第百三十四章 ブラックホール砲


【次元】 六次元
【空】  ブラックシャークマークⅡ
【人】  ノロ イリ ホーリー サーチ R v 26
     瞬示 真美 広大 最長 総括大臣 セブンヘブン


* * *


 ノロの設計がいいだけではない。六次元の生命体の造船技術と五次元の生命体の修復技術がブラックシャークマークⅡ を理想の宇宙戦艦に仕立てた。


「素直にフォルダーに頼めばよかった」


 ノロ・イリの心の中のノロが後悔するが気持ちを切り替える。


「総括大臣のいるコロニーは特定できたか? 」


「全方位六次元レーダーで探っていますが、特定できません」


「残っているコロニーは六十しかない」


 マークⅡ に随行するヒトデ型戦闘艦のチーフから暗号通信が入る。


【用心しているのでは? 不用意に『ここにいる』とは言えないはずです】


 チーフの意見にノロ・イリが反論する。


【先に見つけなければ意味がない】

 

[542]

 

 

【焦りは禁物です】


 ノロ・イリのやはり心の中のノロが納得しながらもあることに気付くと暗号通信を切断して通常の通信に戻す。


「ひょっとして首星担当大臣の逃亡コロニーは… … 」


 すぐさまチーフからクレームが入る。


【暗号通信を継続してください。七次元軍に筒抜けです】


 ノロ・イリが無視する。


「首星総括大臣のいるコロニーを特定できたぞ。あのコロニーだ」


 中央コンピュータが驚く。


「反応はありません。なぜ特定できたのですか! 」


「黙れ! ぼんくら中央コンピュータ! 」


 ノロ・イリの身体が分離するとイリが絶叫する。


「疲れる! 私、独身がいいわ」


「勝手にしろ! でもスーッとするな」


「離婚している場合じゃないでしょ」


 中央コンピュータが呆れる。もちろん広大・最長や瞬示・真美も同じだ。


【暗号通信を使ってください。マークⅡ の艦橋の会話もじゃじゃ漏れです】

 

[543]

 

 

 チーフの通信をかき消すように警報が鳴り響く。


「超重力物体が接近中」


 次の瞬間、次元浮遊透過スクリーンが真っ暗になる。


「何も見えないぞ! 」


 ノロが叫ぶと中央コンピュータが即反応する。


「感度を上げます… … ダメだ。最高感度まで上げます」


 スクリーンがモノクロに変わる。


「ノイズがすごい。これじゃ何が何だか分からんぞ」


 分離したノロには見えないが、六次元化したままのホーリー・サーチが叫ぶ。


「あれは! 」


「ブラックホールです」


 警報が続く。


「うるさい! 警報を切れ」


 ノロが絶叫するが口元は緩んでいる。ノロには見えないがブラックホールから何かが発射される。


「何だ。あれは」


 ホーリー・サーチの疑問に中央コンピュータが応える。

 

[544]

 

 

「ブラックホール砲です。コロニーに向かっています」


 一瞬にしてコロニーが消滅する。


「わあ! やられた」


 すぐチーフから通信が入る。


【何ということを! 】


「しまった。オレのミスだ」


 マークⅡ の艦橋に重苦しい空気が流れる。


* * *


「ブラックホールが離れます」


 中央コンピュータの報告にノロが引き締めていた口元を解放する。


「ふふふ。バカな奴らだ」


「誰がバカなのですか」


「もちろん七次元軍だ」


 ホーリー・サーチが詰め寄る。


「ノロの不摂生な通信で総括大臣がいるコロニーが破壊されたんだぞ」


「あのコロニーに総括大臣がいたという証拠は? 」

 

[545]

 

 

