第百十七章  ターミネーター


【次元】六次元

【空】ブラックシャーク

【人】ノロ イリ フォルダー ファイル 瞬示 真美

 

* * *

 

 ブラックシャークに様々な機材が積み込まれる。その中で一見して奇妙な機械がフォルダーの前を通過する。

 

「これは何だ? 」

 

 ノロが自慢げに応える。

 

「6 D プリンターだ。三次元の世界でいう3 D プリンターだ」

 

「何に使うんだ? 」

 

「この装置が六次元の世界を壊滅的な事件に巻き込んだ」

 

「? 」

 

「このプリンターで巨大土偶が大量生産された」

 

「そうだったのか。だとすると危険な装置だな」

 

「そんなことはない。造りたい目的物をキチンと設計してこいつに製造させればすごいものが手に入る」

 

[74]

 

 

「ふーん。たとえば? 」

 

「宇宙海賊船だ」

 

 ここでノロがニタリと笑うと真一文字の口が大きく開く。

 

「ブラックシャークが何万隻掛かってきても一瞬で破壊してしまう全次元最強の宇宙海賊船を製造してこの6 D プリンターで同型船を何万隻と造るのだ」

 

「ちょっと待て。もしそうなら、そんなものをくれるはずがない」

 

「フォルダー! 。声がでかい! 」

 

「お前の方がでかいじゃないか! 」

 

「褒美としてもらった」

 

「六次元の世界を救った報酬か? 」

 

「いや、違う」

 

「とにかくさっさと積んでこの世界から離れよう」

 

 ここで瞬示と真美が現れるとイリが心配する。

 

「バレたかも」

 

 ふたりがにこやかにノロ、イリ、フォルダーに近づく。

 

「安心してください。提督も広大・最長も6 D プリンターをノロがどのように使おうと気にしていません」

 

[75]

 

 

「えー! 」

 

 イリとフォルダーが驚くが、瞬示がニーッと口を開くノロに残念そうに伝える。

 

「この装置は三次元の世界では稼働しません」

 

 がっかりするノロを尻目に真美が明るい声を出す。

 

「五次元の世界への道案内をしまーす」

 

* * *

 

「五次元の世界を支配する一族は非常に好戦的で地球とノロの惑星と地球を攻撃した」

 

 瞬示の説明にブラックシャークの艦橋に驚きが走る。

 

「どんな攻撃を受けてもノロの惑星はビクともしないはずだ」

 

 ノロが余裕を持って反論する。

 

「それが… … 」

 

 瞬示の言葉を遮ってフォルダーが首を傾げながら尋ねる。

 

「それよりも瞬示。できれば平和主義の五次元の生命体がいる惑星へ誘導してくれないか」

 

「五次元の世界に平和主義者がいるのかなあ」

 

 瞬示が操縦席に座るとノロが天井に向かって叫ぶ。

 

 

「中央コンピュータ。瞬示の指示に従え」

 

[76]

 

 

「了解」

 

 ノロは瞬示の横に座って浮遊透過スクリーンを見つめる。残されたイリが真美に声を掛ける。

 

「一心同体になっても完全にノロのことを理解するのはやっぱり不可能だわ」

 

「六次元化したと言っても所詮、元は三次元の生命体。疑似一心同体だから仕方ないわ」

 

「そのようね」

 

「瞬示と私は元々ひとつなのにスパイとして三次元の世界に分離した状態で派遣されたときすべての記憶が消えて三次元の生命体になったわ。再びひとつになるまで瞬示も私もお互いとても不思議な気持ちを感じたわ」

 

 イリが黙って次の言葉を待つがその期待を裏切られる。

 

「六次元の生命体でも分離した状態が長期化すれば元に戻ることが容易ではないし、戻ってもしばらくは違和感が残るの。ましてイリやノロなら… … 」

 

 イリは戸惑うだけで黙ってしまう。

 

「でも、このことは不思議ではないの」

 

「よく分からないわ」

 

