第百三十二章 レフトアーム


第百二十九章から前章( 第百三十一章) までのあらすじ


 首星で建造中のブラックシャークマークⅡ が五次元軍の手に落ちるが、三太夫は大総統に不満を持つ五次元の市民たちを味方にして奪回する。しかし、ブラックホールが迫る首星で修理ができないので広大たちがマークⅡ を時間島でノロの惑星に移す。


 修理を終えたもののマークⅡ はエンジントラブルでノロの惑星の上空で停止する。その周辺で五次元軍との壮烈な戦いが始まるがライトアームの協力を得た三太夫が奮戦する。


【次元】三次元
【空】 限界城
【人】 四貫目 お松 三太夫 ライトアーム レフトアーム 瞬示 真美
    セブンヘブン 大総統


* * *


 三太夫率いる素人集団のヒトデ型戦闘艦が次々と大総統率いるヒトデ型戦闘艦を撃破する。


「頑張り過ぎだ」


 ライトアームが心配する。

 

[488]

 

 

「戦意が高いのだ」


 三太夫の表情が緩むとライトアームが苦笑いする。


「と言うより相手に全くやる気がない。あれが最後の一隻です」


 三太夫が命令を変更する。


「攻撃中止! 」


 驚くライトアームに問いかける。


「七次元軍が動かない。おかしいと思わぬか」


「確かに七次元軍総司令セブンヘブンの艦隊が助けにきても不思議ではありません」


「あの戦闘艦を泳がせておけ。ただし警戒態勢は解除するな」


 ライトアームが頷きながら次元ソナー探索手に念を押す。


「この付近の時間軸の歪みを見逃すな。七次元軍が現れるはず」


 次元ソナー探索手が自信たっぷりに応える。


「私はその道の専門家です。任せてください」


「心強い。頼むぞ」


 下手な戦闘員より科学者や技術者の方が役に立つとは三太夫もライトアームも思っていなかった。その探索手が大声を出す。


「現れました! 歪みという生やさしいものではありません」

 

[489]

 

 

 三太夫が次元モニターを見つめるとライトアームが叫ぶ。


「限界城! 」


* * *


【何という無様な状況だ。ダイヤモンド流動弾攻撃は実行したのだろうな】
【もちろんです】
【結果は? 】
【それが… … 】
【失敗したのだな】
【失敗ではありません】
【結果を聞いているのだ】
【内紛があって… … 】
【もういい! 】


 すでにセブンヘブンの指揮下に入った限界城が大総統の旗艦に迫る。


【セブンヘブン! まさか! 】


 これが大総統の最後の言葉だった。皮肉にも大総統が最後の切り札として一族まで結集して築城した限界城から放たれた星形の光線によって旗艦が原子レベルにまで破壊される。そして限界城が生みの親である三太夫率いるヒトデ型戦闘艦隊にじわりと近づく。

 

[490]

 

 

* * *


 大混乱に陥っても不思議ではないのに三太夫率いるヒトデ型戦闘艦の構成員は慌てない。科学的な素養のためか、それともブラックシャークマークⅡ の修理がうまくいかなかったために傷ついたプライドのためか、極めて冷静だ。むしろ三太夫の方が興奮する。


「わしが考案した限界城で対抗してくれる。計画通りだ」


 三太夫が場違いの高笑いをするが、すぐに何かに気付いてライトアームに尋ねる。


「レフトアームの消息を知っているか」


「頭領もご存じのとおり死んだはずです」


「ならば五次元の世界で限界城を構築できる者は? 」


「頭領と私以外にいません」


「それならあの限界城は誰が構築したのだ? 」


「それは… … ! 」


 ライトアームが記憶をたどる。( 第四編第百五章「四貫目対五右衛門」参照)


「あのとき… … あっ! レフトアームは生きている! 」


「わしのように五次元の生命体の身体を取り込んで生きながらえた」

 

[491]

 

 