「『いる』と言ったじゃないか」


「デマ、デマ」


「ウソだったのか」


 ホーリー・サーチがハタと頷く。


「そうか。デマを流して攻撃させた。七次元軍は目的を果たしたと思ってブラックホールを後退させた」


 今や筒抜けの通信を受けたチーフが心配そうに尋ねる。


「そんな単純なデマで七次元軍をごまかせるのでしょうか」


「がっはっは」


「何がおかしいんだ? 」


 ホーリー・サーチが詰問する。


「だって、みんなも引っかかったんだろ? 」


 イリがノロに近づく。


「やっぱり騙したのね」


「イリも共犯じゃないか」


 要はチーフもホーリー・サーチや広大・最長たちもみんな騙されたのだ。


「のろい七次元軍なんか簡単に騙されると言うことなの? 」

 

[546]

 

 

「五次元や六次元の生命体ものろいと言うことだ」


「のろいノロに言われるなんて悔しいわ」


 一挙に艦橋の空気が明るくなる。


「瞬示・真美、広大・最長。安心して総括大臣がどのコロニーにいるか探索するんだ」


* * *


 総括大臣がブラックシャークマークⅡ の艦橋に現れると再び六次元化したノロ・イリを抱き締める。


「ありがとう。もうダメかと思った」


「すぐさま七次元軍に攻撃を仕掛けます」


「油断している隙にと言うことだな」


「敵の戦力分析終了」


 中央コンピュータの声が途切れると次元浮遊透過スクリーンに七次元軍の構成図が現れる。


「一時は二百隻以上の宇宙戦闘艦を擁していましたが、ほとんどが七次元の世界に戻りました」


 全員熱心にスクリーンを見上げる。この次元空間に残った七次元の戦闘艦は旗艦である司令母艦を含めて七隻しかいない。


「問題は主砲のブラックホール砲です。艦首と艦尾に一門ずつ装備されています」

 

[547]

 

 

 中央コンピュータの説明が続く。


「副砲は連装七門です。旗艦だけは二連装合計十四門です。すべてレインボー無反動レーザー砲です。次元戦闘機は旗艦にだけ搭載されていて約七十機と推定されます。レインボー振動機関砲を搭載。最高速度はなんと光速0 ・7 。そのためか次元移動はできません」


 滑らかな中央コンピュータの報告が続くがノロ・イリが待ったをかける。


「兵器の性能は? 」


「不明です」


 全員ずっこける。


「何故兵器の名前が分かったんだ? 」


「チーフに聞いてください」


 ノロ・イリがチーフに説明を求める。


「私にもよく分かりませんが、兵器の性能なら想像できます」


「想像だったら私もできる」


 六次元化したノロ・イリの言葉がていねいになる。つまり「オレ」とは言わない。そのとき中央コンピュータが緊急警告を出す。


「敵艦載機が接近中! その数三十五機」


 しかし、ノロ・イリは冷静だ。

 

[548]

 

 

「常識的な数だな。万が一に備え半数を温存して母艦の防衛に使うつもりだ」


「そんな悠長なことを言っている場合じゃありません。艦載機の最高速度は光速0 ・7 です」


「対処する時間が無いからジタバタしない」


「えー! 」


 驚いたのはホーリー・サーチで意外と中央コンピュータも落ち着いている。


「透明化しろ」


 ノロ・イリが静かに命令する。


「透明化完了」


「迎撃態勢を取れ」


「次元パルスレーザー砲発射準備完了」


「透明化しても相手は七次元の次元戦闘機だ。しかも滅茶苦茶早い。しくじるな」


 そう言い残すとノロ・イリがR v 2 6 に近づく。


「ここまでは中央コンピュータでも対処できるが、そのあとはR v 2 6 に任せる」


 急な要請にR v 2 6 は驚くこともなくすぐに頭部を真っ赤に輝かせながら応じる。


「旧式の中央コンピュータでよかった。同期が取りやすい」


 ホーリー・サーチが驚いてR v 2 6 とノロ・イリを見つめる。


「オルカもそうでしたが、敢えてマークⅡ にも旧式の中央コンピュータを搭載したのは何故ですか? 」

 

