【次元】六次元 七次元
【空】 ブラックシャークマークⅡ
【人】 ノロ イリ ホーリー サーチ R v 26 セブンヘブン
* * *
「あの一番でかいブラックホールに近づきながら反対側を目指して全速前進だ! 」
七次元艦隊が現れた時空間座標を確認するとノロが反応する。
「次元移動しないのですか」
中央コンピュータが確認する。
「何度も言っているだろ。観察するためにここへ来たんだ」
静観していたR v 2 6 が中央コンピュータの言いたいことを補強する。
「次元移動しなければ捕まってしまう。艦載機の最高速度は光速0 ・7 です」
「それにブラックホールに近づけばこちらが先にやられる」
ホーリーが追加するとノロが「ふん」と鼻先であしらう。
「本船はそんな柔ではない」
R v 2 6 が急に手を打つ。
「ブラックホールの強烈な引力を利用して加速するのか」
[576]
ノロが笑いながらR v 2 6 に頷くと応じたのはホーリーだ。
「そうか。うまくいけば光速にまで加速できる。艦載機を振り切るのは簡単だ」
「それは早計です」
R v 2 6 がやんわりと否定する。
「光速に達すると時間が止まります」
ホーリーからR v 2 6 の視線がノロに戻る。ノロは頷くだけで相変わらず次元浮遊透過スクリーンを注視する。艦載機が迫ってくるとすかさずR v 2 6 が中央コンピュータに命令する。
「スイングバイ! 」
ブラックシャークマークⅡ の航路が急変する。
* * *
艦載機編隊長が狼狽える。目の前にブラックホールが迫る。
「反転! 」
ブラックシャークマークⅡ の目前で攻撃態勢に入った瞬間、異変が起こった。マークⅡ の進路が急変して一気に光速0 ・6 まで加速したから驚くのも無理はない。
「ブラックホールに突入します! 」
艦載機はブラックホールをコントロールできないようだ。反転も間に合わない。編隊長の悲痛な叫びとともに全艦載機がブラックホールに吸い込まれる。
[577]
悲鳴すら吸い込まれて聞こえない。
* * *
ノロが解説するまでもなく誰もが現状を理解する。次元浮遊透過スクリーンを見つめながらホーリーが呟く。
「スピードの出し過ぎだ」
しかし、ノロは気を引き締めながらR v 2 6 に問いかける。
「敵本体にも同じ戦術が通用するだろうか? 」
R v 2 6 が首を横に振る。
「戦う前から否定するのはイヤですが、他の作戦を考えるべきでしょう」
「問題は奴らがどうやってブラックホールをコントロールするかだ」
「ブラックホール砲が鍵を握っているように思います」
「オレもそう思う。でもどうやって… … 」
「とにかくこのスピードを生かしてここから離れましょう」
「いや、留まる。観察優先だ」
「と言うことはブラックホールの衛星になるとでも」
[578]
「そうだ。吸い込まれないように用心しながら周りを回るのだ」
* * *
「艦載機からの連絡が途絶えました」
副艦長が他人事のように報告する
「撃墜されたのか? 」
「分かりません」
「ブラックシャークマークⅡ は? 」
「のんびりとブラックホールの周りを回っています」
「ノンビリではない! 甘く見るな」
「そう言えば猛スピードで回っています」
「ブラックホールだらけのこんな場所に何故移動してきたのだ? 」
思考を続ける艦長に沈黙を強いられた副艦長が口を開く。
「セブンヘブン司令官がこちらに来られます」
「何! 出迎えろ」
セブンヘブンが艦長の真横に現れる。
「出迎えなど不要だ」
[579]
艦長が一歩引く。しかし、セブンヘブンはこれまでの戦いぶりを問うことなく言葉を続ける。
そしてレインボーモニターに映るマークⅡ を注視する。
「あれがブラックシャークマークⅡ か」