「生命体の基本形は三次元の世界にあるの。それに三次元以上のどの世界もゼロ次元、一次元、二次元の構成要素を基本とする… … ノロから聞いていない? 」

 

 

「いいえ。一心同体になっても忙しいの一点張り。会話のない夫婦のような感じだったわ」

 

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 真美が微笑むと少し声が大きくなったイリを慰めながら囁く。

 

「生命体の基本は次元が違っても余り変わりがない。と言ってもイリには分からないかも… … 」

 

 真美はイリが頷くまで次の言葉を停止する。するとイリがまぶたで頷く。

 

「四次元以上の世界には複数の時間が流れている」

 

 今度はしっかりとイリが頷く。

 

「三次元の世界では時間は過去から未来に流れるだけ。生命永遠保持手術を受けた者以外はすべて必ず死ぬ。でも死があると言うことは希望があること。そう思わない? 」

 

「忘れてたけれど、確かにそうね」

 

「でも時間軸が複数ある多次元の世界では不思議なことに生命体の誕生に費やされる時間が気まぐれだから、つまり生命体は時間に邪魔されてなかなか生まれない。詳しくは知らないけれど八次元以上の世界では未だ生命体は誕生していないようなの」

 

「えー! そうなの」

 

 すでにイリは異次元の生命体に違和感を持っていない。

 

「ゴホン」

 

 ノロの咳払いがする。

 

「なかなかいい議論をしているじゃないか。オレにもしゃべらせてくれ。なぜ五次元の世界に寄り道するのかという説明にもなる」

 

[78]

 

 

* * *

「と言うことで素数の次元で安定して生命体が存在できるのは三次元だけだと言っても過言ではない」

 

「おさらいするわね」

 

 イリがノロの説明をまとめる。

 

「まず、一次元や二次元の世界では時間が存在しないので、生命は生まれない」

 

 ノロがフンフンと頷く。

 

「三次元の世界の時間軸は未来に向かうひとつの時間軸しかない。生命はその時間軸を綱渡りしながら子孫を造って繋いでいく。つまり遺伝子をバトンタッチして種を未来永劫に繋ごうと必死になって生存競争を繰り返す。だから三次元の世界は生命体に満ちあふれている」

 

 高揚したイリの表情が少し暗くなる。

 

「でも四次元の世界になると時間軸がひとつ増えてふたつになる。相変わらず時間は未来に向かうけれど、その未来がふたつに分かれるの」

 

 ここで真美が敢えて疑問にする。

 

「ふたつとも未来に向かうの? ひとつは過去に向かうんじゃないの? 」

 

 

「私もそう思ったけれどノロに否定されちゃった」

 

[79]

 

 

「話の腰を折ってごめんなさい」

 

「四次元の世界でも生命は発生するけれどその生命が子孫を造って繋ぐ未来がふたつあるのでどちらの未来でも通用する子孫を造らなければならない。次元が4 、時間軸は2 。4 は2 の2倍。下手すると股裂き状態になって、つまり次元落ちして二次元化しやすい世界なの。二次元化すると時間を失うからその生命は消滅する。意外なことに四次元の世界では生命は発生しても死滅する可能性が高いの」

 

 説明を続けるイリにノロは感心する。

 

「次は二次元、三次元と同じ素数次元の五次元の世界。時間軸は3 。五次元素数生命体自体は三次元より複雑だけれど、次元も時間軸も素数で安定しているように見える。でも未来に向かう時間軸がみっつあるということは四次元の世界より複雑で生命はどの未来を選択するのかでかなり迷うはず。素数次元と素数時間軸を持つので時間軸が崩れると生命は右往左往するだけで安定的に子孫を残せない。この次元の生命体には二次元エコーが有効な武器になるわ」

 

 ここでノロが泡を吹く。

 

「完璧に俺の考えを理解している! 」

 

「次は六次元の世界。六次元の世界は三次元の世界との融和性が高いの。この世界の時間軸は四つあるけれど、ふたつずつペアを組んでいる。それぞれのペアは未来方向と過去方向に分かれる。なぜ単純に未来に向かう時間軸が4 にならずに未来に向かう時間軸2 本と過去に向かう時間軸2 本に分離したのか。それはターミネーターです」

