第百十章 紫花粉症


【時】永遠二十六世紀から二十九世紀

【空】地球ノロの惑星

【人】ホーリー サーチ ミリン 住職 リンメイ ノロタン Rv26

 

***

 

 限界城が自爆してから長い間平和な時代が続いた。すでにRv26は大統領職を辞任して一市民として暮らしている。元の身体に戻ったRv26は名誉大統領として、しかも唯一旧式のアンドロイドとして生きながらえる。つまり生殖機能を持たないアンドロイドのRv26は生きた化石となった。一方、ホーリーやサーチたち生命永遠保持手術を受けた人間はノロの惑星に戻って地球との関係を断った。永遠生命保持手術の効果を放棄することも考えたが、Rv26と同じくノロが戻ってくるまで、そしてあの巻物の謎を解明するまではこのまま生きることに全員の意見が一致したので、荒れ果てたノロの惑星に留まることにした。

 

 ところで、始めは誰も気付かなかったが奇妙なことが毎年のように起こるようになった。それは春だった。新たに就任したアンドロイドの大統領が憂鬱な表情で呟く。

 

「この季節になると奇妙な病気が流行るようになった」

 

[646]

 

 

 不祥事を起こせば当然任期は短くなるが、大統領の任期は五年で再選されても二期十年が限度となる。そして十年の任期を全うした大統領が人間だとすれば新大統領はアンドロイドから選ばれることになる。五年で大統領が替わればこの制限はない。人間の大統領が五年ごとの選挙で違う人間が当選すれば場合によってはずーっと人間の大統領が続くこともあるが、平和な時代ではほとんどの大統領が二期十年勤めるので、大統領は十年ごとに人間とアンドロイドが入れ替わることになる。そしてこのルールが定着した。新任の大統領はアンドロイドでHP8300という名前だ。人間のような名前に変更することも検討されたが、アンドロイドの伝統を守るためアルファベットと数字の名前を変更しなかった。これはアンドロイドの伝統だった。

 

「今年の桜の開花はいつだ」

 

 大統領が人間の補佐官に尋ねる。大統領がアンドロイドの場合は、十人いる補佐官のうち過半数、つまり六人以上の人間を補佐官に任命しなければならないし、更に筆頭補佐官も人間でなければならない規則がある。人間が大統領になるとその逆の人事が行われる。

 

 筆頭補佐官も事態を憂う。

 

「三月三日です。今年は大量の紫花粉が離散するという予報が出ています。厄介ですね。人間だけではなくアンドロイドも紫花粉症になります。死者は数百万人に達するという警告が出ています」

 

「いつから、桜の花びらが紫色になったんだろう」

 

[647]

 

 

「最新の研究では限界城が自爆した次の年からだと」

 

「限界城?」

 

「私も知りませんでした。数十年前から紫色の花びらは観察されていたのですが、ほんのわずかで、突然変異だと片付けられていました」

 

「どこにあった城なんだ。どんな……」

 

「函館です。もう三百年以上も前に自爆したらしいです」

 

「そんなに古い話か」

 

「五稜郭という別名があってその形は桜の花びらに似ています」

 

「桜の花びらは淡いピンク色が多い。なぜ紫なんだ?しかもグレーに近い紫なんだ」

 

「歴史書によれば二次元エコーという強力な武器で限界城が次元落ちしたことが原因ではないかと」

 

「それが花びらになったでも」

 

「限界城そのものではなく、ヒトデ型の戦車や戦闘機が次元落ち、つまりナノ単位でスライスされて花びらのような形になったという説が有力ですが、今のところ、よく分かっていません」

 

「三百年以上も前の事件がなぜ今頃になって……」

 

「桜が開花すると紫花粉で人間もアンドロイドも大変なことになる」

 

[648]

 

 

「ワクチンや対処治療の研究は?」

 

「原因が不明なので遅々として進んでいません」

 

「すべての桜の木を焼却処分するしか対策はないな」

 

「残念ながら、そのとおりです」

 

***

 