初めて見るセブンヘブンは正直な感想を漏らす。
「三次元の宇宙戦艦にしては威厳がある」
ここで艦長の制止を無視して副艦長が発言する。
「たかが三次元の宇宙戦艦。知れています」
「お前は首だ」
セブンヘブンの一言で副艦長が黙り込む。
「あの宇宙戦艦にどれだけ犠牲を出したことか。しかも悠然とブラックホールの周りを回っている。あれでは艦載機をいくら投入しても攻めきれない。私が指揮を取る」
目の前に七色に輝く巨大な宇宙戦艦( レインボー戦艦) が現れるとセブンヘブンが人事異動を発令する。
「お前はレインボー戦艦の副艦長に任命する。私の命令を確実に実行するのだ」
「心得ました」
* * *
[580]
次元浮遊透過スクリーンの一角が七色に輝く。
「なんだ、あれは」
六次元の技術力を総結集して建造されたブラックシャークマークⅡ の次元浮遊透過スクリーンを持ってしてもはっきりとは見えない。
「ここに現れたと言うことは七次元軍最強の宇宙戦艦なんだろう」
ノロが腕を組んで模索する。
「やはりここから待避すべきではないでしょうか」
R v 2 6 が進言するが、ノロは返事をしない。
「確かに超巨大なブラックホールをはじめ多数のブラックホールが存在する宇宙空間で戦えば彼らの力量が分かるかも知れません」
なおもノロの沈黙が続く。思考を邪魔してはとR v 2 6 が言葉を止めるとノロが口を開く。
「続けてくれ」
R v 2 6 が声量を下げて続ける。
「問題は巨大ブラックホールです。ブラックホールというものは絶対に分裂することはありません。周りにブラックホールがあれば合体します。彼らが本当にブラックホールをコントロールできるのなら積極的に合体させるはずです。そうなれば安易にブラックホールの周りを回りながら彼らの攻撃を防ぐことはまずできないでしょう。暗黒のブラックホールに対して七色の宇宙戦艦。ここに彼らがブラックホールをコントロールできる鍵があるのでは?
でもその鍵の形が見えません」
[581]
R v 2 6 がノロの反応を待つ。
* * *
「巨大ブラックホールに向かってレインボーブラック砲を発射しろ」
「了解」
「勝負は瞬間的につく。念のために全戦闘艦にダイヤモンド流動弾の発射準備をさせろ」
「レインボーブラック砲発射準備完了」
「すべての戦闘艦のダイヤモンド流動弾発射準備完了」
「発射後、全時間軸をロックする」
「了解」
「今一度確認せよ」
念には念を入れるセブンヘブンに「了解」の信号が集中する。
「発射! 」
* * *
[582]
「七色の強力な光線が発射されました」
「巨大ブラックホールの反対側に回り込め! 」
「その必要はありません」
「? ! 」
「光線は巨大ブラックホールに向かっています」
ノロとR v 2 6 が同時に叫ぶ。
「離脱! 」
いきなりブラックシャークマークⅡ のエンジンが全開して七次元艦隊に向かう「全戦闘艦からダイヤモンド流動弾が発射されました。本船に向かってきます」
ノロが素早く多次元エコー発射装置席に向かう。席に座ると発射装置が解除される。ノロの全身が生体認証になっているのだ。
「これしかない! 」
浮遊透過キーボードを操作するとパネル中央部から大きな赤いボタンが迫り上がる。
「なむさん」
一抹の不安を感じながらノロは大きく息を吸うと両手でボタンを押す。
「多数のダイヤモンド流動弾、接近中。回避不能」
いくらトリプル・テンの装甲で守られているとはいえ、百発以上のダイヤモンド流動弾に堪えることは不可能だ。
[583]
「どうした? 」
ノロが焦る。必死に赤いボタンを押し続ける。R v 2 6 やホーリーや海賊たちがノロと浮遊透過スクリーンを交互に見つめる。スクリーンには七色に輝く美しいダイヤモンド流動弾が数え切れないほど見える。