「元部下が敵となる。下克上… … 」


「元々レフトハンドは左寄りだった」


「私の命を引き替えてでもレフトハンドを」


「慌てるな。まだ推測に過ぎぬ。それより… … 」


 三太夫が矢継ぎ早に五次元の科学者に今後の作戦を伝える。説明が終了すると様々な提案が出されるがやがて収まる。


「理解できたようだ」


 ライトアームが興奮気味に尋ねる。


「こちらも限界城を構築するのですね」


「そうだ。限界城には限界城だ」


「しかし、相手は七次元軍をバックにした限界城です」


「確かに。ところで限界城を構成する五次元の生命体をどうやって確保したのか。どう思う? 」


「五体満足な戦闘員はそんなに残っていないはずです」


「科学者や市民はこちらになびいた」


「もしかして大総統一族はもちろんのこと負傷兵を無理矢理組み込んだのでは」


「規模からしてあの限界城にはかなわぬが、こちらは生気に溢れている」


「質で勝負するということですか」

 

[492]

 

 

「最初の一撃が勝敗の鍵を握る。混乱に乗じて相手の限界城に乗り込む」


「白兵戦。でも城の守りは堅いはず」


「わしが忍び込む。ひとつでいいから城門を開かせる」


「そこから攻め込むと? それなら私が先陣を! それにアイツとの決着も付けたい」


「七次元の生命体がバックアップしているとすればレフトアームとはいえ強敵だ」


「志願兵を募ろう。当然志願兵は限界城の構成員から外さなければならない」


「ますます我々の限界城の規模が小さくなります」


「出城のようなちっぽけな城になるかも知れん。だが俊敏に戦えるというメリットもある」


* * *


 巨大な限界城の天守でレフトアームが指揮を執る。


「素早い。さすが三太夫だ」


 大総統がいない今、重しが取れたように五次元の戦闘員の士気が高まる。


「あんなちっぽけな限界城では勝負になりませんな」


「侮るな」


「標的はブラックシャークマークⅡ 。緊張感とスピード感を持って叩く」


「三太夫の限界城を無視するのですな」

 

[493]

 

 

「限界城をマークⅡ へ移動させろ! 」


* * *


「志願兵が続々と集結しました」


 ライトアームが驚く。先ほどまで敵だった五次元の戦闘員も前線に復帰したいと言う。その代表者が三太夫に面会を申し出る。


「通せ」


 早速現れた代表者がひれ伏す。


「ノロの惑星で手厚い治療を受けました。この命を三太夫とノロに捧げます」


「そうか。責任を持って命を預かる」


「ご自由にお使いください」


 そのときレフトハンドの限界城が動く。


「移動先は? 」


「ブラックシャークマークⅡ です」


「やはり! 体当たりしてでも阻止する」


 三太夫が覚悟する。


― ― 目的を明確にした。五次元の生命体の一番弱い時間軸から攻撃してやる!

 

[494]

 

 

 三太夫の目がランランと輝くと志願兵の中からこれはと思う者に命令する。


「お前がこの限界城の当主となって戦うのだ」


「えっ! 」


「わしとライトアームは敵限界城に侵入する」


 指名された志願兵が絶叫する。


「侵入? 無謀です」


 三太夫は応えずに懐の巻物を確認するとライトアームに命令する。


「限界城と接触したら遅れずに着いて来い」


 ライトアームが返事しようとしたとき大きな振動で限界城を構成する五次元の生命体のなんとも言えない悲鳴がする。


「衝突しました! 」


「なんだと! 」


 そう言い残すと三太夫とライトアームの姿が消える。


* * *


「衝突しました」


「三の丸が炎上しています」

 

[495]

 

 

「三の丸の戦闘員を総動員して三太夫の限界城を破壊しろ! 」


「ええっ? そんなことをすれば… … 」


「三の丸の館主に命令! 。敵限界城を破壊しろ」


「何だって! 衝撃で負傷した戦闘員の救助が先では! 」


「すぐさま実行しろ」


 さすがのレフトアームも若干不安を感じる。士気の高揚が続かないのだ。


「ダイヤモンド流動弾の発射準備! 」


「標的は? 」


「バカなことを聞くな」


「ブラックシャークマークⅡ ですか? 」


 士気の高揚を図るためにレフトアームが叱責する。


「お前たちはわしの直属の精鋭隊員だ。さっさと命令を実行しろ」


「待ってください。遠すぎます」


「わしに説教するのか! 何とかするのがお前らの仕事だ! 」


「了解。準備完了次第発射します」


* * *

 

