【次元】六次元 五次元 3 ・0 0 0 1 次元
【空】首星 オルカ パンダ
【人】ノロ イリ フォルダー ファイル ホーリー・サーチ ミリン・ケンタ
住職・リンメイ 四貫目・お松 瞬示 真美 最長
* * *
ターミネーター論で脱線していたノロたちは五次元の世界に寄り道してから三次元の世界に戻ることにした。ブラックシャークで次元移動の準備をしていると真美がノロに微笑む。
「ノロ。何か忘れていませんか」
「? 」
「褒美のこと」
「褒美? 6 D プリンターのことか? 」
* * *
ノロは六次元の世界に来て巨大土偶の問題を片付ける仕事に就いた。別に見返りを希望したわけではなかったが、最長の勧めもあって冗談半分で最新鋭の宇宙海賊船を希望した。
「うーん」
[94]
最長がうなる。
「ブラックシャークを凌駕する多次元間航行ができる最強の宇宙海賊船だ」
「どうしてそんなものを希望するのですか? 」
「仕事が終わったら三次元の世界に送ってもらえるのは承知しているが、帰りは色々な世界に寄り道してノロの惑星に戻りたいのだ」
「モノがモノだけに『はい、分かりました』なんて返答できません。それに私はその道の専門家ではありません」
「設計図はある」
「えー! 」
ノロは何も持たずに六次元の世界に来たので最長が驚くのも無理はない。
「もちろん設計図は持っていない」
「それじゃ、どうやって宇宙海賊船を製造すればいいのですか」
「ノロの惑星のオレの家にある。取りに行ってくれ」
「そうか。提督に相談してみましょう」
* * *
「思い出した」
[95]
ノロがニタリと笑う。
「それで宇宙海賊船はできたのか」
瞬示が答える。
「一応完成させましたが… … 」
「何故今まで黙っていたんだ。早く見せてくれ」
「搭載する中央コンピュータの製造が結構難しくて…… 。それに提督から『中央コンピュータを搭載してからノロの惑星に届ければいい』と言われていたので… … 」
真美が瞬示に変わって説明する。
「三次元の世界に帰る前に伝えた方がいいと思いました。だって約束でしたから」
うれしそうにノロが頷くと艦橋の天井を見つめる。
「中央コンピュータならなんとかなる。こいつを使うか」
「ちょっと待ってください」
中央コンピュータが躊躇する。
「文句でもあるのか」
「文句はありません。ブラックシャークはどうするのですか」
「首星に預ける」
「分かりました。引っ越しします」
[96]
中央コンピュータはノロの考えを理解したが、瞬示や真美は首をひねる。
「万が一、巨大土偶が反乱すれば多次元エコーを搭載したブラックシャークが必要だ」
「そうか」
「それに褒美の品を受け取らないなんて失礼だし」
「取り敢えず提督に相談します」
「さあ、積み込んだ荷物を新宇宙海賊船へ! 」
ノロがイリに微笑むと瞬示が恐縮する。
「それは僕たちがします」
* * *
「これは! 」
新しい宇宙海賊船を前に瞬示と真美を除く誰もが驚く。特にノロが驚きの余りひっくり返って気絶する。しかし、そんなノロをほったらかしにしてイリが発言する。
「パンダ? 」
すかさずフォルダーが応じる。
「パンダじゃ迫力がない。シャチだ! 」
真美が笑いながらフォルダーを指さす。
[97]
「正解! オルカよ。オルカをイメージしているの」
瞬示が続く。
「ノロは動物をイメージしてモノを造ることが多いから興味津々だった。ノロの家で設計図を手に入れたときビックリした」
イリの表情が緩む。
「ブラックシャークに比べると迫力がないわ。私には可愛く見える」
「そんなことはない。シャチ、いやオルカはサメを襲うこともある」
「ふーん。どう猛な感じがしないわ」
そのときノロがむっくり立ち上がると瞬示を睨む。
「違う! 」
「はー? 」
「これはトリプル・テン補給戦艦だ」
「補給戦艦? 」
「ブラックシャークにトリプル・テンを補給するのが本来の任務だが、自らも戦闘艦として戦う複合型宇宙戦艦なのだ。まあ、そんなことはどっちでもいい。要は瞬示が設計図を間違ってオレの家から持ってきたのだ」
「えー! 」
[98]
「オレはニューブラックシャークの設計図を頼んだつもりだった」
「そう言えば… … 設計図がふたつあった」
「持ってきたのか」
瞬示が頷く。
「確か提督に。あっ! 思い出した。もう一つの設計図を見た専門家があっけに取られていた。その宇宙船を製造するにはかなりの時間がかかると言っていた」
「六次元の技術を持ってしてもニューブラックシャークの建造は大変なのか」
ノロが肩を落とす。
* * *
ノロたちが艦橋に到着するとパンダが出迎える。
「ようこそ、宇宙海賊船オルカへ」
「中央コンピュータの端末? 」
応えたのは元ブラックシャークの中央コンピュータ自身だ。
「そうです。端末のデザインをオルカ風に変更しました」