 焼却処分の実験が始まる。環境保全局に所属する人間とアンドロイドが二名ずつ、念のために防護服を着用して火炎放射砲を装備した装甲車に乗り込む。この実験を観察する分析官も防護服に身を包んで遠巻きに装甲車を見守る。笛の音がすると戦車が紫色の蕾を付けた桜の木に火炎放射砲を発射する。見る間に炎に包まれた桜の木が燃え上がると黒い煙が上昇する。同時に自動分析装置も舞い上がって煙を吸引する。すぐに分析官が手にするモニターに結果が表示される。

 

「?」

 

「おかしい」

 

 分析官が煙を見上げる。よく見ると黒いはずの煙の色がわずかに紫がかっている。

 

「まだ蕾のはずなのに……」

 

「予備の自動分析装置を上げろ!」

 

[649]

 

 

 チーフの分析官が叫ぶ。全員もうひとつの自動分析装置に注目する。そして手元のモニターをじっと見つめる。

 

「同じだ」

 

「蕾なのに花粉を放出している」

 

「なぜだ!蕾は燃え尽きて炭化しているのに!」

 

「ダメだ。蕾を付ける前に焼却処分しなければ、花粉を処分できない」

 

「寒い地方の桜を早く焼却処分しなければ……」

 

***

 

「蕾のうちにと思っていたが……」

 

 大統領がうなだれる。

 

「桜以外の花粉にはこれほど有害なものはありません。杉花粉や檜花粉など桜花粉に比べればたいしたことはありません」

 

 そのときマスクをした広報官が咳きこみながら大統領執務室に入ってくる。

 

「大統領!大変なことが判明しました!」

 

 補佐官が広報官を制する。

 

「ノックぐらいしろ」

 

[650]

 

 

 補佐官を無視して広報官が叫ぶ。

 

「この花粉は人間だけではなく、アンドロイドまで犯されます!」

 

「杉花粉や檜花粉に影響を受けないアンドロイドもこの桜花粉には影響を受けることぐらい知っている」

 

 あくまでも大統領は冷静だ。

 

「違うのです。この桜花粉はアンドロイドの生殖機能を奪うんです」

 

「何!いつ分かった!」

 

「今の今です。環境保全局がすぐ対策会議を開きたいと要求しています」

 

「どこで?」

 

 補佐官が口を挟む。

 

「部屋の外で幹部が待機しています」

 

 補佐官が大統領の了解も得ず指示する。

 

「通せ。ここで会議を開く」

 

***

 

「まず、この桜花粉、いえ桜が悪者じゃなくて、紫色の花粉が原因です」

 

「前置きはいい。結論を言え!」

 

[651]

 

 

 補佐官が興奮する。

 

「この紫花粉で人間は死に至ります」

 

「だから今回の実験をしたのだ」

 

 ここで大統領が声を上げる。

 

「黙って聞け」

 

「申し訳ありません」

 

 補佐官が頭を下げると環境保全局の幹部が大統領に黙礼してから発言する。

 

「アンドロイドもただでは済みません。生殖機能が奪われます」

 

 大統領は頷くだけだ。

 

「今回の実験で判明したことを詳しく説明しろ」

 

 冷静さを取り戻した補佐官が告げると天井に浮遊透過スクリーンが現れる。詳しいデータや映像が分割されて表示される。

 

「Rv26を呼べ。緊急事態が発生したと」

 

 名誉大統領として大統領から参与資格を与えられているRv26に出頭命令が下される。会議は止まることなく続く。やがて大統領執務室のドアが開くと両耳を赤く点滅させながら大柄なRv26が入ってくる。すでに無線で事情を受信したRv26は一礼すると無言で席に着く。それまでの会議内容を収録したデータを受け取りながら目を閉じて腕を組む。しかし、発言はしない。やがて結論が出ないまま会議が終了する。

 

[652]

 

 

***

 

「名誉大統領。どう思う?」

 

「秘密漏洩ではないが、なぜワタシの通信を見逃したのだ」

 

 Rv26が会議中に無断で通信していたことを大統領に尋ねる。

 

「通信先がノロの惑星の中央コンピュータだったからです」

 

「そうか」

 

「それで中央コンピュータの反応は?」

 

「ノロの惑星の中央……いやノロタンの見解と私の見解は一致した」

 

「その見解は?」

 