[496]

 

 

「まさか衝突するとは」


「レフトアームは避けるつもりが全くなかったようです。お陰で簡単に侵入できました」


「油断するな」


 三太夫がライトアームをいさめる。


「城門を開いて志願兵を侵入させるつもりだったが、かなりの負傷者が出ているはずだ」


 三太夫が悩む。城門を開放しても戦える兵士がどれほどいるのか読めないからだ。


「このまま侵入してレフトアームと戦うには関門が多すぎる」


 そのとき瞬示から無言通信が届く。


{ 衝突地点で医学を心得ている構成員が負傷者の緊急治療を開始しました}


 続いて真美からも無言通信が届く。


{ 敵味方関係なく治療に当たる体勢に入りました}
{ そうか}
{ 希望の光が見えてきました}


* * *


「甘い奴らだ。医薬品を届ける振りをして皆殺しにしろ」


「待ってください」

 

[497]

 

 

 そう言った戦闘員がその場でレフトアームに射殺される。


「これはゲームじゃない。やるか、やられるかの真剣勝負だ! 」


 一瞬沈黙が流れる。いつの間にかレフトアームは大総統と同じ道を歩むようになった。そして将校たちに凄みを効かせる。


「命令を聞かぬ者は即刻射殺しろ」


 さすがに将校は対応が違う。


「我々は元大総統直属の精鋭部隊です。躊躇せず命令を実行します。まず衝突した箇所のフォーメーションを解除します」


― ― これで限界城を構成していた戦闘員が本来の持ち場に復帰することになる


「解除完了。武器を携行します」


「総攻撃! 」


 将校がレフトアームに告げる。


「現場で指揮を執ります」


「抜かるなよ」


* * *


「フォーメーションを解除した? まさか」

 

[498]

 

 

 三太夫がニタリとする。


「ライトアーム。運が向いてきた。お前は治療現場に行って反撃体勢を取るよう指示しろ」


「どういうことですか」


「レフトアームは一部の戦闘員の限界城構成任務を解いて負傷兵や医師を皆殺しにしようとしている。戦える者を集めて防御するのだ」


「しかし… … 」


「しかも奴らの方から開門してくれる。絶好のチャンスだ」


まだライトアームは納得していない。


「わしはその背後から攻撃する」


「まさか、ひとりで! 」


 三太夫が巻物を口にくわえる。その両端から青く輝く刃が飛び出る。ライトアームは無言でその場から消える。


* * *


 ライトアームの説明に寝返った敵戦闘員が痛みを堪えながら進言する。


「同じ仲間だ。本気で攻撃するはずがない」


「奴らにとって戦闘員は駒のひとつだ。裏切り者共々殺すはずだ。問題は武器だ」

 

[499]

 

 

「少し離れていますが武器倉庫があります」


「どこだ」


 重傷を負っているが先ほどの戦闘員が立ち上がる。


「案内します」


「助かる」


 そのとき誰かがライトアームに近づく。


「四貫目! 」


 お松もいる。


「三太夫はどこだ! 」


* * *


「攻撃開始! 敵は負傷者ばかりだ」


 レフトアームが将校に大号令を発する。


「バズーカー鉛砲攻撃開始! 」


 ところが驚いたことに同じバズーカー鉛砲弾がレフトアームの攻撃命令を受けた部隊に撃ち込まれる。


「なんだ! 」

 

[500]

 

 

 一瞬にして大混乱に陥る。


「ひるむな! 反撃しろ! 」


 勇ましい将校の声に抵抗する声がする。


「騙されたのかも」


「とても負傷者の攻撃とは思えない」


「寝返ったヤツがいる! 」


 統率が乱れ士気が急速に低下する。前線を離れる者が現れるとすぐさま雪崩のように撤退する戦闘員が増える。将校が逃亡する戦闘員に銃口を向けたとき、その将校の身体が五つに分断される。三太夫が双頭剣で切り捨てたのだ。その後ろにはバズーカー鉛砲を持った志願兵や敵だった戦闘員が控えている。