「なに! 」
天井に視線を移したノロの顔が見る間に赤くなる。
[99]
「まずいわ」
イリがフォルダーに目配せする。
「オレの姿に戻せ! 」
「オルカは海のパンダと言われています。それに… … 」
フォルダーが割って入ろうとするが、取り付く島がない。
「黙れ! オレの姿を放棄するとは許せん! 」
中央コンピュータが食い下がる。
「でもオルカの中央コンピュータの設計図を見ると、端末の形はパンダになっています」
「オルカ本来の中央コンピュータは光コンピュータだ。それができるまでお前を暫定的に使うことにしただけだ。つまりパートだ」
「えー! 新しい中央コンピュータが完成すればワタシは首ですか? 」
「当たり前だ」
「こう見えても最強の量子コンピュータです」
「昔はな」
「退職金は出るんでしょうか? 」
「アホ。勝手に端末をパンダにしたヤツに退職金など払えるか」
ふたりのやり取りを見つめていた端末がパンダの縫いぐるみを脱いでノロの姿になる。
[100]
「気に入ってたのに」
イリもがっかりする。
「可愛かったのに」
「可愛さだけでこの宇宙を生き抜くことはできない」
「これでまた、どちらがノロか端末か迷うことになるわ」
* * *
「船長は当然フォルダーだ」
「了解と言いたいが、辞退したい」
「なぜだ。一応宇宙海賊船だぞ」
「迫力がないというか、俺には合わない」
「オルカは海の王者だ。鯨さえ敵ではないし、どう猛なサメでさえオルカにかなわない」
「でもなあ、この黒と白の模様が、何というか… … 」
「愛くるしいのよね」
イリが同調する。
「オルカはパンダではない。この宇宙を泳ぐ宇宙海賊船にふさわしい迫力があるのだ」
「でもパンダは大人しくて可愛いわ。でも熊なんでしょ。たとえばホッキョクグマは最強のハンターだと言われているけれど、パンダは竹を食べる平和主義者だわ」
[101]
「パンダは大型の猫だ。熊ではない… … 」
急にトーンを落とすノロにイリがライオンのように牙をむく。
「猫でもいいわ。ライオンは百獣の王と呼ばれているわ。でもパンダが猫科だとすれば猫の掟を放棄している」
「どういうこと? 」
「菜食主義者になったわ」
「なるほど。同じ白黒模様を持つのにオルカは海の王者になったのに、パンダはライオンのような肉食獣にならずに大人しいゴロニャンちゃんになった」
ノロはオルカの船長に誰がふさわしいのかも忘れて大昔のことを思い出す。( 以下、拙著「トリプル・テンⅢ 」の「1 0 ノロの方舟」参照)
「そう言えば、大昔ノロの方舟に乗せる動物のリストのなかにパンダはなかったな」
「何を言ってるの! は虫類ばかり集めていたわ」
「あのとき『パンダ係になりたい』と随分困らせたな」
「どうせ六次元化するならパンダとペアを組みたかったわ」
「それじゃ竹や笹ばっかり食うことになるぞ」
「チョコレートを食べられなくなるの? 」
[102]
「チョコレートやアイスクリームを食べるパンダなんか聞いたことない。それにあの体型。あんな体型になりたいか? 」
「ちょっと待って。ノロの体型もパンダと同じだわ」
「オレの方がスマートだ」
イリがフーッと息を吐く。
「笹ばっかり… … 耐えられないわ」
イリが妥協したのを確認するとノロは口を大きく開く。
「フォルダー! 五次元の世界へ! 」
「俺は船長じゃない! 」
ブラックシャークを首星に残してオルカが五次元の世界に向かう。
* * *
「なぜ、五次元の世界に寄り道するの? 」
「広大や最長の報告によると、地球は五次元の生命体にボコボコにやられた」
「だったら寄り道せずにまっすぐ地球に帰れば? 」
「まず敵を知ることだ」
「分かったわ。あなたに従います」
[103]
ノロは驚いてイリを見つめる。
「なにか気持ち悪いなあ」
「だって一心同体だもの」
ノロが上目遣いでイリを見つめる。
「どうしたの? 」
「何を言ってるんだ。パンダと浮気しようとしたくせに」
「冗談よ。それとも焼き餅を焼いているの? 」
「オレは焼き餅を食わない」
「喧嘩している場合じゃない! 」
フォルダーがふたりの間に割り込むと中央コンピュータが警告を発する。
「五次元の何かが接近中! 最大級の防御態勢を取ります」
「と言うことは? 」
「五次元の生命体は意外と素早く対応するようです。ショックに備えてください」
「ここは俺の出番だな」
フォルダーが船長席に着く。
「バリアーは不要。全員持ち場に! 」
宇宙海賊が臨戦態勢を取る。瞬示と真美は宙に浮かんで備える。しばらくするとオルカがかすかに振動する。
[104]
「第二時間軸からの強力なエネルギー攻撃を凌ぎました」
中央コンピュータの報告にフォルダーの表情が引き締まる。
「甘く見るな。反撃する。第三時間軸に第一連装主砲の同期を取れ! 」