 

[80]

 

 

 ノロが仰天する。

 

「そんなこと教えた記憶はないぞ」

 

 おちょぼ口のイリの口がまるでノロの口のように真横に広がる。

 

「ふふふっ」

 

「わあ! 口裂け女だ! 」

 

「口裂け女はひどいわ! 」

 

 イリが船長席のノロにツカツカと近寄るとフォルダーが間に入る。

 

「こんなところで喧嘩をするな」

 

 ファイルがイリの腕を取って促す。

 

「説明を続けて。イリの解説は非常に分かりやすいわ」

 

「何だって。オレの説明は分かりにくいのか! 」

 

 フォルダーに羽交い締めにされたノロが手足をバタバタさせる。

 

「一心同体になったのになぜ喧嘩するんだ! 」

 

「えっ? あっそうか。確かに一心同体になったな」

 

 ノロの力が抜けるとフォルダーが離れる。それを見たファイルもイリの腕から手を放す。イリがノロに近づくと抱き締める。

 

[81]

 

 

「黙って聞く。ターミネーターの説明を続けてくれ」

 

「正確には次元ターミネーターと言います。そのターミネーターを発明したのはノロです」

 

 フォルダーが尋ねる。

 

「次元ターミネーターとは? 」

 

「住職がいてくれたら説明しやすいのに… … 」

 

「住職とどういう関係があるんだ? 」

 

「数珠よ」

 

 イリがポケットから真珠のネックレスを出す。

 

「これは我がイリ一族の宝物です」

 

 イリはネックレスの中央部の金具を外してゆっくりと首に掛けて金具を止めるとファイルがうっとりと見つめる。するとイリは金具を外してファイルに手渡そうとする。

 

「私には似合わないわ」

 

「そういう意味じゃないの。このネックレス、数珠とは大違いでしょ」

 

「数珠と? 」

 

 不思議がるファイルの前でイリが金具が外して一本になったネックレスをぶら下げる。

 

「分かる? 」

 

 

 ファイルが首を横に振る。

 

[82]

 

 

 

「数珠は丸いまま。ネックレスは直線。ネックレスを時間軸とすればどこかで切れて時間軸は消滅してしまう。でも数珠はぐるぐる回って永遠に時間を刻むことができる」

 

 ここでノロがイリに数珠を手渡す。

 

「住職からもらったんだ」

 

 イリは玉を移動させる。いくつかの玉を移動させた後、ある玉のところで移動しなくなる。

 

「あれー? 」

 

 大げさに驚くイリをノロがカバーする。

 

「そこでヒモが切れたんだ。ちぎれたヒモを結んだが、コブができてそこで玉の移動ができなくなった」

 

「皆さん。分かりますか」

 

 イリが交互に数珠とネックレスを示しながら説明を続ける。

 

「真珠のネックレスは真珠をヒモに通したもの。金具を繋げば輪になります。数珠も同じですが金具はなく、つまりくっつけたり、離したりせずに『輪』そのものとして利用します。この数珠は不幸にも玉がぐるぐると回りませんが、本来はぐるぐる回ってどこがスタートで、どこがゴールか、分かりません」

 

 数珠をノロに返すとネックレスを高々と上げる。

 

「ネックレスも輪になりますが、ぐるぐる移動できません。金具が邪魔をするし、それぞれの

 

[83]

 

 

大きさが違います。大きい真珠から小さい真珠へという序列法則に従ってヒモに通されています」

 

 誰もが次の説明を興味深く待つ。

 

「ネックレスは首の後ろで金具を繋ぎます。つまり初めから首に掛けるように造られています」

 

 イリがネックレスをファイルに手渡す。ファイルは胸の前にネックレスを垂らすと金具を首の後ろで止める。

 

「似合うわ」

 

 ファイルがはにかむとフォルダーを見つめる。日頃素っ気ないフォルダーが目を細める。

 