「踏ん張ってくれ! 」


 歓声がわくと三太夫は背を向けて限界城内部に突進する。巻物をくわえた四貫目やお松も追従する。


「三太夫のために戦う」


 怒濤のごとく今や味方の中心となった元限界城構成員が後を追う。


* * *

 

[501]

 

 

「何だと! 」


 レフトアームが狼狽える。


「白兵戦に持ち込むつもりです」


「限界城の中でか? 」


「そのようです」


「面白い。受けて立ってやろうじゃないか。侵入路付近の構成員を解除させて戦闘員として待ち伏せさせろ」


* * *


「おかしい。抵抗が弱すぎる」


 四貫目が進言するが、三太夫は意に介さない。それどころか四貫目に命令する。


「作戦は順調だ。お前は戻って負傷者をノロの惑星に移動させろ。それにお前にはノロを守るという重大な任務がある」


「目の前の戦いに勝てなければ意味がありませぬ」


「必ず勝つ」


 三太夫は譲らない。


「頭領としての最後のわがままだ」

 

[502]

 

 

 四貫目が三太夫の言葉を咀嚼して苦渋の選択をする。


「分かりました」


「四貫目。死ぬなよ」


「頭領こそ」


 一呼吸置いてから巻物を懐に仕舞うと四貫目はお松とともにその場から消える。


* * *


「包囲したぞ! 」


 三太夫率いる五次元の戦闘員たちの目の前で限界城の構成を解かれた多数の戦闘員が立ちはだかる。前方だけではない。


「後方にも! 」


 しかし、三太夫は落ち着いて命令する。


「気にするな! 突撃! 」


 三太夫が先頭に立って双頭剣を回転させながら大股で前進する。そして次々と撃破する。勢いとはすごいモノだ。後方からの攻撃は鳴りを潜める。


「本丸まであと少しだ」


 ここまで順調にいくとは三太夫自身も思っていなかった。しかし、そこは三太夫。攻める気持ちに油断はない。

 

[503]

 

 

もちろんかなりの犠牲者が出ている。数の上では負けていてもおかしくない状況だった。萎縮したわけではないがここで三太夫は作戦を変更する。


「後退する」


 ライトアームが首をひねりながら驚くも真意を探る。


「立て直しですか」


「いや。これからが本当の戦いだ」


「一対一の戦いと言うことですか」


「ライトアーム。わしは有能な部下を持って幸せ者だ」


 ライトアームがすべてを悟る。


「私がレフトアームと戦います」


「わし、ひとりで行く。後は頼むぞ」


「いかに頭領とは言え、この先は… … 」


「わしは限界城を知り尽くしている」


「私もです」


「黙って聞け。限界城の本丸で戦えるのはわしだけだ。限界城に打撃を与えれば後は何とでもなる。いくら士気が高くとも志願兵や負傷者が戦える相手ではない。後退も勇気ある作戦のひとつ。ここまで来たことを良しとする」

 

[504]

 

 

 元頭領とは言えども忍者の世界では命令は絶対だ。


「しかと心得ました」


 そして本丸に向かう三太夫の大きな背中を見つめる。そしてその後ろ姿を目に焼き付けると振り返る。


「撤退する」


* * *


 本丸に続く通路の壁や床や天井が騒がしく揺れる。ここで限界城を構成する五次元の戦闘員が分離して攻撃すればいかに三太夫といえども反撃不可能だ。


 しかし、そうはならない。たとえば天井を構成する五次元の戦闘員が本来の戦闘員に戻ったとたん、三太夫の双頭剣に切り捨てられるからだ。三太夫は巻物の真ん中を握って高速回転させることができる。首尾よく三太夫の周りを数十人の戦闘員が囲んだとしても一瞬のうちに皆殺しに合うだろう。


