しました。地震ではありません」
しかし、ロビーに居合わせる数多い人々の誰ひとり、反応しない。この異常事態に右往左往しているのはふたりの大家と田中と山本、そしてあの女、リングラングとあの男、佐々木だけだった。
「これが原因だわ!」
即、田中が反応する。
「スミスはミサイルのことを知っていたのか!」
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田中の絶叫のあとふたりの大家、山本、田中、リングラング、佐々木の六人が天井のテレビに吸いこまれる。余程そのテレビの中が窮屈なのか揉み合いになる。
平面化したような山本とリングラングが重なる。
「何をするの!」
山本が叫ぶとリングラングも大声をあげる。
「離れてよ。汚らわしい」
「失礼だわ!」
透過したように見えるふたりのうち、リングラングが山本の胸ぐらを掴むと押し倒そうとする。山本も負けてはいない。
「やめろ!」
ふたりの大家と田中と佐々木が止めに入るが、どうしようもない。空港ロビーの人々が天井の巨大なテレビに気が付いてまるで喜劇でも見るように爆笑する。
「何だ、あれは」
「平たい人間が重なりあってもがいているぞ」
大きな歓声の中でふたりの女が完全に重なると一瞬色が消える。そして色を取り戻すとひとりの女になってしまう。まったく容姿の異なるふたりの女がひとりの女となった。どちらかというと体型はリングラングに近いが、顔は山本に似ている。テレビ画面を見つめる人々にはそ
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う見えた。精巧なCG(コンピュータグラフィックス)を見せられたと思ったのか大きな拍手が上がる。
今度は華奢な田中と筋骨隆々の佐々木とが重なる。そして同じように合体する。大柄な佐々木の身体を一回りほど縮ませたような体型に変化して、顔はどちらにも似ている。どうやら元々田中と佐々木の顔のパーツは配置も含めてよく似ていたのかも知れない。こちらの合体の方が観客?に受けたのか前より拍手が大きい。画面上では残されたふたりの大家がぼう然としてたたずむ。
「わしらもひとつになるのか」
一方の大家が叫ぶと、もう一方の大家が気持ち悪そうに離れる。ロビーにいる観客の中で何人かが叫ぶ。
「このふたりが合体してもおもしろくないな」
「双子の老人か」
「双子が合体しても意味ないぞ」
そんな言葉に安心したのかふたりの大家が近づく。そしてひとつの身体になった山本?リングラング?田中?佐々木?を不思議そうに見つめると揃って大声を出す。
「ここは!」
ふたりの大家もその声に反応して山本?が叫ぶ。
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「ここは!」
画面から四人の姿が消えるとテレビも消滅する。ロビーにいた人があ然として天井を見渡す。そしてその天井から声だけが聞こえてくる。
「メキシコ湾に巨大な穴が開いたようです。海水が吸いこまれています。大変なことになりました」
*
「本当におまえは田中か?」
ふたりの内、質素な服を着た大家が少し縮んだとはいえ筋骨隆々のたくましい体つきになった田中に尋ねると高級なダブルのスーツに身を固めた大家が断言する。
「こいつは佐々木じゃ。何を言っとる」
「いえ、僕は田中です」
「じゃあ、山本は」
立派な服の大家が振り返ると派手な赤いワンピースの女を指差す。
「少し顔が地味になったようじゃが、リングラングに間違いない!」
「違う!」
山本が自分の姿を確認してから、立派な服の大家を見つめる。
「私は山本。でも体型が違う。イヤだわ。こんな身体」
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そして立派な服の大家に視線を向けて言い放つ。
「もう、『パパ~』なんていう言葉は出しません」
「もういい。あれは非常に恥ずかしかった」
「意外だ。恥ずかしいという言葉を知っとるのか」
「なに!」
ふたりの大家が興奮する。田中が止めに入る。
「おふたりはなぜ合体しないんでしょうか」
「わからん」
声を揃えた返事がする。
「ややこしいから、なんとかひとつになって欲しいが、そうはいかない理由があるんだろうか」
田中が山本に目配せする。
「さあ~」
口調が今までの山本と違って色っぽいと感じたのは質素な服の大家と田中だった。
「わしはわしだ」
「わしはわしじゃ」
「まったく同じでもないんですね」