[549]

 

 

「やむを得なかっただけ」


* * *


「全機撃墜しました」


 ブラックシャークマークⅡ の次元パルスレーザー砲の威力は凄かった。歓声がわくがノロ・イリの表情は厳しい。


「問題はこれからだ」


 R v 2 6 が質問する。


「これから本格的な戦闘になりますが、有効な作戦はあるのですか? 」


「オーソドックスな作戦しかない。つまり接近戦だ」


「そうでしょうね」


「主砲のブラックホール砲を封じなければ勝機はない」


「しかし、敵の懐に入れば副砲の餌食になるだけでは」


「副砲と言えども強力だ。レインボー無反動レーザー砲がどれほどの破壊力を持っているかは不明だ」


「もう一つ疑問があります。なぜ艦載機が光速0 ・7 もの高速性能を持っているのでしょうか」

 

[550]

 

 

「一言で言えば、七次元の生命体は極めてのろい」


「それは理解しています」


「鈍い欠点を補うために高速化している」


「しかし、艦載機はいとも簡単に全滅した」


「油断は禁物だが、我々三次元の生命体が渾身の力を結集すれば勝つ確率は高い」


 R v 2 6 がすべてを理解すると優しく指示を出す。


「と言うわけで、皆さん、三次元の身体に戻って持ち場に着いてください」


 そして中央コンピュータに毅然と命令する。


「敵陣のど真ん中に瞬間次元移動しろ! 同時に主砲を発射する」


 誰もが頼もしくR v 2 6 を見つめる。


* * *


 ノロ・イリたちは六次元化を解いて元の身体に戻る。瞬示・真美や広大・最長も分離する。真美が瞬示に笑顔を向ける。


「三次元化した方が身体が軽くなるわ」


「思考も」


 瞬示が返事したとき、ブラックシャークマークⅡ の主砲が火を噴く。

 

[551]

 

 

「通用するか! 」


 R v 2 6 がレーザー光線の行方を見守りながら反撃に備える。


「面舵と取舵を繰り返しながら、発進、後退を繰り返せ! 」


「そんな無茶な」


 中央コンピュータのクレームをR v 2 6 が押さえつける。


「マークⅡ なら自由自在だ」


 次元浮遊透過スクリーンが虹色に変わる。スクリーンがいくつかに分割されて敵戦闘艦の映像が現れるが七色に輝いてはっきり見えない。ノロが叫ぶ。


「スクリーンをモノクロにしろ! 」


 すべての画面がモノクロになったときマークⅡ が大きく揺れる。敵の副砲が命中したが狼狽える者はいない。


「結構やるじゃないか」


 ノロがR v 2 6 に目配せする。


「奴らはオレ達の機敏性を察知している。数秒でいいから停止して確実に仕留めよう」


 すぐさまR v 2 6 が対応する。マークⅡ が急停止する。


* * *

 

[552]

 

 

「ブラックシャークマークⅡ が停止しました」


「全戦闘艦の副主砲を発射しろ」


「あっ! 先を越されました。すごいエネルギー光線が向かってきます」


「次元移動しろ! 」


「間に合いません」


 五次元の生命体から三次元の生命体の俊敏さを聞いてはいたが想像を絶していた。


「やられる前に副主砲連続発射! 」


「わああ」


* * *


 戦闘艦が次々と破壊されるのを目の当たりにした旗艦の艦長が命令を下す。


「ブラックホール砲発射! 」


「仲間がいます」


「構わん。この機を逃すな」


「あっ! 」


「どうした」


「ブラックシャークマークⅡ が消えました」

 

[553]

 

 