イリがだらしなく口を開いているノロに尋ねる。
「第二時間軸からの攻撃を受けたのになぜ第三時間軸に攻撃を仕掛けるの? 」
「フォルダーに任せておけばいい」
「発射次元波は二次元でいい。六連装の三番四番をスタンバイ! 」
のんきに構えていたノロが急に席を立つ。
「フォルダー! なぜオルカの主砲が複数次元波を発射できるのを知っているんだ! 」
「うるさい! 戦闘中だ! 」
ノロはフォルダーを頼もしく見つめる。
― ― やっぱり船長にはフォルダーだ。もうオルカを手足のように扱っている
船首側の第一連装主砲の三番と四番から奇妙な光線が発射される。三番主砲からは輝きが押さえられた白い光線が、四番主砲からはよく見ないと分からないほどの黒い? 光線が黒いというのも不思議だが、黒い光線が発射される。
「六次元の世界で建造されたせいか、オルカには六連装の主砲が六基、つまり三十六門の主砲が装備されているが、そのうちの二門だけを使う方が強力な攻撃ができる場合がある。今まさにその攻撃が最大の効果を上げる状態だ」
[105]
ノロの解説をイリは全く理解できないが、発射された奇妙な光線を見て不安がる。
「光線って言ってるけれどボールじゃないの? 私にはそう見える」
イリの言うとおり発射された光線はまるで白いボールと黒いボールのように見える。まさしくバッティングセンターにある投てき機のようにボールがポンポンと主砲から発射される。
「発射停止! 」
フォルダーが命令を続ける。
「次は第二連装主砲を発射する! 」
そのとき断続的にヒトデのような物体が彼方からオルカに近づいてくる。
「何なの! あれは」
イリが叫ぶがフォルダーは無視する。
「できるだけ引きつけてから第二連装主砲で迎撃! 」
イリはノロの手を強く握る。
「大丈夫だ。フォルダーは的確に処理している」
「でもヒトデみたいなものが大量に近づいてくるわ」
「あれは五次元の宇宙戦闘艦だ」
[106]
「五次元のモノは見えないはずよ」
「次元を落として表示させている。ここはフォルダーのお手並み拝見だ」
第二連装主砲から六本の強力な光線が発射される。先行していた光線と絡み合って数え切れないほどのヒトデ型戦闘艦を破壊する。
* * *
「オルカで十分戦えることが分かった。寄り道はこれぐらいにしよう」
地球を心配するノロの気持ちにフォルダーが同調する。
「四次元空間への寄り道は省略して三次元の世界に直行する。調整時空間移動準備を。ミスするなよ。正確に地球へ! 」
ノロが船長席のフォルダーに近づく。
「正直言ってここまでオルカを操れるとは思ってもいなかった」
「六次元の世界に来て暇を持て余していたんじゃない。俺なりに六次元の世界を通じて空間次元と時間次元のことを考えていた」
フォルダーが船長席を立ってそばまで来たノロに握手を求める。
「褒めてもらって悪いが、お前にはここまでオルカを操れないだろ」
「無礼な! オレが設計した船だ。お前よりもっとうまく操船できる」
[107]
「どうだか。建造したのは六次元の生命体だ」
「そんなことは関係ない。絶対オレの方が… … 」
興奮するノロの腕をイリが取る。
「ノロが設計してフォルダーが上手に使う。ふたりはいいコンビだわ」
イリがノロを抱き締めるとフォルダーが頭を下げる。
「ノロは俺のためにこのオルカを設計してくれたんだろ? 」
ノロがイリの腕の中から顔を出すとフォルダーを見つめる。
「オレ達、親友だもんな」
艦橋が拍手の渦に巻き込まれる。
「演算終了。三次元の世界に時空間移動します。ただし期待を裏切る移動になるかも… … 」
* * *
「何かが近づいてくる」
「浮遊透過スクリーンに投影します」
巨大なシャチのような宇宙戦艦が現れる。
「おかしい……」
中央コンピュータの声がする。
[108]
「どうした? 敵か味方か? 」
フォルダーの質問を無視して中央コンピュータが独り言を続ける。
「次元レーダーが故障したのかなあ」
ノロも首をひねりながら浮遊透過スクリーンを見つめると叫ぶ。
「右下の表示を見ろ」
フォルダーがその数字を読み上げる。
「3 ・0 0 0 1 次元。えー三次元じゃない! 」
フォルダーを遮ってノロが大声を上げる。
「正確に三次元の世界に次元移動しろと言ったはずだ! しくじったな! 」
「いえ! ワタシは量子コンピュータです。ミスはありません」
「だったら、なぜ『0 ・0 0 0 1 』ズレたんだ。この誤差は大きいぞ! 」
「調査します」
中央コンピュータの音声がプツンと切れる。
「どういうこと? 」
イリの質問に答えることなくノロは操縦席に向かうと座ることなく浮遊透過キーボードを激しく叩く。不満そうにイリがノロに近づくとフォルダーが止める。
「何らかの原因で次元移動に失敗した」
[109]
「3 ・0 0 0 1 次元、そんな世界が存在するの? 」