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「なにがだ」
「何がじゃ」
「『だ』』と『じゃ』。語尾が違います」
「ところでここはどこじゃ」
「田中さんの部屋ですわ」
「えーっ。今の今までアメリカにおったのに」
「このテレビです。原因は」
「そうか。マンションに戻るぞ。わしについてこい」
立派な服の大家が山本と田中に命令するとドアに向かう。質素な服の大家もドアに向かおうとしたとき、例のテレビの画面が明るくなる。田中も山本も画面に注目する。
「大西洋の海水がメキシコ湾に吸いこまれています。すごい勢いです」
上空からの映像が現れる。鳴門の渦潮なんてものじゃない。大型の台風の中心部が風でなく海水で表現されたCGのような画像がテレビの外にはみ出しそうな勢いで渦巻いている。そしてテレビからニュースが流れる。
「原因は不明です。先ほど入ってきたアメリカ国防省の発表によると、メキシコ湾上空で潜水艦と遭遇した空軍機がミサイルを発射したが、その潜水艦はミサイルが命中する直前に消えたらしい」
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「空中の潜水艦にミサイル攻撃!馬鹿も休み休みに……」
画面が変わる。恐らく戦闘機が撮影した映像なのだろう。まさしく潜水艦が空に浮かんでいる。ただしその潜水艦は骨董品のような旧式だ。戦闘機のパイロットは潜水艦と認識してミサイルを発射したのではなく「UFO」と叫んで発射ボタンを押したというニュースが続く。
「昔の潜水艦は今のずんぐりとしたメタボ型の船体ではなく、シップ型と言って普通の艦船と同じ船体だった。潜るのに艦橋が邪魔だが潜望鏡、通信アンテナ、空気の入替のためのシュノーケルが不可欠だ」
質素な服の大家が一息つくと立派な服の大家が引き継ぐ。
「それに浮上すれば周辺の状況を観察しなければならん。少しでも高いところが必要になる。簡素な艦橋が設けられたのじゃ。その艦橋のことを潜水艦では『セイル』と呼ぶんじゃ」
息の合ったふたりの大家の解説に田中と山本が感心しながら驚く。
「時代が進んだとしても潜水艦が空を飛ぶことは不可能ですよね」
「当たり前じゃ」
「だけど、潜水艦が空に浮いていたわ」
「わからん」
「宇宙潜水艦ですか」
「あほ!それは漫画の世界じゃ」
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「でも、確かに潜水艦は空に舞い上がってミサイル攻撃を受けたぞ」
「それよりも、メキシコ湾の底に向かって大量の海水が流れ込んでおると言っておった」
待ってました言わんばかりに静止していた画面に変わって新しい映像が現れる。
「どうやら、メキシコ湾の底に穴が開いて、海水が流れ込んでいるようです。原因は不明ですが、先ほどの潜水艦はこのメキシコ湾から大空に舞い上がったようです」
「流れ込むと言ったって、メキシコ湾の下が空洞でもない限り、海水が流れ込むなんて考えられない」
田中の疑問に山本が興奮した声を上げる。
「いくつもの空洞があるわ。いつかスミスさんを取材したときにフロリダ、いえ、メキシコ湾付近には地底湖がいっぱいあると聞いたわ。そこは別世界で不思議な生物が住んでいると言っていた。『不思議の国のアリス』の世界は地底の世界のことかもしれないとロマンティックな物語を聞かされた。スミスさんの話し方がうまいのか、私はすっかりその世界にのめり込んだのを今でもはっきり覚えているわ」
「この部屋は狭すぎる」
立派な大家が山本の感傷的な話に楔を打つ。
「だから、わしの高層マンションの自分の部屋にこのテレビを引っ越しさせた。佐々木も引っ越しさせてふたりでこのテレビを見て、来たるべき変化に対処したのじゃ」
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「それはレアメタルを手に入れたということですか」
「リングラング、おまえが一番よく知っていることじゃ」
「いいえ。私は山本。当然記憶にないわ」
「そんな馬鹿な!佐々木は知っているよな」
「僕も知りません。僕は田中です」
山本も田中も外見は立派な服の大家の知っているリングラングと佐々木に似ているのに、記憶は山本と田中のものだった。質素な服の大家がふたりに尋ねる。ふたりは立派な服の大家に対する態度とは遙かに違った反応を示す。
田中が迷いながら口を開く。
