第百十九章から前章( 第百二十二章) までのあらすじ
ノロは見境なく時空間を渡り歩いた結果、輪廻という忘れ物に気付く。
ノロによってアンドロイドにはバグ自動修正プログラムが組み込まれた。一方、人間は理性プログラムを正常に作動させることなく生命永遠保持手術を開発して永遠の命を得た結果、すべての生命体が関わる輪廻を見失って自滅した。
人間に代わって輪廻という生き方を引き継いだアンドロイドの地球に向かうとR v 2 6 が出迎える。地球が平和なことを確認した後、ノロはトリプル・テンで永遠の命を手に入れたことに気付くとともに、トリプル・テンに意思があることを説くが信用する者はいなかった。
【次元】 六次元
【空】 首星 副首星 前線危機管理センター
【人】 総括大臣 副首星担当大臣 提督 危機管理センター長
* * *
三次元の世界では男と女が壮烈な戦いを繰り返して絶滅の危機に瀕した。和解したが今度はアンドロイドとの複雑な戦争が始まった。アンドロイドが子孫を造ることに賛成か否かで「可」とする人間とアンドロイド、「否」とする人間とアンドロイドに分かれて争いが生じた。
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そのとき五次元の生命体から攻撃を受けたが、人間はホーリーや宇宙海賊たちを除いて絶滅した。一方アンドロイドは念願の子孫を残すことに成功するが、半永久的に生きる身体を放棄した。
( 以上第一編~ 第四編参照)
六次元の世界でもやはりアンドロイド( 巨大土偶) との戦いに明け暮れていた。巨大土偶はすでに子孫を残す能力を持っていた。三次元のアンドロイドと違って破壊されても復元力を持っている。つまり余程のことがない限り死ぬことはなく、しかも子孫を造る。この巨大土偶に征服されそうになった危機を救ったのはノロだった。
さて時間という概念を持つ世界は三次元以上の世界で、ゼロ次元、一次元、二次元の世界には時間概念はない。これらの次元世界に加えてマイナス次元や虚数次元の世界も存在する。これらの世界もこの宇宙を構成する重要な次元であることは確かだが、ここでは省略する。
ここで読者は三次元の生命体は地球のみに存在するのかと疑問を抱くだろう。
地球だけを見ても多種多様な生命が存在する。しかも地球のような惑星は数え切れないほどある。とは言え宇宙は広すぎる。時空間移動装置を持ってしても他の生命体と遭遇するのは偶然に近い。このため三次元の世界では他の惑星の生命体を征服しようなどというような邪念はなさそうだ。これに対して五次元の生命体は自らの次元世界を統一して他次元の世界をも支配したいようだ。次元の高低でその戦闘能力が決まるわけではないが、五次元軍は強力だった。
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しかし、三次元の世界を征服しようと小手調べに地球を攻撃したことが間違いだった。生命体が存在できる最下位の次元でありながら、その次元地位の特徴が、つまり生命体や時間軸がない二次元の世界と隣り合わせの次元環境が、ノロに二次元エコーという装置を発明させた。その結果五次元の戦闘員やヒトデ型戦闘艦を次元落ちさせた。これは驚くべき事件だった。
* * *
ヒモ理論という宇宙理論がある。この理論は一次元の線が曲がって元に戻ろうとするときに発生する次元エネルギーが平面の二次元の世界を、そして三次元、四次元の、五次元の… … と言うように多次元の世界を造り出したというものだ。だがこれは誤りで、第百十八章( 宇宙ミラー)
で説明したように二次元の宇宙ミラーが三次元以上の世界を造りだしたというのが正しい。さて、ここで素数次元の強さとそうでない次元の弱さを指摘する。
素数というのは謎の数字だ。1 、2 、3 、5 、7 、1 1 、1 3 … … 。このうち1 , 2 、つま
り一次元の世界と二次元の世界に時間次元が付属しない。三次元の世界になって初めて時間概念が現れる。時間は生命を発生させる重要な要素だ。もちろん最低立体化しないとモノという形は形成されないが、モノが生成されても時間がなければモノは生命体に変身することはできない。そういう意味で同じ素数でも3
と言う数字は特別な存在だ。しかも三次元の世界が持つ時間軸はひとつ。未来にのみ向かって流れる純粋な時間だ。
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ところが、四次元の世界は脆弱だ。その世界自体が2 の倍数でしかもその時間軸も2 だ。三次元以上の世界ではその次元の数から2 を引くとその次元の時間軸の数になる。いずれにしても四次元の世界は割りやすい、つまり不安定な世界だ。