 つまり自らの命を守るためには壁や床や天井のままこの通路の構成員として動かない方が得策なのだ。だから揺れ動くに留めて行動を起こさないのだ。いや起こせないのだ。しかも三太夫の強面の含み笑いが恐怖心を誘う。


 三太夫は難なく本丸に迫る。やがて広い場所に到達する。そこは本丸の手前の櫓だった。一斉に構成フォーメーションを解くと一〇〇人以上の戦闘員が三太夫に襲いかかる。

 

[505]

 

 

「とう! 」


 三太夫の身体がまず四つに分かれる。四つ身分身の術だ。すぐさま双頭忍剣が回転しながら光線を発する。たまらず五次元の戦闘員が逃げようとするが、そのまま倒れる。櫓の一部も崩壊するがそのあとは静かになる。


 狭い広いは三太夫にとって有利不利の問題ではなかった。三太夫はゆったりとした足取りで確実に本丸へ向かう。


* * *


 レフトアームが三太夫の戦い振りを天守から眺める。


「ここが正念場」


 レフトアームが御殿室の天井、壁、床を順番に見つめる。そこにはセブンヘブンの協力を取り付けて五次元化した三太夫そのものを複製した五右衛門というアンドロイドを至る所に貼り付けている。


「三太夫に多数の三太夫のクローンが攻撃する」


 レフトアームがほくそ笑む。


「ただし、ここにたどり着いたらの話だが」

 

[506]

 

 

* * *


 本丸にたどり着いた三太夫が立ち止まって周りの気配を探る。


「よくぞ、ここまで来たな」


 どこからかレフトアームの声がする。三太夫は冷静にある一点を見つめる。


「何を躊躇している? 」


 今度は背後から声がする。視線を変えるが今度は天井から聞こえる。


「御殿室はすぐそこだ」


 三太夫は跳躍するといきなり御殿室に突入する。


「逃がさぬ! 」


 驚いて身を隠そうとするレフトアームに三太夫の右手がピクッと動く。正確に次元カブトワリが命中する。


 その瞬間、御殿室の壁や天井が、そして足元の床までが崩れる。咄嗟に浮遊姿勢を取ると三太夫の周りには自分そっくりのかなりの数の五右衛門が現れる。


「三太夫! 覚悟! 」


「レフトアーム! 何故に? 」


「お前にはいつも小言ばかり言われた。ライトアームばかり可愛がった報いを今受けるのだ」

 

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 三太夫は反論しない。反論したところで状況は変わらない。それよりも距離を詰める五右衛門の… … もちろん三太夫は自分自身を複製したアンドロイドであることは十分承知しているが、対処方法を模索する。


 次の瞬間全く動かない三太夫の身体が惚けたように見えてくる。


「次元分身の術を使うつもりだ! 油断するな! 」


 レフトアームの高揚した声が響く。三太夫は今まで使ったことのない六十四身分身の術を使う。分身しすぎると攻撃能力が落ちるのを承知で捨て身の戦法に出る。数多い五右衛門の集団に溶け込むように三太夫が紛れ込む。双頭剣を使うのではなく通常の電磁忍剣でひとりひとり仕留めていく。


「実像はひとつだ! 惑わされるな」


 レフトアームが焦る。それは双頭剣を使わずに電磁忍剣を使用する三太夫の戦略を見抜いたからだ。


 双頭剣を使用すると三太夫自身が特定されてしまう。しかし、五右衛門と同じ電磁忍剣を使用すれば誰が三太夫か分からなくなる。そっくりさんばかりで逆に敵味方が分からない。敵が何人にいようと三太夫にとって有利な状況だった。ライトアームや四貫目を連れてこなかったのには大きな理由があった。それは自分以外がすべて敵だという状況で戦うためだった。


 戦況は明らかに三太夫の方が有利だった。しかし、数が多すぎる。電磁忍剣のエネルギーにも限りがある。次元カブトワリにしても所持できる数は知れている。

 

[508]

 

 