「紫花粉発生のメカニズムについては検討中だが、推測は可能だ。それよりもこの花粉が人間に与える影響は深刻だ」

 

「インフルエンザよりも深刻ですか」

 

「インフルエンザの比ではない」

 

「紫花粉症になれば死に至ると言うことか」

 

 大統領の質問にRv26が首を縦に振る。

 

[653]

 

 

「アンドロイドは?」

 

「死にはらない」

 

 アンドロイドの大統領の表情が緩む。しかし、すぐに険しい表情に戻す。

 

「だが生殖機能を失う」

 

「やはり!」

 

 大統領の顔が一瞬こわばる。

 

「ということは……」

 

 Rv26が大統領に大きく頷くとおもむろに応える。

 

「生殖機能を失えば『生命を繋ぐ』という大義が消滅するから、男のアンドロイドも女のアンドロイドも永遠に生きることになる」

 

 大統領は目を閉じて若いころに学んだ地球史を思い出す。それは徳川が開発した生命永遠保持手術を受けた人間が生殖機能を失って、やがて男と女の間で不毛な戦争が始まった歴史だった(第一編「男と女」)。

 

「Rv26」

 

 大統領が呟くと次に言おうとする言葉を仕舞いこむ。それを察したのかRv26が簡潔に述べる。

 

「大変なことになる」

 

[654]

 

 

「歴史は繰り返す。しかし、人間の歴史とまったく反対の方向に繰り返すとは」

 

 Rv26は大統領を尊敬を込めて見つめる。

 

――この大統領はワタシの数百倍も器量が上だ

 

「こういうことか」

 

 大統領が言葉を選びながらしゃべり出す。

 

「この紫花粉症で人間は死に至る。一方、アンドロイドは生殖機能を失う。そして大昔の人間が経験したように、アンドロイドの男と女は、お互いを必要としなくなる。そのあとは人間のように男と女の戦争に突入することは……ないと思うが」

 

 この見解の是非についてRv26に確認を求める。

 

「ワタシの想いは大統領と完全に一致しています」

 

「次が問題だ」

 

 大統領が間を置く。

 

「アンドロイドの場合、人間と違って男と女の戦争に突入することはないのなら、それはそれで好ましいことだ」

 

 Rv26がすぐさま応ずる。

 

「問題は人間だ。人間は紫花粉症で死に絶えるだろう」

 

「まさしく生殖機能を失ったアンドロイドは永遠の命を持つ身に回帰する。三太夫がアンドロイドの身体に寄生して生きのびたように、人間は再度半永久に生きることができる身体に戻っ

たアンドロイドの、そう、その身体を欲しがる可能性が高い」

 

[655]

 

 

 

「然り!」

 

「寿命を全うして死ぬのなら納得もしようが、花粉症で死ぬのは納得できないだろう」

 

「いや、人間は絶えず不老不死を願う生命体だ。永遠の命を回復することになれば、そのアンドロイドの身体を必ずや手に入れようとするはずだ」

 

 大統領が窓に視線を移す。

 

「なんとか紫花粉を地球上から消さなければ」

 

「ワタシはノロの惑星に行ってノロタンやホーリーに相談してみる」

 

 Rv26が大統領執務室をあとにする。

 

***

 

「完成コロニーは?」

 

「もう千年近くも放置されたままだ。修復するのに時間がかかるし、以前のように修復するアンドロイドはいない」

 

「月面の施設の収容人数はたかだか百万人程度だ」

 

「この惑星もボロボロだ」

 

[656]

 

 

 ノロタンやホーリーはお手上げだと言わんばかりに天を仰ぐ。

 

「過去の出来事を調べた結果、次元落ちが原因で紫花粉が発生したのが遠縁だとそのころのビートルタンクを指揮した人間、つまりホーリーたちを責める報道が多くなっているらしい」

 

 地球の情報が次々とノロの惑星の地下深い会議室天井の浮遊透過スクリーンに映しだされる。

 

「桜の木を根こそぎ引っこ抜いて大気圏外に捨てるしか方法はないな」

 

「時、すでに遅しだ」

 

「とんだ落とし穴だ。こうなると分かっていたら、ビートルタンクの二次元エコー攻撃を自重したのに」

 

「今さら、何を言っているの」

 