「ひょっとして、どこかで世界がふたつに分かれてそのときある男が僕と佐々木に分離して、ある女が山本さんとリングラングに分離した。大家さんもふたりの大家さんに分離した」
この発言に山本はキョトンとし、ふたりの大家は田中が狂ったんじゃないかと思う。
「それじゃ、リングラングと佐々木は今どこにいるの」
「ここにいるじゃないか」
山本が田中に詰めよる。ふたりの大家は声も出さずに田中と山本を見つめる。
「この身体の中に?」
「そうだ」
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「そんなのイヤだわ。絶対いやよ」
「でも、そうじゃないとしたら、あのふたりは?」
「リングラングが私の身体の中でさまよっているなんて、絶対に許せない!」
*
グレーノイズの画面になって久しい田中の部屋で沈黙がしばらく続いたあと質素な服の大家が切りだす。
「色々な出来事を解決するためにスミスに会いに行くことになったが、その前にこのもうひとりのわしに、つまりレアメタルで大儲けしたわしに遭遇した。その前には日本のどうしようもない問題点に憂いながら何とかしなければと考えた。今までの記憶を遡ればこういうことだった」
田中も山本も気だるそうに頷く。
「なあ、もうひとりの大家さん」
「なんじゃ」
立派な服の大家が身構える。
「わしらも一体化したほうがいいのでは」
「一体化すればどうなるのじゃ」
「一方が消滅するということだ」
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「死ぬということか」
「死ではない。過去の記憶が消えて、その過去の記憶に頼らない新しい世界が目の前に広がる。ただそれだけだ」
そのセリフを吐いた質素な大家以上に驚いたのは田中と山本だった。そして拒絶反応を示したのは立派な服の大家だった。
「わしはいやじゃ。おまえが消えろ」
「消えてもいいが、勝手に消えない」
「どういうことじゃ」
「いつどこで分離したのか記憶はあるか」
「ない」
「わしもない。でも、別々な存在ではない。それが無理矢理別々になっている」
「無理矢理ということは誰かが強制的に分けたということか」
「待ってください」
山本が大きな胸を揺さぶりながら割って入る。
「そのためにアメリカで出会ったんじゃないのかしら」
「そんな意識はなかったが……」
質素な服の大家が一旦否定するが、それを取り消すように頭を横に振る。
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「あっ!わしは知らんうちに……そうだ!気が付いたらマンションからアメリカに移っていた」
立派な服の大家が天を仰ぐ。しかし、質素な服の大家が一歩踏みだす。
「取りあえず、たもとを分けたあとのわしらの歩みを整理してみよう。合体はそれからでも遅くはない」
「おまえ、アホか。合体できるかどうか、わからんじゃないか」
「そうも言えん。今、合体するかも知れんぞ」
質素な服の大家が意地悪そうな笑いを浮かべると、立派な服の大家が身を引くが、何とか質素な服の大家の視線を受けとめる。少し雰囲気が緩んだところで山本が提案する。
「テレビの電源を入れ直してみるわ」
山本がリモコンのボタンを押す。グレーノイズが消えて鮮明な画像が現れると泣きじゃくる赤ん坊が現れる。画面下には「大家の超若いときの記録」という解説が表示されている。
「なんじゃこれは」
立派な服の大家の疑問に追従して質素な服の大家が山本に詰めよる。
「生まれたときの!放送局にそんな記録まであるのか」
「いえ、その、あの」
珍しく山本が狼狽える。するとすぐに画面が変わる。
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画面には刑部が未成年者の殺人事件に関する資料を提示しながら解説する姿が映しだされる。
「覚えていますか。未成年者の殺人事件の番組のこと」
「覚えておる。元警部が色んな資料を使って未成年者の殺人事件の現状とその背景や歴史的な変化を詳細に検証した興味深い番組だった」
質素な服の大家が目を閉じてその番組を思い出す。
「あほか。あんなクダらん番組に感動するとは。わしはあんな番組など見ずに数ヶ月も家賃を滞納している不届きなヤツの家に向かった」
田中の口が意思とは関係なしに開く。
「僕もですか」
「えっ」
「僕も滞納者でした」
田中は自分の言葉の違和感に思わず唇を咬んでしまう。何を誤解したのか立派な服の大家が田中に詫びる。