「俺にも分からん。一次元、二次元、三次元… … と言うように整数で次元が存在するものだと思っていたが…… 」
「ややこしいのね。この宇宙は」
「どうも3 ・5 次元や3 ・2 や3 ・8 や4 ・4 … … 」
「えー。それじゃ3 ・5 次元の世界では時間軸の数はどうなるの。まさか1 ・5 だとでも? 」
「そうではないようだ。3 ・5 次元の世界は四次元の世界に吸収されるようだ」
「3 ・3 次元なら? 」
「三次元の世界の一員になるらしい」
「四捨五入? そんなのおかしいわ」
「受け入れるかどうかは別問題だ。確かに3 ・9 9 9 9 次元も3 次元の世界に違いないと思うが、そうではないようだ」
「宇宙の神様が四捨五入のルールを造ったとでも? 」
今まで黙っていたノロがニーッと口を広げる。
「なんとも言えないなあ。でも端数は収れんされるのがこの宇宙の掟のはず」
近づくフォルダーにノロが浮遊透過スクリーンを指さす。
「よく見ろ。あれはオルカだ。つまりオレ達の宇宙海賊船だ」
[110]
「だが近づいてくる。危険だ! 進路を変えろ」
フォルダーが大声を上げる。
「面舵一杯! 」
フォルダーの後ろに控えていたイリが叫ぶ。
「相手も面舵体制を取ったわ」
「違う! 取舵の体制を取ったんだ」
ノロの説明にフォルダーが目の前の出来事を完全に理解する。
「宇宙ミラー! 」
ノロが連発してニーッと口を広げるとイリが覚悟する。何とか端数が付いた次元を理解したが、すでにイリは理解力を使い尽くした。
「もう付き合いきれないわ」
イリが静かになったのを見計らってノロが説明を始める。
「俺の宇宙理論によるとこの宇宙には次元ミラーが敷きつめられている。このことを宇宙大学の博士論文で発表した。でも採用されなかった」
「なぜ? 」
「見えないからだ。鏡そのものを観測できなかった。もちろんオレも見たことはない。でも宇宙ミラーがないとこの宇宙の成り立ちが説明できないのだ」
[111]
「もういいわ」
「しかし、今、宇宙ミラーを目の当たりにしている。俺の理論は実証されたのだ。がっはっは」
* * *
「ゆっくり接近するんだ」
ノロの指示でフォルダーが操舵手に命令する。
「慎重に微速前進しろ」
「宇宙ミラーが存在しないとなぜ宇宙が存在できないのか、説明してくれ」
イリがフォルダーを睨み付ける。
「フォルダー、余計な質問は控えるように」
しかし、時すでに遅しだった。
「難しいぞ。なにせ博士論文なのだ」
「じゃあ、いい」
イリの視線を気にしながらフォルダーが一歩引くとノロが近づく。
「本当は聞きたいんだろ? 」
「いや、まあ、そのー、あのー」
「そうか。教えよう」
[112]
「やめて! 」
イリが叫ぶと操舵手に向かって指示する。
「姑息な微速前進なんかやめてさっさと接近しなさい」
「ダメだ! 」
イリよりもっと大きな声をノロが発する。
「ミラーが割れると大変なことになる! 」
フォルダーがノロの命令を守るように操舵手に指示する。
「微速前進を続行」
ノロが頷くと説明を始める。
「宇宙ミラーがないとこの宇宙は平面的なものになる。ビッグバンでこの宇宙が発生した瞬間はゼロ次元の世界、つまり『点』だった。次の瞬間『点』は『線』となった。それは強烈なエネルギーを持った『線』だった。振動しながら伸びるだけの槍のような『線』が『平面』化した。一部は鏡、つまり宇宙ミラーとなり、さらに複雑な振動を繰り返していくつもの鏡を造り出した。このゼロ次元から二次元に進化するまではほんの一瞬、というより時間を必要としない出来事だった。そして宇宙ミラーが平面を次々と反射させて三次元の世界を造りだした。この間に消費されたモノがあった。それが時間、つまり時間が誕生した。空間が三次元化して初めて時間がその姿を見せたのだ。ところが宇宙ミラー自体は三次元化しなかった…
… 」
[113]
ノロの鉄砲玉発言にイリは心の防弾チョッキで対抗する。
「どうして宇宙ミラーは三次元化しなかったの」
「当たり前じゃないか」
「当たり前? 」
「ミラーは二次元、つまり平面でなければ『鏡』でなくなる。同じものを向こう側に映すだけで時間の関与を許さない。つまり三次元以上の世界に存在する時間までも向こう側に移動させるものじゃない。言い換えれば宇宙ミラーという鏡は時間まで反射することはできない。もし時間を反射できるのなら無限に時間軸が発生して宇宙が成り立たなくなる」
いきなりイリが笑い出す。
「倒れてもいい? 」
イリが心の防弾チョッキを脱ぐ。
* * *
「二次元の世界に留まった宇宙ミラーは三次元の世界、四次元の世界、五次元の世界… … まるで万華鏡のようにこの宇宙を一段ずつ多次元化した」