「次元移動したのか? 消える前の次元痕跡を調べて追跡しろ」


「痕跡はありません」


「ない? どういうことだ」


「移動していないと言うことになります」


「そんなバカな」


* * *


「旗艦を攻撃する」


 R v 2 6 が冷静に命令する。ブラックシャークマークⅡ はトリプル・テンの透明化機能を使って、つまり透明バリアーを張ってその姿を完全に宇宙そのものに同化させている。


「旗艦に横付けしろ。全速前進! 」


 ノロが驚く。


「すごい! オレはもちろんフォルダーだってこんな攻撃はできないだろう」


 大柄なR v 2 6 の上半身が揺れる。


「旗艦の真横に到着。並列航行に入る」


「全主砲発射準備! 」


「準備完了」

 

[554]

 

 

「透明化バリアー解除」


 透明化バリアーを解除しなければ主砲が撃てないからだ。


* * *


「真横にいます! 」


「いつの間に! 」


 近すぎてブラックホール砲は使えない。


「副砲発射準備」


「間に合いません。ブラックシャークマークⅡ の全主砲にロックされました」


 艦長が言葉を失う。


― ― 完敗だ


 それでも抵抗する。


「総司令部に次元通信しろ」


「今さら援軍を要請しても… … 」


「言われたとおりにしろ! 」


「本艦の六次元座標を送信! 」

 

[555]

 

 

* * *


「全門。発射! 」


「待ってください! 強力な次元通信エネルギーを観測! 」


「内容は? 」


「七次元波通信です。内容の解析はできません」


「察しは付く。全門連続発射! 」


 並列航行していたブラックシャークマークⅡ の主砲が火を噴く。


* * *


「見事な攻撃だ。ブラックホール砲が完全に封じ込められた」


「敵の主砲が! 」


「ブラックシャークマークⅡ か… … それより艦長の腕が… … 」


 旗艦は跡形もなく消える。


* * *


「旗艦撃沈」


 ブラックシャークマークⅡ の艦橋に歓声がとどろく。

 

[556]

 

 

「残りの戦闘艦を攻撃します」


「待て! 」


 歓声に加わらなかったのはR v 2 6 とノロだけだった。


「R v 2 6 。この宇宙空間から緊急待避だ! 」


 即座にR v 2 6 が同調する。


「どこでもいい。急いで待避する」


 歓声がねじれるように消滅する。ホーリーが不満そうにR v 2 6 に抗議する。


「何故だ。敵を全滅させてマークⅡ の実力を見せつけるべきなのに」


「旗艦が攻撃を受ける直前に七次元の総司令部に出動要請をしたはずだ」


「援軍が来たって同じように戦えばいい。それにすぐ来るかどうか… … 」


 ノロが制する。


「すぐ現れる」


「そんなことはない。奴らの対応はのろい」


 ノロはホーリーを無視してR v 2 6 を見つめる。


「移動準備完了… … 」


 中央コンピュータの声が途切れると珍しくR v 2 6 が叫ぶ。


「どうした! 中央コンピュータ! 」

 

[557]

 

 

「移動できません! 」


 ノロとR v 2 6 が次元浮遊透過スクリーンを見て驚く。スクリーンには砂時計マークが五つある。


「ここは七次元空間か? 」


 中央コンピュータが応える前に広大が否定する。


「ここは六次元の宇宙空間です」


「だったらなぜ時間軸が5 軸もあるんだ! 」


 六次元の世界なら時間軸は4 軸のはずなのにマークⅡ がいる場所では時間軸が5 軸もあるからノロやR v 2 6 が驚いたのだ。R v 2 6 は説明をノロに任せて対処方法を模索する。


「七次元軍がこの付近の時間軸をコントロールしている可能性が高い」


「そんなバカな。旗艦は一瞬にして破壊された。いや、戦闘艦が残っている。やっぱり全艦を葬るべきだったんだ」


 ホーリーが興奮して自説の正しさを訴える。


「そうじゃない」


 ノロが否定すると広大がスクリーンの砂時計を注視する。


「五つ目の砂時計に注目してください」


 他の砂時計は上から下に砂が落ちているが、五つ目の砂は下から上に移動している。もちろん模擬的に表示されているのだが、この時空間の時間軸の流れを正確に示している。

 