「いや、佐々木、いや、田中さんは別扱いじゃ。このテレビを無料で見せて貰ったから、家賃と視聴料を相殺したのじゃ」
田中が唇から血を滴らす。
「ちょっと話がそれたみたい。僕も佐々木と同じように家賃の集金をしたのでしょうか」
[270]
「確か、一緒に集金に行ったはずじゃが……」
立派な服の大家は田中の口元を見て言葉を止める。そして小ひざをパンと叩く。
「思い出したぞ。なんだかんだと理屈を並べて言い訳する店子に罵声を浴びせたとき、佐々木が、そうだ!佐々木だ。佐々木が割って入った」
急に田中に変化が現れる。
「僕も思い出しました」
この言葉に一番驚いたのは質素な服の大家や山本ではなく、田中自身だった。なぜ急に思い出したのか理解できなかった。しかし、別の記憶が田中の強い疑義意識を破壊していく。そしてそれは完全に破壊された。
「ちょっと待ってください」
山本がハンカチを持って田中に近づく。田中が山本に顔を向けると山本の手が伸びる。
「動かないで」
山本が血に染まった田中の口元をハンカチで撫ぜる。田中は赤く染まったハンカチに視線を向けるが、すぐ立派な服の大家に戻す。
「あのテレビを大家さんにお貸ししますから、今しばらく家賃の支払いの猶予をしてやってくださいって頼みましたね」
「そうじゃ」
[271]
「ちょっと!待って!おかしいわ!」
今度の山本の声は叫び声に近かった。
「大家さんと店子に割って入ったのは田中さん?佐々木?どちらなの」
「僕だ」「佐々木だ」
田中と立派な服の大家が同時に答える。
「うーん」
山本が唸ると一旦うつむいてから、顔をあげて立派な服の大家に尖った視線を向ける。
「体つきはどうでした?大柄?それとも……」
「大柄じゃ。大男じゃ」
「じゃあ、田中さんじゃないわ」
「僕だ。僕がその店子の家賃をもう少し待ってくれるように大家さんにお願いしたんだ」
質素な服の大家が口を挟む。
「わしは田中さんに集金の手伝いはおろか、田中さんからそんな頼みを聞いたことはない」
そのとき立派な服の大家から質素な服の大家に視線を移した田中がヒザから崩れる。山本が田中に近づくと心配そうに尋ねる。
「大丈夫?ちょっと教えて欲しいことがあるの」
田中は黙って頷く。
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「家賃を滞納していた店子ってどんな人?」
「若い女でした。そう、国籍不明の!」
田中が目を大きく見開くと瞬きもせずに山本をじっと見つめる。
「あなたです。リングラング。あなたです」
「わたしは山本。リングラングじゃないわ!」
今度は山本が自制心を失って顔と大きな胸を激しく横に振る。山本は自分の心の中にリングラングの血が流れているような戦慄を覚える。
「やめて!やめてぇー!」
叫び声のあと大きな音を残して山本?リングラング?が倒れる。
*
「いやだわ。私の身体にあんな女の血が、いえ、そんな生やさしいものじゃない。私の身体の半分があの女の細胞だなんて耐えられない」
「大家さんの細胞でなくてよかったじゃないか。同じ女性で」
田中としては最大の慰めの言葉を披露したと思っていたが、山本はおろかふたりの大家からも非難される。「女が女をはむ」と女性の山本の感覚を独身の田中に理解できるはずもない。それに対してふたりの大家が田中を非難したのは単なるヒガミに過ぎなかった。
「山本さん、今さら立派な大家の立志映像なんか見ても先のことが変わるわけでもあるまい。
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これから役に立つような映像はないのか」
質素な服の大家が山本にリクエストする。
「同感です。でも、ほとほと疲れました。どこかの国の政治家や官僚のように過去の責任なんか取りようもないと開き直って前向きに生きましょう」
「それは少し違うな。その国の政治家や官僚は過去だけではなく将来に対しても当然責任を持って対処しようとはしない」
「せっかくポジティブに前進しようとしていたのに」
山本が口をとんがらかして質素な服の大家に不満をぶつける。
「決してそういう意味でいったんじゃない。ゴメン。許してくれ」
「分かりました。過去?未来?どちらでもいいわ。現実を真剣に考えましょう」
「同感だ」「そのとおりだ」「なるほど」
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