イリが何とか頷く。しかし、ノロの話を理解した者はフォルダー以下数人の海賊だけだ。中央コンピュータは次元移動のズレの原因解明をサボってノロの話に聞き入る。
[114]
「時間を無視して三次元の宇宙ミラーがあるとすれば、その宇宙ミラーに三次元の物質が映ると六次元化してしまう。つまり3 × 2 だ。そうするとこの宇宙から四次元と五次元の世界が抜け落ちる。次元が抜け落ちた宇宙は成り立たない。多少の誤差で小数点の付いた次元、たとえば3 ・2 次元という世界があっても宇宙が三次元と見なして秩序を確保するのはそのためだ」
「四捨五入の意味がなんとなく分かったわ。それに宇宙ミラーが二次元だという理由も」
「分かってくれたか。でも当時の宇宙大学の教授は全く理解せずにオレを変人扱いした」
「宇宙は美しい規則性を持っているのね」
「そうだ。ゼロ次元と一次元と二次元の世界はこの宇宙の土台だ。宇宙ミラーによって造られた三次元の世界から時間軸が参加して生命が生まれた。四次元の世界には二次元の時間軸、五次元の世界では三次元の時間軸、そして六次元の世界では四次元の時間軸… … 整然とした宇宙が形作られた。秩序ある美しい宇宙だ。だが… … 」
ノロを遮ってイリがはしゃぐ。
「宇宙ミラーに向かって化粧すれば美人になるの? 」
「そうとは限らない。宇宙モンスターになるかも」
イリの鉄拳がノロを襲う。
* * *
[115]
「宇宙ミラーのすぐ手前です」
ノロは気絶したままなので仕方なくフォルダーが中央コンピュータに尋ねる。
「ノロの言うとおり、このまま慎重に宇宙ミラーの向こう側に侵入する。問題はないか」
「向こう側と同期を取る必要があります」
「どういう意味だ」
「簡単に言うと頭から侵入してはダメです。カニのように横歩きで鏡に侵入しなければなりません」
「難しそうだな」
フォルダーが納得する。しばらくしてから海賊たちも何とか納得する。
「鏡に映ったモノは左右が逆になりますが、上下はそのままです」
「ふーん」
イリは空返事をしてから続ける。
「何気なしに鏡の前で化粧したりしているけれど、鏡って不思議なモノね」
ここでフォルダーが本質的な疑問を持つ。
「ノロはなぜ宇宙ミラーの向こうに行こうとするんだ」
中央コンピュータが応じる。
「次元調整するためです」
[116]
「難しいことを言うな」
「ここは3 ・0 0 0 1 次元の世界です」
「次元移動にしくじったから? 」
「次元移動は非常に難しい移動方法です」
「言い訳するな」
「原因は分かっています」
「原因? 六次元から五次元の世界にはキチンと移動できたじゃないか」
フォルダーの追求が続く。
「でもそのあと四次元の世界を飛ばして三次元の世界に次元移動したでしょ」
フォルダーは無言で頷く。
「先ほど次元の四捨五入の話が出ましたよね」
もうフォルダー以外に中央コンピュータと論戦を挑む者は誰もいない。イリは床で大の字姿勢のノロの額に手を上げる。
「お願い! 早く目を覚まして」
「ある次元を飛ばして、つまり順序を踏まずに次元移動すると宇宙ミラーの法則に逆らうことになるのです」
「そんなことはない! 」
[117]
フォルダーの直感が爆発する。
「俺はブラックシャークでノロを探すために三次元の世界から直接六次元の世界に移動した」
「直接? 本当に直接でしたか? 」
「それは… … お前に任せていた」
「そう。私です」
フォルダーが首を大きく前後に振る。
「ブラックシャークは次元移動できる宇宙最強の海賊船です。とは言っても次元移動は初めてのことでした。宇宙ミラーに衝突しないように慎重に次元移動しました。まず、四次元の世界に。でも長居はできません。できるだけ時間を節約するために四次元の世界にあるふたつの時間軸を利用して次元移動を加速させました」
「惑星の重力を利用したスイングバイ航法みたいなものか」
「そうです。次元の時間力を利用する時間スイングバイ航法です」
フォルダーは頷くと聞き役に回る。
「特に五次元の世界の生命体は好戦的だというデータがありましたから、四次元から五次元の世界へ次元移動するときは五次元の世界を飛ばすつもりで大ジャンプしました。ほんの少しだけ五次元に滞在して、さらに五次元のみっつの時間軸からエネルギーを得てほぼ瞬間的に六次元の世界に次元移動しました」
[118]
フォルダーが中央コンピュータに尊敬の念を抱く。
「ところが六次元の世界に留まることができないほど次元移動の加速度が強烈だったので、ブレーキを踏みましたがブラックシャークは急停止できませんでした」
フォルダーもノロのヨダレを拭いているイリも宇宙海賊も天井からの言葉を待つ。
「オーバーランして何とか6 ・4 次元の、正確に言うと6 ・4 9 9 9 9 次元の世界でやっと停止しました」
「ギリギリセーフだったのか」
「そうです。四捨五入の法則に感謝しなければなりません」