五次元の世界は三次元の世界に並ぶ強固な世界だ。時間軸は3 で複雑な時間環境にあるものの本体の次元数も時間軸数も素数だ。これはある意味宇宙最強の組み合わせだ。
さて六次元の世界はどうだろうか。瞬示と真美の世界だ。次元6 というのは素数ではないし時間軸4
と言うのも素数ではなく四次元の世界で述べたように偶数、つまり割りやすい。しかし、時間軸はともかく六次元の世界は三次元の世界と高い融和性を持つ。つまり半減すればこの世界は三次元の世界となる。逆に三次元の生命体が六次元化するハードルも低い。だから瞬示と真美は三次元の世界で活躍できたし、ノロやイリは六次元化できた。
それでは素数次元の七次元の世界とはどういう世界なのだろうか。六次元の世界では時間軸の数は4 だ。七次元の世界ではこれが5 となる。次元も時間軸も素数だが五次元の世界ほど強固ではない。なぜなら次元が高いと言っても複雑に時間軸が絡むと住みにくくなるからだ。
素数を基本とした次元と時間とが織りなす不思議な世界、それが宇宙である。その中でも未来へという一つの時間軸しか持たない三次元の世界が一番生命に満ちた世界と言える。確かに次元が高いほど高度化した生命体の能力は高いかもしれないが、意外と三次元の生命体はタフだ。生命体にとって一番大事なのが、この「タフ」さだ。
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過去に向かう時間軸を持つ世界では折角進化しても元に戻るという過酷な環境がある。さらに横に揺れる時間軸が進化しようとする生命体に与える影響は想像を絶する。
六次元の世界では次元を半減化することによって擬似的に四つある時間軸も半減させて生き延びる術を会得した。四次元の世界では半減させると自ら二次元化してしまうので生存できなくなる。しかし、三次元の世界はタフな生命体で溢れている。繰り返すが五次元の生命体が三次元の生命体に破れた原因はまさに「タフ」さである。
しかし、五次元の生命体が全滅したわけではない。戦闘好きで征服欲の高い五次元の生命体が再び三次元の、あるいは六次元の生命体を攻撃しないという保証はない。
第二次次元間大戦が勃発するかもしれない。それは五次元の生命体が三次元の生命体と戦った第一次次元間大戦とは桁違いに激しくなることは明らかだ。
地球を攻撃した五次元の生命体は二次元エコーの反撃に次元落ちして全滅したが、この教訓から三次元の世界と融和性の高い、しかも五次元の世界より時間軸が複雑な六次元の世界を攻略してから三次元の世界を攻めようと考えた。ここで奇しくも七次元の生命体の攻撃が六次元の世界に向けられた。七次元の生命体は時間軸の少ない六次元の方が住みやすいと考えたのかも知れない。
和平がらみの戦争を仕掛けた七次元の生命体だったが、意外だったのは五次元の生命体の参戦だった。六次元の生命体にとって、七次元の生命体の攻撃には堪えることはできても五次元の生命体は手強い相手だ。幸い三次元の世界とはパイプがある。
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瞬示と真美が三次元の世界に派遣されたのはこういう事情があったのかもしれない( 第一編参照)。
* * *
ノロのお陰で六次元のアンドロイド巨大土偶の増殖は止まり安定化した。六次元の生命体は繁栄を取り戻すかに見えた。
六次元防衛軍の提督は手持ちぶさたの日々を送っていた。
「このままでは防衛軍は解体されるかも知れませんね」
部下が自嘲気味に呟く。
「毎日、何事もなく時間が流れているか確認することが我々の仕事だ」
「しかし、何も仕事をしていないように見えるから『防衛軍は税金泥棒だ』と予算の縮減を求められています」
「それは誤解だ。それとも何か事件が起こった方がいいとでも」
「それはないでしょう」
「無事に時間が流れる。それは我々が日々精進して他次元の生命体の侵入を抑止しているからだ」
「平和ボケですかね」
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次元防衛軍の中央制御室は静かだ。と言っても筆者にはどういう部屋か全く想像できない。雰囲気を伝えるだけだ。どれだけ平穏な時間が流れたのかもよく分からない。何しろ六次元の世界には時間軸が四つあるのだから。
* * *
六次元の世界の首星( 六次元では首都が存在する惑星のことを首星という) の最高中央政府総括大臣( 総理大臣に相当) に次元防衛軍司令部から緊急重大報告が入る。
「副首星のすべての時間軸が暴走しています。かなり離れていますが副首星に一番近いブラックホールが膨張し始めています」
「なに! 」
「提督と繋がりました」