[558]

 

 

 砂時計に注目していなかったミリンが突然大きな声を上げる。


「旗艦が、旗艦が! 」


 スクリーンには破壊されたはずの旗艦が映っている。


「この映像を戻してゆっくりと再生しろ! 」


 ノロの要求どおりに中央コンピュータがスクリーンに投影する。木っ端微塵に破壊されたはずの旗艦が元に戻る映像を見てホーリーを筆頭に海賊たちが口々に叫ぶ。


「復活した? 」


 この光景を別の角度から分析している者がいる。瞬示と真美だ。


「瞬ちゃん! どこかで同じようなことを経験したことがあるわ」


 真美の言葉に瞬示が大きく頷く。一方海賊たちの驚きの声が続く。


「復活したんだ! 」


 ノロがきっぱりと否定する。


「違う! 落ち着け」


 ノロはこの事象を完全に理解すると続ける。


「五番目の時間軸の時間が戻っているんだ! 」


 あることを思い出した瞬示と真美がノロを見つめる。

 

[559]

 

 

「R v 2 6 。対処方法を構築してくれ」


「すでに防御態勢を取りました」


「ふー」


 ノロはR v 2 6 が同じ考えを共有していることに気付くと少し余裕を持つ。


「説明は後だ! 」


 すでにマークⅡ は破壊されたはずの旗艦と同じ性能を持つ七次元の戦闘艦、しかもその数は百隻を下回らない。


「完全に包囲された」


 何とかトリプル・テンで身を隠してはいるが、包囲網は緩まない。持久戦が長引けば勝敗は明らかだ。


「奴らのペースに引きずり込まれた」


「のろのろペースか」


 ホーリーの言葉にノロがムッとする。


「超スローペースと言え! 」


 サーチがホーリーの脇腹を小突く。


「非常事態よ。言葉を慎みなさい」


「思考時間が取れるという意味では最高のペースだ」

 

[560]

 

 

 ノロが自嘲気味に笑うと瞬示と真美が先ほど思い出したことを伝える。


「僕たち地球に派遣されたとき、よく似た現象を見た」


「それはある山道を歩いていたときのことだったわ」( 第一編第7 章「暴走時計」参照)


「山門を通り過ぎるとその山門が崩れ落ちて消滅したのに戻ると山門が元に戻った」


 ノロが瞬示と真美の話をじっくり聞いた後、全員に向かって指示する。


「次元移動するんじゃなくてゼロから瞬間的に最大速度まで加速してここから脱出する」


「全員レッドボックスに入ってショックに備えろ」


「あっ、敵が動き出しました。こちらの時空間座標を把握したのかも知れません」


「急いでレッドボックスへ。あとはR v 2 6 と中央コンピュータにすべてを任せる」


「了解」


 R v 2 6 が船長席でパワーシートベルトを入念に身体に巻き付けて固定する。ホーリーがノロを担ぐとみんなと一緒にレッドボックス室に向かう。レッドボックスに入れば次元時間衝撃に対して身を守ることができる。


「中央コンピュータ。何とか時間を稼げ! 」


「やむを得ません。船内を六次元化します」


 ホーリーの横にいたサーチがホーリーと六次元化するとノロが床に投げ出される。先に艦橋から出ていたイリの身体が勝手に後戻りしてノロと一体化する。

 

[561]

 

 

 ノロ・イリはもちろん瞬示・真美、広大・最長、ホーリー・サーチ、ケンタ・ミリン、住職・リンメイたちがレッドボックスに瞬間移動する。アンドロイドの海賊たちはR v 2 6 とともに持ち場の座席に身体を固定する。