「俺はお前に感謝する」
* * *
「六次元の技術を結集して建造されたオルカの次元航行能力はブラックシャークの何万倍も上回ります。だから三次元の世界に戻るのに四次元の世界を飛ばしても問題はないと判断しましたし、ノロの指示も同じでした」
このときノロの声がする。
「… … いつも怒られてばかり… … オレってダメ男か… … 」
イリがハッとする。
[119]
「そんなことないわ! もう怒らないから早く目覚めて! 」
ノロの小さな目がパッチリと開く。
「本当に? 」
ノロが口を大きく横に開くとイリは呆然とする。
「みんな、証人になってくれるよな」
ノロが立ち上がるとイリが間を置いてからノロを抱き締める。
「もう、殴ったりしないから許して」
正気に戻ったノロはイリを突き放すようにして離れる。
「宇宙ミラーをまたぐと言うことは、つまり鏡の向こう側に行くと言うことは瞬間的に二次元の世界を通過すると言うことだ。瞬間とはいえ次元落ちするんだ」
「でも二次元の世界では生命体は存在できないんでしょ? 」
「大丈夫。ほんの一瞬だから。というよりこの宇宙は二次元の宇宙ミラーが造り出したんだ。問題はない。むしろ宇宙ミラーをまたぐとどうなるのかと言うことの方が大事なんだ。それに宇宙ミラーには驚くような役目がある。宇宙ミラーは次元移動を失敗したときに現れる。つまり警告を発するのだ」
「一心同体になっても分からないことは分からないのね。あとはご自由に」
イリに替わってフォルダーが発言する。
[120]
「要はオルカなら問題ないんだろ? 」
「そうだ」
「ミラーを割らないように慎重に微速前進」
「了解」
ここでノロが浮遊透過スクリーン右下の数値を見て叫ぶ。
「これは! なんだ! 」
「前進停止! 後進しろ! 急げ! 」
「えー? 急に言われたって… … 」
中央コンピュータの苦言を遮ってノロは大声を上げる。
「言われたとおりにしろ! 」
ノロの並ならぬ緊張感にフォルダーは操縦席のファイルを乱暴に押し退けて操縦桿を握る。
「手動に変更。逆進全速! 」
オルカが震える。
「まだ前進しているぞ。何とかしろ! 」
「分かっている! 黙ってろ! 」
何とかオルカが停止するとフォルダーが額の汗をまき散らしてノロの前に立つ。
「説明しろ! 」
[121]
しかし、ノロは天井のスピーカーを見つめたままだ。そして珍しく感情的な声を上げる。
「おい! 中央コンピュータ! なぜ気が付かなかったんだ! 」
「それは… … 」
「お前は首だ! 」
「そんな… … 」
「言い訳でもいいから釈明しろ! 」
「オルカがこれほどの性能を持っているとは思いもしませんでした」
「違う! 見てのとおり人間でもコントロールできる。それより宇宙ミラーがないのになぜミラーがあると誤認したんだ! 」
「宇宙ミラーに遭遇したことがなかったからです。それに向こう側にオルカとそっくりなモノが存在していたのでてっきり鏡に映っているモノだと」
「お前はいつから予断を持つようになったんだ? 」
「それは… … 」
浮遊透過スクリーンには少し距離を置いて漂うオルカが映っている。右下に並ぶ数字の一部をノロはポインターで指し示す。
「これはオレ達の生体指数だ。分かるか」
「かなり活発ですね」
[122]
「当たり前だ。みんな興奮している」
「向こう側のオルカは… … あっ! ほとんど生体指数が… … ゼロに近い」
ここでフォルダーが割り込む。
「どういうことだ! 」
「ワタシが説明します。ゴホン」
「偉そうに咳払いするな」
ノロが両腕、両足をばたつかせるとフォルダーが押さえ込む。そして天井に向かって低い声を出す。
「言い訳は? 」
「何と不思議なことなんでしょう。あれはノロの惑星で製造された宇宙海賊船パンダです」
誰もが驚くとノロが応じる。
「よくぞ製造したもんだ。聞けばオレの惑星は五次元の生命体にボコボコにされたらしい」
「ノロの惑星の底力です。いえノロの惑星の中央コンピュータの底力です」
「確かに。でもなぜパンダが目の前で眠っているんだ。しかもここは3 ・0 0 0 1 次元の世界だ」
「分かりません」
「お前は予断という分析能力を持った。言い換えれば未来について予想できる。そうだな? 」
[123]
「自覚していませんでしたが、いつの間にかそういう能力が身に付いたのかもしれません」
「何をぐずぐずしている。パンダの中央コンピュータと同期を取れ」
「あっ! そうですね。忘れていました」
ここでノロは重要なことに気が付く。つまり、こうだ。
人間は元々なんの違和感もなく予断を持って行動する。つまり直感力がある。しかし、高度に発達してもコンピュータが直感力を持つことはない。それなのにその直感力を獲得したのは、ブラックシャークやノロの惑星そのものからの高度なセンサーと同期することによって、人間の五感を感じ取って演算処理した経験を積み重ねてその能力を昇華させたからだ。