「間に合いません! 」
中央コンピュータが叫んだとき、七色に輝く粉のような光が船首周辺に現れる。マークⅡ
の正面から見るとサメのような口が開いて、ちょうどノロが横に口を開くのと同じように、異なるのは開いた口には鋭い歯が並んでいて、その隙間から光の粉が無数に出てくる。もちろん超スローモーションで確認できればの光景だ。光なのに粉は船首付近で漂う。その数が見る間に増えると七色から白色に変化しながら球体を形成する。その球体がマークⅡ の何十倍にもなると一気に前方全方向に飛び出す。
長々と説明したが、多次元エコーが発射されてからすべての方向に光が向かうまでの時間はほんの数秒に過ぎない。その広大な光の中にダイヤモンド流動弾が突入するとすべての色を失って消滅する。そして七次元の宇宙戦闘艦をも原子レベルまで解体する。
* * *
[584]
レインボー戦艦は咄嗟に七次元の世界に待避してレインボー次元モニターでブラックシャークマークⅡ を観察する。いや観察するというような余裕はない。
「全滅か… … 」
さすがのセブンヘブンも言葉が続かない。艦内では誰もが初めて見る多次元エコーの威力に恐怖を抱く。
「あれが多次元エコーなのか。はじめ七色に見えたが… … 」
セブンヘブンが声を振り絞ると副艦長が叫ぶ。
「この七次元の時空間にも多次元エコーが到達します! 」
「なんだと! 」
「まるで津波です」
「このままでは我らの次元空間は消滅するかも知れません」
「多次元エコーの到達時間を延ばせ! 」
セブンヘブンの指示で第五時間軸を何とかコントロールして時間を稼ぐ。
「動員可能な宇宙戦闘艦を結集させろ」
七次元の世界に残されていたすべての宇宙戦闘艦に緊急号令がかかる。しばらくするとレインボー戦艦の周りに七十隻近い七次元の宇宙戦闘艦が集合する。いくら七次元の生命体の行動が緩慢だといってもここは踏ん張る。
[585]
「最後の決戦だ。六次元の世界に戻れ! 」
「このままでは多次元エコーにやられるだけです」
副艦長が作戦の立て直しを進言する。
「多次元エコーはかなりのエネルギーを消費するはず。連続発射できると思うか? 」
「それは不明です。」
「残念ながらレインボーブラックホール砲は役に立たなかった」
主力兵器がマークⅡ に有効でないことに副艦長は不安を感じるが、自ら明確な作戦を持っているわけでもない。セブンヘブンが新たな作戦を告げる。
「今度はブラックホールからエネルギーの供給を受けてブラックホール砲を連続発射する。ブラックホールのエネルギーは無限だ。今度こそ」
セブンヘブンの作戦に副艦長が納得する。
「マークⅡ の前方に次元移動する。全艦に時空間座標情報を共有させろ」
「時空間座標確認」
意外と早い報告が各宇宙戦闘艦から返ってくる。
「本艦のレインボーブラックホール砲の発射と同時に全宇宙戦闘艦はブラックホール砲をマークⅡ に向かって発射しろ」
手応えを感じながらセブンヘブンが命令を続ける。
[586]
「次元移動! 」
* * *
「何とか凌いだな」
フーッと息を吐くノロにR v 2 6 の言葉が突き刺さる。
「背後から巨大ブラックホールが! 」
ノロと同じように気を抜いていた宇宙海賊が反応する。
「全速前進! 」
ノロが驚いて次元浮遊透過スクリーンを見つめる。合体に合体を重ねた巨大ブラックホールが超巨大ブラックホールに成長してブラックシャークマークⅡ を引きつける。
「全エネルギーをエンジンに投入! 」
R v 2 6 が叫んだとき艦橋が真っ暗になる。R v 2 6 の命令を必死に実行する海賊の目の前の次元モニターだけが輝いている。もがくようにマークⅡ が激しく揺れる。
「次元移動しろ」
ノロが叫ぶがR v 2 6 が首を横に振ると中央コンピュータが代わりに説明する。