 サーチが睨むとホーリーが反論する。

 

「だったら何かアイデアがあるのか」

 

「やめて!」

 

 ミリンが叫ぶ。

 

「今度ばかりはどうしようもないか」

 

「どういうこと」

 

 サーチがノロタンに尋ねる。

 

「あのノロの本にヒントはないかと検索したが、手がかりはなかった」

 

[657]

 

 

 珍しくノロタンがうなだれるとミリンが尋ねる。

 

「万事休すなの?」

 

「今後のことを考えると希望が持てない」

 

 ノロタンがうなだれたまま応える。

 

「何を言ってるの!」

 

 ミリンがノロタンを押し倒す。

 

「ミリン!やめろ」

 

「やめなさい!」

 

 ホーリーとサーチがミリンを羽交い締めにする。今や元の大きな身体に戻ったRv26がノロタンを起こす。

 

「大統領も危惧しています。つまり打つ手がないのです」

 

「そんなことないわ。この宇宙に最悪なんてないと、いつもノロが言ってたじゃないの!」

 

 羽交い締めにされたミリンが叫ぶが、ノロタンは無視してRv26の言葉を待つ。

 

「まず、地球上の人間もアンドロイドも地球を脱出することができません。つまり紫花粉症から逃れることは不可能です」

 

 Rv26が説明を始めるとノロタンが付け加える。

 

「冷静に現実を受け入れてから知恵を絞ろう」

 

[658]

 

 

 ミリンがノロタンに頭を下げる。

 

「ごめんなさい」

 

 全員が聞く体勢になったことを確認するとRv26が口を開く。

 

「紫花粉症にかかると人間は死に至る」

 

 部屋にはRv26の声以外、存在するのは静寂だけになる。

 

「アンドロイドは男と女の状態を維持したまま生殖機能が失われる」

 

 サーチが閉じていた目を見開くが言葉は出さない。いや、出せない。ホーリーもだ。

 

「そして、元の半永久的に生きる身体に戻る。このような事態になること自体は大きな驚きではない」

 

 サーチとホーリーは同じことを考える。たまらずホーリーが慎重に発言する。

 

「アンドロイド版の男と女の戦争が始まることになる」

 

「それはない」

 

 Rv26がきっぱり否定するとふたりは驚kながら次の説明を待つ。

 

「人間は紫花粉に感染する前に、感染したアンドロイドの身体を盗んで脳を埋め込もうとするだろう」

 

「何!」

 

 住職が飛びあがるとリンメイがRv26を見すえる。

 

[659]

 

 

「感染したアンドロイドの身体に脳を潜り込ませても大丈夫なの?」

 

「さすがリンメイ。どうなるか不明だ。分からないから問題なのだ」

 

「アンドロイドは感染しても生殖機能を失うだけなら、その体内は安全かもしれないわ」

 

「しかし、アンドロイドにとって迷惑な話だ。断固拒否するはず。それにひとつの身体にふたつの生命が共存することは不可能だ」

 

 リンメイが頷くとRv26が続ける。

 

「まったく不可能かといえばそうではない。こういう方法も考えられる。まず知能をつかさどるチップをマザーボードから抜いて代わりにボード近くに脳を配置して人口ニューロンでマザーボードと接続する」

 

「そんなこと不可能だわ」

 

 サーチが叫ぶとリンメイが低い声で否定する。

 

「可能だわ」

 

 Rv26がリンメイに向かって頷く。

 

「現に三太夫がその方法でアンドロイドの五右衛門の身体の乗っ取りに成功した」

 

***

 

「とにかく建造中の宇宙戦艦を急いで完成させろ」

 

[660]

 

 

「しかし……」

 

 アンドロイドである地球連邦軍司令官が食い下がるが、大統領が押し切る。

 

「大統領命令だ。すぐ実行しろ!」

 

「了解」

 

 司令官が部屋を出ると人間の補佐官が大統領を見つめる。

 

「少しでも多くの人間やアンドロイドを新たな世界へ脱出させなければならない」

 

「どうやって選抜するのですか。宇宙戦艦や時空間移動装置を使っても脱出できる人数はしれています」

 