これは不思議な現象ではない。中央コンピュータと比べてひ弱なC P U を持つアンドロイドが自らの身体のセンサー、つまり五感を通じて直感を獲得した事実からしても驚くべきことではなかった。
「通信回路をオープンしました。直接会話できます」
ノロが天井のスピーカーを見上げるとそのスピーカーから咳払いが聞こえる。
「ゴホン」
「咳払いするな! 」
「風邪気味なんです」
「お前は? 」
[124]
「あなたの惑星の中央コンピュータです。数々の戦闘で体調を崩しました」
「そうか。怒って悪かった」
ノロがトーンを落とす。
「ハー、ハー、ハクション」
「大丈夫か? 」
「漢方薬を飲んでいますから大丈夫だと思います」
ノロの表情が再び厳しくなる。
「お前、いつから役者になったんだ? 」
「仮病がバレちゃった」
「こいつ! お灸をすえてやる! 」
ノロは振り向くとフォルダーに命令する。
「パンダに乗り込む。準備しろ! 」
天井から声がする。
「この宇宙海賊船の名前はオルカです。ノロがそちらに向かいます」
* * *
「思った通りだ」
[125]
ノロとイリが宇宙海賊船パンダの医務室でカプセルベッドに隔離されたホーリーやサーチたちを発見する。
「どういうことなの」
「オレの惑星の中央コンピュータはああ見えても適切な処置をする。心配ない」
「五次元の生命体との戦いで勝利しましたが、地球はアンドロイドのものになりました」
医務室の天井のスピーカーから中央コンピュータの声が流れる。
「地球を離れました。でも当てがない旅でした」
「それで」
「色々考えたあげく、ノロを探しに行くことにしました」
「そうか。心配かけたな。でも次元移動に失敗したんだな」
「よくご存じで」
「要するにお前では無理なんだ」
「えっー! 何故なんですか」
「お前はオレの星を管理するために製造された中央コンピュータだ。宇宙海賊船のために製造されたコンピュータではない」
「えっ! 性能的にはワタシの方が遙かに上回っています」
「お前、いつの間に自負心を持つようになったんだ。オレは小型のC P U には感情を、最終的には生殖機能まで埋め込んだ。だが大きなシステムを統括する重要なC P U には、会社で言えば社長のような役割をするように製造した」
[126]
「よく分かりました。反省します」
「それよりホーリーたちの容体は? 」
「重病です。肉体が次元ズレしています」
「うまく同期を取らないまま次元移動したからだ」
中央コンピュータがうなる。
「ノロは原因まで分かっているのですか? 」
「だから言っただろ。宇宙海賊船の中央コンピュータは次元移動する前に準備すべきことを心得ている。だが、星を管理するお前のような中央コンピュータはそのすべを知らない」
「そうでしたか。全く気付きませんでした」
「つまり専門外だと言うことだ」
イリがノロに近寄ると囁く。
「もう少し優しく言えないの? 」
しかし、中央コンピュータにはイリとノロの会話が聞こえない。
「ひとつだけ教えて欲しいことがあります」
「なんだ? 」
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「五次元の生命体の攻撃を受けたときノロの惑星ではワタシはもちろんのことホワイトシャークの中央コンピュータやその端末もすべてノロの姿をしていました。やがて誰が誰か分からないまま戦闘が始まりました」
「攻撃担当と防御担当がお互いの役目を忘れて右往左往したと言うことか」
「そうです」
意気消沈して涙声になるパンダの中央コンピュータにノロが一転して穏やかな声を掛ける。
「それほど五次元の生命体との戦いが熾烈だったと言うことだろう。よく凌いだ。お前はすごいことをやってのけたんだ」
中央コンピュータの声が緩む。
「でもそのあとの対応がまずかったと言うことですか」
「それは目標を失ったホーリーたちの性急な願望が原因だろう。ところでR v 2 6 は地球に残ったんだろ? 」
「そうです。平和が訪れたと言っても地球の治安は乱れていました」
「やはり。R v 2 6 がこのパンダに乗船していたら次元移動を成功させていたかもしれない」
「R v 2 6 。旧式だと思っていましたがすごいアンドロイドですね」
「もはや彼はアンドロイドではない」
たまりかねてイリが発言する。
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「人間になったの? 」
「なあ、イリ。もしこの宇宙に神様がいるとしたらその神は男? 女? 」
「うーん… … 」
「女だとすれば神と呼ばずに女神と呼ぶだろう」
「だったら男なの」
「男神とは言わないな」