「提督! 」
「すでに報告を受けて分析中です」
「何が起こった! 」
「多分、他次元の何かが副首星近辺に侵入したようです」
「本当か! 」
「総括大臣、落ち着いてください。あくまでも推測です」
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「あらゆる可能性に対して対抗策を構築しろ」
「もちろん緊急事態に対応すべく全スタッフを動員しています」
「些細なことでも報告しろ」
「分かっています」
「分析はいつ終了する? 」
「不明です」
「次元の特定は? 」
この間にも直接副首星から報告が入るが、興奮する総括大臣は気付かない。一方提督は新たな情報を得るために総括大臣との通信を遮断する。
「提督! 返事をしろ! 」
* * *
総括大臣室に提督が現れると次元モニターが自動作動する。
「この映像をよく見てください」
「なんだ? 派手な映像だな」
「ブラックホールです」
「可視化しているのか」
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「いいえ」
「だったら、なぜブラックホールが見えるのだ! 」
「副首星の前線危機管理センター長によれば、ブラックホールからいくつかの時間軸が這い出しているので見えるようです」
「這い出している? 」
総括大臣の目前で赤い点滅が始まる。六次元の世界のマイクだ。
「危機管理センター長との通信が繋がりました」
「総括大臣だ。ご苦労。なぜブラックホールが見えるのか? 何か手がかりは? 」
「色々考えましたが、今言えることは他次元の、我々より高次元の世界の何者かがブラックホールを利用して侵入していると考えて対処するのが最善策だと思われます」
「ブラックホールは何もかも呑み込む… … 時間さえも呑み込むはずだ」
「我々の世界ではそうです。しかし高次元の世界は我々よりも多くの時間軸から構成されています」
「高次元の… … 、まずそれは生命体だろうが… … 」
「生命体と考えるべきです。目の前の現象に意図が存在することは間違いありませんから」
「何次元かは別として攻撃を仕掛けられていると認識すべきだと言うことだな」
「危機管理を預かる者としてはそのように自覚しています」
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「これが高次元からの攻撃だとしたら、防御態勢を取るまで時間的余裕はあるのか」
「これだけははっきり言えます。高次元の生命体であっても多くの時間軸をコントロールするのは大変な作業になるはずです」
「対抗可能な武器はあるのか。あるいは製造できるのか? 」
「前者の質問についてはありませんとしか。後者の質問については不可能としか、答えようがありません」
「ということは『頑張れ』としか、言いようがない。逐次報告をするように」
「了解」
* * *
総括大臣が提督に迫る。
「副首星に向かう」
「待ってください」
「現場を確認しなければ対処できない。お前も常々現場が大事だと言ってるじゃないか」
「そのとおりですが、今回は単なる災害ではなく異常事態です。まず副首星に任せるべきです」
「傍観しろというのか」
「それでなくても副首星は混乱しています。しかし、今のところ次元通信に問題ありません。
[245]
取り敢えず副首星市民を救出するために情報収集を行う特別チームを派遣しました。さらに万が一、通信が途絶えたときに対処するために次元通信中継衛星を増強しました」
「そうか。打つ手はすべて打っていると言いたいのだな」
「そうです」
「私は行く。お前も付いてこい」
「だから情報収集部隊は派遣したと… … 」
「黙れ! 最高責任者がこの目で確かめて判断を下す。一番大事なことだ」
「何度も申し上げますが今回は異常事態です。総括大臣が副首星に行けば混乱している現場がますます混乱します」
「副首星の市民を勇気づける意味もある」
「通常の政治的な事案なら視察を止めはしませんが、今回の事案については… … 」
「ツベコベ言うな。総括大臣専用次元移動船を準備しろ」
「待ってください。すぐ準備にかかりますが、受入体勢が万全かどうかの確認に時間が… … 」
「受入体勢など無視しろ。むしろ私が赴くことを伝えるな。真っ白な現場を確認する」
提督は目を閉じて部下に命令する。
「総括大臣専用次元移動船の準備を」
その提督の言葉に総括大臣が笑みを浮かべると秘書を呼ぶ。
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「同行者の人選をする」
総括大臣と秘書との会話内容に提督があ然とする。
― ― こんな時に選挙対策を考えるとは!