「透明化を解除! 全主砲連続発射! 」


 R v 2 6 の声が響き渡る。と同時に七次元の戦闘艦から副砲の攻撃を受ける。トリプル・テンの装甲が攻撃を跳ね返すとマークⅡ の主砲から放たれたレーザー光線が相手に打撃を与える。


「主砲、撃ち方、やめい! 全エネルギーを六次元エンジンに投入しろ! 」


 すぐさま中央コンピュータが応じる。


「エネルギー回路オープン完了。エネルギー投入開始。投入しながらでも最大速度にまで加速は可能」


「発進! 」


 マークⅡ は驚くべき加速発進をする。何隻かの敵戦闘艦に接触しながらもすぐに光速0 ・3まで加速してこの宇宙空間から消え去る。


* * *


「消えました! 」

 

[562]

 

 

 緩慢だといっても実戦だ。


「艦載機を発進させて追跡しろ! 」


「了解。緊急発進させます」


 大型戦闘艦から次々と次元戦闘機が飛び出すとすぐ光速0 ・7 の最高速度に達する。


「逃がすものか」


「ブラックシャークマークⅡ には戦闘機は? 」


「搭載していると言う情報はありません」


「反撃を受けることはないということか」


* * *


「多数の宇宙戦闘機接近中! 」


「何機だ! 」


「約七百機」


 R v 2 6 が驚く。


「次元パルスレーザー砲だけでは迎撃は無理だ」


 ノロはレッドボックスで睡眠中だ。R v 2 6 は瞬間的にノロならどう対処するか想像する。


「すぐ追いつかれてしまう。どうせ追いつかれるのなら… … 」

 

[563]

 

 

 想像した考えを実行に移す。


「反転! 」


「了解! 」


「敵速は? 」


「光速0 ・7 のままです」


「反転完了」


 アンドロイドの海賊たちがR v 2 6 の命令を迅速かつ忠実に実行する。


「ぶつかります」


「このまま突っ込め! 」


 パワーシートベルトを外すとR v 2 6 が立ち上がって檄を飛ばす。光速0 ・3 のブラックシャークマークⅡ と光速0 ・7 の次元戦闘機が至近距離ですれ違うことになる。


「ショックに備えろ! 」


 幸いなことにアンドロイド以外の海賊はもちろんノロたちもレッドボックスにいる。


「敵宇宙戦闘機は回避しません」


「回避できないのだ。衝突しないことを祈るほかない」


 R v 2 6 が座るとパワーシートベルトを身体にぐるぐる巻いてかがむ。次元透過スクリーンが真っ白に輝くとマークⅡ が激しく振動する。振動が収まるとすぐさまR v 2 6 が命令する。

 

[564]

 

 

「状況は? 」


「本船に異常は見当たらず。敵宇宙戦闘機、半減! 次元パルスレーザー砲発射準備しますか? 」


「無駄だ。やり過ごした超高速戦闘機に効果はない。とにかく凌げた」


 R v 2 6 がフーッと息を吐くと誰かが質問する。


「いったい、何が起こったのですか」


「狭い道路でダンプカーとオートバイの暴走族が猛スピードですれ違ったようなものだ」


* * *


 一息ついたがほんの一瞬に過ぎなかった。


「残りの艦載機接近中」


「素早すぎる! 」


 さすがのR v 2 6 も狼狽えるが、すぐにチャンスと捉え直す。


「あっ! 分散しました」


「同じ手は使えない。次元パルスレーザー砲準備」


「準備完了」


「ノロを起こせ! 」


「敵戦闘機。上下左右に分散」

 

[565]

 

 