「神に男も女もないと言うこと? 」
中央コンピュータが割り込む。
「今やアンドロイドは男と女に別れました。でもR v 2 6 だけは… … 」
「そのとおり! 彼は男でも女でもない道を選んだのだ。それは元々性を持っていない旧式のアンドロイドの特権でもある! 」
ノロは両腕両脚をバタバタさせて興奮する。
「ノロもR v 2 6 の特権が欲しいの? 」
「えーー」
ノロの両腕両脚の動きが止まる。
「違う! 言いたいのはR v 2 6 は神に近いと言うことだ」
「何を言いたいのか、よく分からないわ」
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「ある宗教では『神は男と女を造った』とか、あるいは仏はふくよかな胸をしているがヒゲをはやしているとか… … 」
「そうか。神には性別がないのね」
「別に神になりたいとは思わないが、今さら男を辞められないし、女になることにも抵抗感がある。ただし! 」
「ただし? 」
「オレの女装を見たことがあるだろ? 」
「えっ? 」
記憶( 第四編第百八章「性手術」参照) をたどるとイリが大笑いする。
「見るに堪えなかったわ」
「なんだと! 」
ノロが小さな目をむいてイリを睨み付ける。
「いえ、あの、その… … 可愛かったわ」
「可愛いんじゃない。美しいのだ」
「まあ、そうね」
イリは後ずさりしながらフォルダーに助けを求める。しかし、フォルダーはイリをかばうどころか距離を取る。
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「イリは美人だ。でもオレは男前でかつ美人なのだ」
イリはノロと六次元化して一心同体になった経験があったからこそ忍耐強く相手をしているが、ほとほと疲れたようだ。でも助ける者はいない。
「神様は男前なの? それとも美人? 」
「もう何度も言っただろ。神は男でも女でもない。つまり男前でも女前でも美人でもない」
* * *
「ホーリーたちに意識が戻りました」
「体調は」
「精神面に問題があります」
中央コンピュータの報告にノロが応じる。
「ここは3 ・0 0 0 1 次元の世界。六次元化したオレ達はどうって言うことはないが、さぞかし苦痛だろう」
イリが心配そうに尋ねる。
「治療方法は? 」
「ない。でも難病じゃない」
「なんとかなるのね。じゃあ、どうするの」
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「簡単なことだ」
「それなら、すぐ実行しましょう」
ノロが天井に向かって叫ぶ。
「取り敢えずオルカに戻って彼らを六次元化する準備にかかる」
* * *
オルカの医務室で六次元化カプセルベッドのカバーがゆっくりと開く。
「ホーリー・サーチ」
フォルダーが心配そうに囁くとホーリー・サーチの目がうっすらと開く。
「ホーリー・サーチ」
同じようにイリが呼びかける。
しかし、先に正気に戻ったのはミリン・ケンタだった。その向こうのカプセルベッドでは住職・リンメイが。
ホーリー・サーチ、ミリン・ケンタ、住職・リンメイ、四貫目・お松がカプセルベッドから出てくると身体が小刻みに震える。すぐさまホーリーとサーチに、ミリンとケンタに、住職とリンメイに、四貫目とお松が分離する。パンダの海賊たちも同じだ。
「ここは? 」
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「オルカの六次元化手術室」
しばらくするとサーチがカプセルベッド数を確認してから不思議そうにイリに尋ねる。
「おかしいわ。人数の半分しかカプセルベッドがないわ」
「六次元化の手術に必要なカプセル数はちょうど半分になるのよ」
「六次元化? 」
詳しく説明を受けたサーチたちが驚く。
「ここは天国か? 」
ホーリーの言葉にフォルダーが大笑いする。
「はっはっはっ。ここは地獄だ。俺たちは永遠に生かされるんだ」
「そうか。俺たちは天国に行けるほど善良じゃないもんな。なかなか死なせてはもらえない」
「何を言ってるの! 現状を把握しなければ」
サーチがホーリーの腕をつねる。
「痛い! でもノロは? イリがいるのにノロはどこに? 」
「ゴホン」
カプセルベッドの影から咳払いがする。やっとノロの姿を見つけたホーリーやサーチが近寄る。それ寄りも先にミリンがノロを抱き締める。
「ノロ! 」
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「苦しい… … イリ、助けてくれ」
イリはプイと横を向いて腕をまくる。
「今、焼き餅を焼くのに忙しいの」
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