提督が部下に指示する。
「私に何かあったら、副提督ではなくお前が提督代行として首星を守れ」
「私が… … 」
「万が一の時は広大・最長や瞬示・真美を通じてノロに相談しろ」
* * *
「わざわざ副首星までお越しいただきましてご苦労様です」
副首星担当大臣がうやうやしく出迎えると、総括大臣は挨拶もせず提督を睨み付ける。
「あれほど極秘にしろと言ったのに、お前は… … 」
「責任は後で取ります。それより副首星の情報管理センターへ」
提督の言葉を副首星担当大臣が引き継ぐ。
「ご案内します。どうぞ」
「待て! 前線危機管理センターに連れて行け。危機管理センター長から直接情報を聞き取る」
「それはできません」
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「命令だ」
「命令だと言われても危機管理センター長は多忙です」
「前線とはそういうものだ。だから何とかしろと言っているのだ」
当惑する副首星担当大臣に替わって提督が応える。
「前線危機管理センターがどこにあるのか、ご存じですか? 」
「… … ? 」
今度は副首星担当大臣が応じる。
「副首星が所属する星団に接近するブラックホール手前の太陽系の惑星の衛星にあります」
「そこへ行く。専用次元移動船に戻る。すぐさまその衛星へ」
「待ってください。そこはブラック放射線が降り注ぐ危険な場所です」
「ブラック放射線? 」
副首星担当大臣が専用次元移動船をあごで示しながら必死の形相で説明する。
「専用次元移動船では数十秒で乗務員はおろか総括大臣も死亡します」
一瞬、総括大臣がひるむが、すぐに鋭い口調で問いただす。
「ならば、危機管理センター内で何の障害もなく作業ができるのはどういうことなんだ! 」
「何の障害もなく? なんと言うことを! 彼らは必死で観測しているのです」
副首星担当大臣の言葉を無視して総括大臣が冷たく応じる。
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「同じ備えをすれば問題はないはずだ」
「総括大臣は六次元の命運を左右する最高責任者です。危険にさらすわけにはいきません」
「どんな苦労をしているのかこの目で確かめなければ、市民に説明できない」
「前線管理センターとは、提督の計らいで通信は確保できています、危険な現場に行かずともセンター長と会話ができます」
「それならセンター長に私がそちらに行くと伝えろ」
「ここは自重を! 」
「黙れ! 」
総括大臣の全身からまばゆい光が提督に発せられると提督は身動きできなくなる。
* * *
総括大臣が乗った特別仕様の次元移動装置が前線危機管理センターに到着する。さすがにセンター長が出迎えることはない。総括大臣以下宇宙服を身にまとって目の前の建物に向かう。
「強化シェルターに守られているのに何故わざわざ宇宙服を着なければならないのだ? 」
総括大臣がくぐもった声で質問する。
「確かにセンターはダイヤモンドと同じ堅さの球形強化ガラスシェルターで、しかも三重に保護されています。しかし、念には念をです」
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総括大臣は上空を仰ぎ見ながら同行する副首星担当大臣に告げる。
「それならこんな宇宙服など必要ない。脱ぐぞ」
「待ってください! 地平線をご覧ください」
透明で先まで見通せるはずなのに虹色ににじんで視界が悪い。
「ヒビが入っています」
「ヒビ? 」
「ブラック放射線で急速に劣化して一番外側の強化シェルターはいつ分解してもおかしくありません」
「行くぞ! 」
しかし、歩くのに苦労する。
「歩きにくいのはこの星の重力が小さいことだけではなくブラック放射線も影響しています」
総括大臣は事態の深刻さを初めて自覚する。
「先を急ぎましょう」
わずかな距離なのになかなかセンターの入口にたどり着けない。宇宙服で総括大臣の表情は分からないが、黙り込んだのを見計らって副首星担当大臣が提督に懇願する。
「滞在が長引けば我々が乗ってきた特殊次元移動装置は消滅してしまう可能性があります。ここにいるスタッフは生きて戻ることを諦めた者ばかりです。引き返すなら今です」