「美しい」

 

 一方、ノロから数珠を取り上げてノロの頭にかざすと下げる。途中高くもない鼻に引っかかる。イリはお構いなしにそのまま首まで下げる。

 

「数珠のネックレス。結構似合うわ」

 

「オレは男前だから何でも似合うのだ」

 

 イリが数珠をぐるぐる回す。

 

「くすぐったい。やめてくれ」

 

「数珠の場合、どこがメインか分からないでしょ」

 

 同じ大きさの玉が並んでいるだけの数珠は装飾品としては失格だ。しかもモデルが悪い。

 

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「まるで首輪だ」

 

 フォルダーにノロが抗議するが、イリは無視して新しい数珠を取り出す。

 

「薄緑の房、見えますか? 」

 

 そして数珠の玉のひとつひとつを摘まんで移動させる。何回も同じ操作をする。イリの手の中で玉が永遠に移動するかに見える。突然イリの手が止まる。よく見ると玉ではなく薄緑色の房を摘まんでいる。

 

「これがターミネーターです。この房がぐるぐる回る運動を終結させるのです」

 

 イリは房がよく見えるようにゆっくりと身体を回転させる。

 

「この小さな房が永遠に回る玉の動きを止めるのです」

 

 このとき中央コンピュータが感激する。

 

「それでか! 私の身体には様々なセンサーなど周辺機器が数珠のように繋がっています。量子コンピュータでもすべての周辺機器を制御するのは大変な作業です。単なる制御ではありません。整合性を保ちながら制御しなければならない。その中で末端となる周辺機器のうち『お前が最後』だと、言い換えれば終端の機器に印を付けておかなければ、情報が空回りして上がってこない。その印がターミネーターだったのですね」

 

「本来のターミネーターはそういうことだけど、私が言いたいのは三次元の時間軸のことなの」

 

 ノロが大きく頷くがイリは気が付かない。

 

[85]

 

 

「ひとつの時間軸しか持たない三次元の生命体は未来に向かって、つまり死に向かう権利を持つから命を繋ぐ義務がある。こんな房は必要ないのです。ここまで言えばもう分かるでしょ? 」

 

「命を繋ぐ一番いい環境は三次元の世界なんだわ」

 

 ファイルが感動する。

 

「でも私たちは永遠の命を持ってしまった。しかも六次元化したわ」

 

 残念そうな表情をするわけではないがイリがため息をつく。

 

「房が必要です。さてターミネーターの話はここで終端にするわ」

 

* * *

 

「未来のみにまっしぐらに流れる三次元の時間軸。それは命を繋ぐための素直な時間の流れ。

 

その時間軸は決してぐるぐる回るような運動はしない。でもそんな時間軸の流れにターミネーターで一息付くようにすればどうなるのかしら? 」

 

 イリの説明が一転して難しくなる。

 

「ターミネーターを鏡だと想像してください」

 

「いい例えだ! 」

 

 イリがノロの口を押さえる。

 

「お黙り! あなたに尋ねているんじゃないの! 」

 

[86]

 

 

 フォルダーがかばう。

 

「たまには発言させないと」

 

「一旦しゃべり出したら止まらないのを忘れたの? 」

 

 イリの手がノロの口から外れるとまさしくその口から鉄砲玉のような講釈が始まる。

 

「ターミネーターにぶつかった時間が反射して過去に向かう。こうなるともう大変! 未来へいくはずの時間が過去を目指してしまう。それを阻止しようと過去にもターミネーターを設置しなければ、爺や婆は若返って赤ん坊になって消滅する。やがて時間は過去に設置されたター

ミネーターに到達すると反転して未来に向かう。赤ん坊が生まれて爺や婆になる。またまた時間が未来の設置されたターミネーターに反射すると、爺、婆は… … 」

 

 ここでノロの口を押さえたのはフォルダーだった。

 

「きっちり押さえておく。イリ、続けてくれ」

 