「十分引きつけてから次元パルスレーザー砲を発射。主砲も使う。主砲は超拡散モードに」


「了解! 」


 ブラックシャークマークⅡ が小刻みな振動を起こす。艦載機がレインボー振動光線を発射しながら近づいてくる。


「大丈夫だ。この程度の攻撃ではトリプル・テンの装甲はビクともしない」


 緊張が艦橋を包む。


「発射は? 」


「もう少し引きつけろ」


 砲撃手が焦るのは無理もない。艦載機が光速0 ・7 で近づいてくるからだ。


「発射! 撃ちまくれ! 」


 まず次元パルスレーザー砲が発射される


「すれ違いざまに主砲発射! 」


 さすがアンドロイドの海賊だ。言葉ではなくR v 2 6 のC P U からの直接命令を瞬間的に実行する。しかし、次元パルスレーザー砲は余り役に立たなかった。だが離れる敵宇宙戦闘機への拡散発射された主砲からの攻撃は意外と有効だった。それでも投げ網のような広がった主砲の強力なレーザーから逃れた敵宇宙戦闘機が反転してマークⅡ に向かってくる。中央コンピュータが警告する。

 

[566]

 

 

「同じ箇所を重複攻撃されたらトリプル・テンの装甲が持ちません」


「分かっている」


 しかし、R v 2 6 は有効な防御態勢を模索できない。苦し紛れに主砲の拡散砲撃を継続させる。そのときノロが艦橋に現れる。


「主砲発射停止! 」


 R v 2 6 が驚く。


「ここで食い止めなければやられます」


「透明化しろ」


 すぐさまアンドロイドの海賊がノロの命令を実行する。


「主砲発射停止。透明化バリアー作動開始」


 R v 2 6 は士気命令系統を明確化するため船長席から飛び降りるとノロを抱き上げ船長席に座らせる。


「中央コンピュータ! 透明化したらトリプル・テンの損傷箇所をスクリーンに投影しろ。通信手! オルカを呼べ! 」


 矢継ぎ早の命令に誰もが一心不乱に命令を実行する。


* * *

 

[567]

 

 

「消えた! 」


 艦載機から報告が入ると艦長がたしなめる。


「消えたのではない。姿を消しただけだ。その辺にいるはずだ」


 こんな時ヒトデ型戦闘艦がいれば粘着光線を発射してブラックシャークマークⅡ の船影を浮かび上がらせることができるが、すでに五次元軍との連合関係は破棄されている。


「第五時間軸をずらして探索せよ」


 そのときオルカが現れる。しかし、艦載機がオルカをマークⅡ と誤認する。


「探索する前にマークⅡ が姿を見せました。攻撃します」


* * *


「透明化解除」


 オルカの横にブラックシャークマークⅡ が現れる。


「次元パルスレーザー砲発射。オルカにも同じ命令を」


 急に二隻の宇宙戦艦が現れたので艦載機の攻撃が乱れる。しかも探索態勢を取っていたからスピードも落ちていた。そこにマークⅡ とオルカから次元パルスレーザー砲が発射されたので、かなりの艦載機が撃破される。それでも攻撃を逃れた艦載機が速度を上げてパルスレーザー砲をぬうように激しい攻撃を再開する。

 

[568]

 

 

「オルカからトリプル・テンの補給を受けろ」


 ノロはひるまない。見る間のうちにオルカの黒い部分が白色に変わる。やがてオルカは白一色になる。


「オルカを次元移動させろ」


 しかし、トリプル・テンをマークⅡ に供給し終えたオルカは集中攻撃を受けて大爆発を起こす。


「やられた! 」


 ホーリーが叫ぶ。


「心配するな。オルカには乗務員はいない。敵編隊はまだ態勢が立て直せていない。主砲も動員して総攻撃する」


 幸いなことにオルカが破壊されたのでマークⅡ は気兼ねなく全方位に攻撃できる。激しい攻防を繰り返した後、勝利を手にしたのはマークⅡ だった。R v 2 6 が改めてノロの力量に驚く。


「オレがレッドボックスで音楽でも聴いていたと思っていたのか」


 緊張感がほぐれたとき、一旦表情を緩めていたノロはすぐ厳しい血相に変える。


「戦闘が終わったわけではない」


 ノロのセリフが終わるか終わらないうちに中央コンピュータから最大級の警告が発せられる。

 