「確かに。超大型の時空間移動船があればなんとかなるかもしれないが、宇宙戦艦では詰め込んでも四、五千人が限度だ。時空間移動装置はわずか五人だ。しかも一万基もない」

 

「大昔、ミトという司令官がいました。見事六千万人もの人間を地球から脱出させました(第一編第二十三章「大人と子供の戦争)。しかし、それは完成コロニーのアンドロイドが協力したからです。我々には脱出先が確保されていないどころか協力者はいません」

 

「承知している。仮に今、ミト司令官がいても何ともならない」

 

 春を迎えた暖かい地方では桜の開花と共に紫花粉が飛散する。もちろん退去命令を出して寒い地方や桜がない地方へ避難させているが、紫花粉は海や山を越えて全世界に広がる。もしすべての桜の木を焼却処分していたら、花粉は止まらないどころか熱で上昇してまたたく間に世界中に離散して被害が広がっていたかもしれない。

 

[661]

 

 

その意味で大統領が焼却処分作戦を思いとどまったのは英断だった。しかし、飛散のスピードを抑えるだけで根本的な解決策ではなかった。

 

「人間の死亡者が増えています」

 

 大統領執務室の天井の浮遊透過スクリーンから報告が流れる。

 

「花粉を吸わなくする方法はないのか」

 

「どんなに細かい目のマスクを使ってもダメです」

 

「酸素吸入器は?」

 

「人間には有効ですが、数が絶対的に足りません。それに……」

 

「アンドロイドには有害だと言いたいのだろ」

 

「直接酸素を吸えばアンドロイドは死にます」

 

「結局、紫花粉に感染していない者を選別し宇宙戦艦に収容して地球を脱出するしかない」

 

 補佐官が黙ってうつむく。そのとき天井から強い警告が発せられる。

 

「各地で人間が一方的にアンドロイドを攻撃し始めました!」

 

「場所は?」

 

「多すぎて確認できません!」

 

「最も恐れていたことが起こった」

 

[662]

 

 

 大統領が絶句する。

 

***

 

 地球はまたたく間に無政府状態になる。

 

「地球に戻ります」

 

 Rv26が部屋を出る。

 

「Rv26が地球に行っても何もならない」

 

 ホーリーが立ちはだかるが、Rv26は押しのけて出ていく。

 

「なんとかしなければ」

 

 サーチがホーリーに近づいて悲壮な声を上げるが、誰も黙ったままだ。

 

「どうすればいいの」

 

 サーチが泣き崩れる。ミリンもケンタの胸の中で声をあげて泣く。ノロタンが天井を見上げてノロの惑星の中央コンピュータに尋ねる。

 

「新しい戦闘艦の建造進捗状況は?」

 

「ピッチを上げてますが、まだ一ヶ月はかかります」

 

「進捗率は?」

 

「約九十パーセントです」

 

[663]

 

 

「時空間移動はできるのか」

 

「できるはずです。試運転が必要です」

 

「武装は?」

 

「多次元エコー以外は装着済みです」

 

「分かった。発進準備に入れ!」

 

「そんな無茶な。それによく考えれば端末のくせして中央コンピュータに命令するとは許せない」

 

「黙れ!本体と端末に上下はない!平等だ」

 

「はい。分かりました」

 

 緊張感がみなぎる部屋で、この会話に思わず全員の表情がわずかではあるが緩む。

 

「地球に向かって試運転をする。俺が船長に就任する」

 

「Rv26からの通信が入りました」

 

「もう地球に到着したのか」

 

「地球上空からです。まだ時空間移動装置内にいます」

 

 ホーリーがマイクを持つ。

 

「ホーリーだ。地球の様子は?」

 

 少し間を置いてからRv26の声が届く。

 

[664]

 

 

「大統領が暗殺されました」

 

「戻ってこい!新型の海賊宇宙戦闘艦が完成した」

 

「それはすごい」

 

「ノロタンが船長だ」

 

「新しい海賊船の名前は?」

 

 ノロタンが直接Rv26とコンタクトを取る。

 

「パンダ、パンダだ。勇ましい名前だろ」

 

「パンダ?迫力がない」

 

 ノロタンもRv26も大声で笑う。つられて誰もが笑い出す。

 

[665]

 

 

[666]