「超巨大ブラックホールの引力で時空間がまるで二次元化してもつれたヒモ状態になりました」
ノロが苦笑する。
[587]
「多次元エコーの副作用か。気が付かなかった」
そのノロをあざ笑うかのように次元ソナー探索手が警告を発する。
「前方に何かが現れます。次元移動してきます」
全員次元浮遊透過スクリーンに視線を移す。
「レインボー戦艦? 」
* * *
現れたのはレインボー戦艦だけではなかった。レインボーブラックホール砲に続いて七十隻の七次元の戦闘艦がブラックホール砲を発射しながらブラックシャークマークⅡ に迫る。
「主砲発射準備! 」
ノロの命令にR v 2 6 が冷静に応じる。
「すべてのエネルギーがエンジンに投入されていて主砲発射不能」
「そうだった。エネルギーのエンジンへの投入を継続! 」
ノロは瞬間的に考えを変更する。
「反転! 」
「えーっ! 」
R v 2 6 以外の誰もが驚く。
[588]
「反転だ! 超巨大ブラックホールの中心へ突入しろ! 」
しかし、誰もノロが狂ったとは思わなかった。
七次元の戦闘艦隊のブラックホール砲から逃れるにはこの作戦しかないことを察したからだ。今のマークⅡ の最高速度は光速0 ・6 程度だ。超巨大なブラックホールを利用してさらにスイングバイ航法を取ったとしても光速近くまで加速するには時間がかかる。いっそうのこと超巨大ブラックホールに飛び込んだ方がさらに加速できる。
もちろん自殺行為に近いが。問題はマークⅡ が超巨大なブラックホールの重力に堪えうるかだ。
「アンドロイド以外は六次元化してレッドボックスへ次元移動! 」
ノロとイリが六次元化して消える。ホーリー・サーチも… … 。
レッドボックスの中でノロ・イリが呟く。
「後はトリプル・テンだけが頼りだ」
* * *
「何だと! 」
セブンヘブンが驚く。
「ブラックホール砲発射中止」
[589]
「ブラックホールに飛び込むとは! 」
しかし、そこはセブンヘブンだ。
「念のためにあの超巨大ブラックホールの出口の時空間座標を調べろ」
「あんな超巨大ブラックホールに入れば我々だって無事では済まされません。もう勝ったも同然です」
セブンヘブンが副艦長を睨む。
「命令を実行しろ」
「りょ、了解」
「出口の時空間座標が分かったらそこへ次元移動する」
* * *
ブラックシャークマークⅡ の船内は完全に三次元化されている。R v 2 6 とアンドロイドの宇宙海賊が真っ黒な次元浮遊透過スクリーンから視線を外してからどれほどの時が流れたのだろうか。
次元浮遊透過スクリーンの端に表示されているすべての時計は止まったままだ。ブラックホールの中では時間そのものが存在できない。
「静かすぎる」
[590]
人間と変わらなくなったと言っても所詮アンドロイドだ。時間が止まろうと体内時計は正確に動いている。R v 2 6 たちはパワーシートベルトで身体を固定しているが、マークⅡ は微動だりしない。
「レッドボックス内の生体反応を確認しろ」
R v 2 6 の指示に中央コンピュータが応える。
「言いにくいことですが、生体反応はありません」
「まさか! 死んだのか? 」
「安心してくださいとは言えませんが、死んだと言うことではありません」
「説明しろ」
「ここは時間ゼロの世界です。生命体は時間がないと生存できません。かといって死んだというわけではありません」
R v 2 6 が必死で考えながら、ある言葉にたどり着く。
「冬眠? 」
「現状を説明する言葉としてはかなりセンスのいい言葉です」
R v 2 6 が大きく息を吐き出す。
「春が来るまで待つしかないのか」
「花見の準備でもしますか? 」
[591]
R v 2 6 の表情がほんの少し緩む。
[592]