[569]

 

 

「敵本隊が接近中! 」


* * *


「同じ手は使えない。逃げるしかないな」


 ノロがR v 2 6 に提案するとホーリーが首を横に振る。


「艦載機が追いかけてくる。逃げ切れない」


「艦載機を使い果たしたはずだ」


「復活するんじゃ? 」


 ホーリーが食い下がる。


「それはない。時間軸を利用して復活させるには艦載機は小さすぎる」


 R v 2 6 が割り込む。


「ノロの言うとおりだ」


「逃げては問題の解決にならない」


 なおもホーリーが食い下がると、ノロが考え込んでいるのでR v 2 6 が切り出す。


「逃げずに戦って勝利したとしよう。その後七次元軍は自分たちしか操れない時間軸を使って戦場を過去に戻す。しかも増強して」


 ホーリーが神妙になる。

 

[570]

 

 

「次の戦闘は今までの戦闘と比べて相当厳しい戦いになる。ノロの言うとおり、ここは逃げるしかない。問題はどこへ逃げるかだ」


 R v 2 6 が心配そうにノロを見つめる。すでにノロは床で大の字の態勢を取っている。


* * *


 しばらくするとノロが起き上がる。イリが黙ってノロの口元のヨダレをハンカチで優しく拭き取る。


「やっぱり戦う」


 R v 2 6 がやんわりと反対する。


「逃げ回るうちに勝機が訪れるという作戦ではないのですね」


 ノロが住職の数珠を見つめる。


「やはり堂々巡りだ」


 住職が数珠を回すのを見てノロの心が揺れる。


「超一級の攻撃態勢を取れ」


 R v 2 6 の声が艦橋に響くとノロが叫ぶ。


「攻撃態勢を解除しろ」


「えっ? 」

 

[571]

 

 

「この時空間では戦わない。やっぱり逃げる」


 すぐさまR v 2 6 が命令を変更する。


「攻撃態勢解除。全速力でこの時空間から離脱する。全エネルギーをメインエンジンに投入! 」


「目的地は? 」


 操舵士が尋ねるとR v 2 6 がノロに視線を移す。


「黒鳥星雲、B B H だ」


 中央コンピュータが驚く。


「えーっ! B B H はこの宇宙最大のブラックホールが存在する時空間です」


「そうだ。すぐそこへ移動しろ」


* * *


「さすが、六次元の生命体が造船して五次元の生命体が修理改造してくれただけのことはある」


 次元浮遊透過スクリーンに多数のブラックホールが見える。三次元の生命体にも可視化できるように設計されている。もちろんノロのアイディアを具体化したものだが。


「まるでブラックホールの巣だわ」


「大小、何でもありだ。この付近はブラックホールの百貨店みたいなもんだ」


「百貨店なら何を買おうかとわくわくするけれど、そんな雰囲気じゃないわね」

 

[572]

 

 

 のんきなふたりの会話にホーリーが参入する。


「なぜ、こんなところへ来たんだ? 」


「ごもっともな質問だ」


 ノロに余裕が戻った。


「七次元軍がどのようにブラックホールをコントロールするのか、確認する」


「ここは七次元軍の庭のようなところじゃないか。大丈夫か? 」


 ホーリーの心配をよそにノロが次元ソナー探索手に確認する。


「追っ手は? 」


「確認できません」


「七次元の生命体の対応は早いときもあるが、原則鈍いもんなあ。でも油断はできない」


 のんきなノロの言葉にホーリーがイラつく。


「奴らが現れる前に備えというか何、か準備はしないのか? 」


「戦うためにここに来たのではない」


 そのとき次元ソナー探索手と中央コンピュータが同時に声を上げる。


「七次元艦隊が現れました! 」

 

[573]

 

 

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