しかもカブトワリはいざというときに残しておきたい。


* * *


「やられっぱなしじゃないか! 」


 戦況を見ていたセブンヘブンがレフトアームに怒鳴る。


「戦闘中だ。口を挟まないでくれ。大丈夫だ」


「どこが大丈夫なんだ! 」


「本丸の戦闘員は五右衛門で構成されている。いくら三太夫でもすべての五右衛門を電磁忍剣で切り捨てることはできない」


「どういうことだ」


「電磁忍剣のエネルギーは五右衛門の死と引き替えに吸収される。最終的には単なる刃に成り下がる」


「しかし、電磁忍剣だけが三太夫の武器ではない」


「確かに。奇妙な巻物を所持している」


「電磁忍剣よりかなり強力だ」


「初めて見た。しかし、その武器を使わずに三太夫は電磁忍剣で戦っている」

 

[509]

 

 

「? 」


「あの武器は目立つ。いくら分身の術を使っても本体の位置が浮き彫りになる」


「なるほど」


「やがて巻物を武器として使うはず」


「そのときが本勝負か」


「そのとおり! 」


* * *


 ついに三太夫は双頭剣を使用する。今まで以上に攻めまくるが、受ける攻撃も強くなる。分身の術を使っても本体の位置がすぐにバレる。しかし、三太夫は慌てない。


― ― 計算尽くだ


 しかし、さすがの三太夫も疲れてきた。ここは分身の術をやめて体力の温存を図る。分身の術を解くと驚くほどの身軽さで五右衛門を十数人単位で切り捨てる。しかし、今まで以上に次々と五右衛門が現れては攻撃してくる。


― ― いったい何人いるんだ


 まるで永遠に続く戦いのように感じる。三太夫に疲労感が漂う。


― ― いかん! 弱気は禁物だ

 

[510]

 

 

 しかし、限界城を乗っ取らなければブラックシャークマークⅡ の修理はできない。たとえ自分が死のうとも譲るわけにはいかないと三太夫は気力を振り絞る。


 そのとき三太夫の視線の片隅に正規移動装置が現れる。ライトアームの姿が見える。


{ 来るなと言ったはずだぞ}


 無言通信で制するがライトアームが正規移動装置から出てくる。


{ これを}


 電磁忍剣を受け取ると三太夫がライトアームを突き飛ばす。


{ 戻れ! }
{ そうは行きません}
{ ひとりなら周りは全部敵だ。その方が戦いやすい}


 しかし、この無駄口が命取りとなる。ふたりがいるところが浮き上がるように輝いているのだ。鋭い光線がふたりに向かう。三太夫が電磁剣を抜くとライトアームをかばうようにその光線を切り裂く。次々と光線が向かってくる。三太夫は電磁忍剣を捨て巻物の双頭剣を回転させるが握る手に光線が集中する。手首の先が消滅すると双頭剣が弾かれ高く舞い上がる。同時に巻物自体がスルスルと伸びてまるで蛇のように長くなる。蛇ではない。まるで竜が天に昇るようにその長さを増す。


 すぐさま手首から先を復元させると三太夫は電磁忍剣を拾い上げて竜となった巻物に釘付けになった何十体もの五右衛門に襲いかかる。

 

[511]

 

 

ライトアームも攻撃体勢に入る。


{ 戻れ! }


 ライトアームが構えを崩すと何人かの五右衛門が阻止しようと取り囲む。なんとか包囲網を突破して正規移動装置に乗り込む。


 本丸の遙か上空で竜の鋭い眼光がまるで太陽のように輝く。その間隙を縫って三太夫は天守に駆け上る。余りにも明るいため何も見えないが、その三太夫を追う者がいる。レフトアームだった。天守に到達した三太夫の背後から切り込む。


「うっ」


 三太夫の背中からグレーバイオレットの血が噴水のように噴き出す。しかし、三太夫はレフトハンドを無視して不動の姿勢を取って竜の目を睨み付ける。レフトアームがそんな三太夫を何度も背中から突き刺す。三太夫が倒れかかったとき竜の目から鋭い光線が三太夫の電磁忍剣に向かう。三太夫もろとも天守が、そして本丸が大爆発を起こす。

 

[512]