「ノロの言うとおり。私たち、つまりノロやフォルダー、ファイル、そして宇宙海賊が持っている永遠の命はまさしくそうなの。徳川が開発した生命永遠保持手術とは全く異なる方法で永遠の命を取得したようだわ」

 

「それで巨大土偶の黄色い光線を受けても永遠の命を失うことがないのか」

 

 初めて自分たちの永遠の命の秘密を理解したとたんフォルダーは感激してノロの口を押さえつけていた手の力を緩めてしまう。

 

[87]

 

 

「手を離さないで! 」

 

 口元の自由を手に入れたノロが機関銃のようにしゃべり出すと誰もが危惧するが、ノロはニーッと口を広げるだけで発言しないのでイリが心配する。

 

「どうしたの? なぜ発言しないの」

 

「答えが出てるからだ」

 

「どういう答え? 」

 

「四本の時間軸を持つ六次元の世界で本来未来にのみ向かう時間軸のうち、なぜ半分の二本が過去に向かう時間軸となったのか、ということの答え」

 

 イリは自分なりの答えを出す。

 

「時間軸が複数あれば未来が、つまり未知の世界が広がるだけで取り留めもなくなるし、四次元の生命体のようにどの時間軸を使って子孫を残せばいいのか分からなくなる。つまり高次元の世界では生命体が生まれても維持できない。だから四本の時間軸を二組に分けたんだわ」

 

「そうじゃない。時間が自らを制御して二組に分離したんだ」

 

「やっぱりノロでないと時間軸の不思議さを説明できないわ」

 

「そんなことはない。イリならできる」

 

 イリがフッーと息を吐く。

 

「それは時間というものは女みたいなもんだから? 見つめられないと現れない? 」

 

[88]

 

 

「そう」

 

「でも時間が無いと見つめる者は現れないわ」

 

「見つめたけれど時間はない。時間は生まれたいのに見つめる者がいない。どうだ。時間も美女も同じだろ」

 

 イリが頷く代わりに整理する。

 

「三次元以上の世界でも生命が発生しないと時間は現れない。逆に時間が存在しないと生命は生まれない。こちらを立てればあちらが立たない。あちらを立てればこちらが立たない。下手すると生命も時間も発生しないことになる。こういうことね」

 

「そうじゃない」

 

 イリだけではなく誰もが絶句する。

 

「心配するな。生命体は時間軸を背負って生まれるんだ。それが生命なのだ」

 

「生命体が時間を造るの? 」

 

「そうだ」

 

「だったら次元は? 次元も生命体が造るの? 」

 

「それは違う。次元と言っているがこの宇宙を形成する元になる次元は無限に存在する。でも、なぜそうなっているかは分からん。神のみぞ知る」

 

「神は人間がいるから存在するんでしょ。それこそ美女のような存在で見つめる者がいないと存在できないはずだわ」

 

[89]

 

 

「それは人間が造った神のことだ。本当の意味での神は永久に現れない。でも存在している」

 

* * *

 

「何となく時間とターミネーターのことが分かったわ。生命と時間が同時発生するのなら、対応する技術があれば時間を制御できるのね」

 

「えっへん。オレがその技術を発明したんだ。だから六次元の生命体に招待された」

 

「誘拐されたんじゃないことは分かったけれど、自慢するほど偉いんだという印象はないわ」

 

「偉い印象という意味ではイリはこの宇宙で序列三位の偉いさんだ」

 

「私が三位? それじゃ二位は? 」

 

「俺だ」

 

「意外と謙虚ね。じゃあ一位は? 」

 

「もちろん、神だ。念のために言っておくが、人間や生命体が勝手に作った神ではない。生命体が見ることや理解することができない、つまり姿もない無言の神だ」

 

 声を出す者はいないが、誰もが何とか理解したようだ。

 

「スッキリしたわ」

 

 イリがノロに近づく。

 

[90]

 

 

「でも一位と二位の差は無限に離れているわね」

 

「二位と三位もだ」

 

 次の瞬間ノロのメガネが吹っ飛ぶ。

 

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