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もちろんこの会話は総括大臣にも伝わるがひるまない。
「ますますセンター長に会ってみたくなった」
* * *
狭い会議室で総括大臣、副首星担当大臣、提督が、危機管理センター長を待つ。前線の最高責任者がおいそれと持ち場を離れることはできない。そんな重大なことが総括大臣には分からない。
「ちゃんと伝えたのか? 」
「もちろんです」
「雑用はスタッフに任せて早くここに来るよう、念を押せ! 」
そのときセンター長が入ってくる。
「お待たせして申し訳ありません」
危機管理センター長の衣服がぼろぼろなのを見て誰もが驚く。
「用件をおっしゃってください」
「状況を把握したい」
「状況? 」
「現場を視察するためにここへ来た」
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「現場? 見れば分かるでしょ」
副首星担当大臣が慌てて口を挟む。
「総括大臣は危険を顧みずここまで来られたのです」
「無謀です。具体的な用件を。時間がありません」
総括大臣が居丈高に叫ぶ。
「センターの中枢部に案内しろ! 」
「できません」
再び副首星担当大臣がいさめる。
「ご案内するんだ」
「時間がありません」
「時間など関係ない」
そのときお互いの姿がかすむように揺れ動く。
「時間が奪われています」
「う、うばわ… … ている? 」
「そうです。四軸ある時間のうち一軸を失いました。今度は二軸目を失うでしょう」
センター長が部屋を出ながら背中で応える。
「任務に戻ります。現場を見たいのならご自由に。ただし、命の保証はしません」
[252]
センター長の姿が消える。
* * *
「センター長。どうにもなりません。時間が消滅していきます。待避しましょう」
「慌てるな。ここで死ぬと誓ったじゃないか」
「もちろんです。でも時間が消えれば死ぬに死ねないのでは? 」
「ふむ」
センター長は凍てついた時間の中で動けなくなる事態を想像して愕然とする。
「もうお互いの姿すらよく見えません」
「諦めるな。時間増幅装置の出力を最大にしろ」
「了解! 」
「タイムバリアー作動! 」
「了解… … 」
「声が小さい! 」
「了解! 」
スタッフたちは余程センター長を信頼しているのか、忠実に命令を実行する。しかし、信頼を破壊するほどの大きな時間振動で全員の身体が変化するが誰も気付かない。
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「よし! 反撃する」
「えー! ! 」
「心配するな! よく見ろ! 」
消えかけていた身体がお互いはっきり見えるようになる。
「説明は後だ」
センター長の言葉でスタッフが平常心を取り戻したのもつかの間で、思わぬ警告が流れる。
「シェルターが破壊されました! 」
「落ち着け! 破壊されたんじゃない。次元の半減が原因だ… … 」
センター長の言葉を遮るように背中から声がする。
「説明しろ! 」
それは副首星担当大臣や提督の意見を無視して後を付いてきた総括大臣の叫び声だった。
「説明は不要。自分の姿をよく見ろ! 」
総括大臣はもちろん、誰もがお互いの姿を見て絶句する。
「これは… … 」
「次元落ちしたのか」
「次元落ちではない」
センター長が総括大臣に邪魔された先ほどの説明を続ける。
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「原因は不明。次元が半減して三次元化した」
「驚くべきことではない」
またもや総括大臣がセンター長の言葉を遮る。
「広大・最長、瞬示・真美のように我々は三次元の身体に分離することができる」
ついに提督がかみつく。
「総括大臣! 少しは黙って聞いたらどうですか。説明を求めておきながら、すぐに話の腰を折る」
提督の血相に総括大臣が狼狽える。提督の発言に意を強くした副首星担当大臣も続く。
「現場を知ることは大事なことです。でも現場の邪魔をしない方がもっと大事です」
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