【時】永久紀元前3億年
【空】恐竜時代の地球鍵穴星
【人】ノロ フォルダー イリ ホーリー サーチ 住職
***
ノロの時空間移動装置が勝手にあちらこちらの宇宙空間に時空間移動する。その間ノロはぐっすりと睡眠をとる。眉間にシワを寄せることなく、いつでもゆったりとした睡眠をとる。そしてアイデアが詰まった心地よい夢を見ると上機嫌で目を覚ます。眠ることに関しては人類始まって以来の天才といえる。その天才の腹が「グウー」と鳴る。
「腹、減ったなあ」
寝ぼけた目でコントロールパネルの操作を始める。
「前線第四コロニーで食糧を補給しておけばよかった」
急にニヤリと笑う。
「あの恐竜のステーキは非常にうまかった」
前線第四コロニーの中央コンピュータに加工させたデータをセットする。
「あのステーキを食べてから、巨大土偶が恐竜時代に時空間移動してきた直前の時空間を探るんだ。これは非常に楽しい作業だ」
[288]
よだれを垂らしながらコントロールパネルの操作を続行する。
「できたてのステーキがある時空間への移動にはかなり細かい調整をしなければ」
モニターの数字がメガネに映っては消える。
「よし!行くぞ!」
操縦席のモニターにグレーノイズの画面が数秒表示されたあと湯気を出す倒れた恐竜が映しだされる。恐竜時代の地球に時空間移動が成功したことを示している。
「こういうことをさせれば俺は天才だなあ。ミディアム、レア……それになんだっけ?どうでもいい。なんでもありだ」
ノロはナイフとフォークを持って時空間移動装置のドアを跳ねあげると勢いよく地上に降りる。
「わーい」
ノロは目の前の巨大なステーキに戦闘を挑む。ナイフで肉を切りさくとフォークで口の中に放りこむ。
「うまい、うまい!うっ、なんだ?」
ノロの前方の空の一角が赤く輝いてすぐに消える。
「錯覚か。血が滴る肉のせいかもしれない」
ノロは気にせずに次の肉をほおばる。そのとき前方に黒光りした巨大なものが現れてその振動で尻もちをつく。
[289]
「わあ!ブラックシャークだ!みんなにごちそうしなければ」
ノロは立ちあがってナイフとフォークを頭の上でカチカチ鳴らしてから大きく腕を振る。
ブラックシャークがノロのそばに着陸すると船底のドアが開く。すぐさま、きびしい表情をしたフォルダーとイリが降りてくる。
「俺、何か悪いことをしたような雰囲気……」
ノロは最大限にこやかな表情をしてふたりに声をかける。
「いやあ、久しぶりだなあ、フォルダー、イリ」
ふたりの視線がノロをつらぬく。
「なぜ、俺たちをだました」
「えっ、だました?」
一瞬ノロにはなんのことだか理解できない。しかし、すぐに思い出す。
「あっそうか。あれは冗談、冗談。だめか……」
ふたりの険しい表情に変化はない。ノロが急にうつむく。
「なぜ、あんな人形を作ってだまそうとした」
ノロがとっさに取りつくろう。
「俺の計画を覚えているか。自由な時間が欲しかったんだ」
[290]
「自由?」
フォルダーがあきれかえる。
「おまえ、今まで不自由な目にあったことがあるのか?」
はっとしてノロが過去を振り返る。
「よく考えたら、ないな」
「よく考えなくても、おまえはいつだって自由だ!」
「そうだ。俺は自由気ままな宇宙海賊だもんな」
「おまえがこうしたいと言えば、誰も文句を言うはずない」
ノロは白粉をぬったような血の気のないイリの顔を見て驚く。それは長い付き合いの中でノロが初めて見る表情だった。無言だがイリの白刀のような怒りがノロに伝わる。
「イリ、悪かった」
ノロが土下座して頭を下げようとしたとき、イリがくずれるように倒れる。すぐさまイリを抱きあげて恐竜の肉片がささっているフォークをイリの口元に持っていく。
「これを食べて元気を出せ!」
イリの目から涙がこぼれる。と同時にフォルダーが大声を出す。
「おまえってヤツは!」
***
[291]
「俺、どうやって償えばいいんだ」
ブラックシャークの艦橋でいたずらをした子供のようにノロがうなだれる。
「今までしてきたことをすべて話して」
イリの穏やかな言葉にノロはニヤッと笑う。
「そんな償いなら、すぐする。すごーい発見をしたんだ……」
ノロは急に大事なことを思い出して中央コンピュータに命令する。
「ここには時空間移動の痕跡が山ほどある。分析しておいてくれ」
イリがノロに近づいて何か言おうとしたとき、すぐそばにいるホーリーとサーチに気付いて大声をあげる。
「ホーリーじゃないか!それに美人のサーチ!」
「よく覚えていてくれたな」
ホーリーがノロに近づくが、ノロはホーリーを避けてサーチに近づこうとする。イリがノロの手を取ってサーチに近づくのを制止する。ノロが窮屈そうに顔をホーリーに向ける。
「実は忘れていたのだが、あるとき思い出したのだ」
ホーリーがノロの言葉に首を傾げる。
「なぜ、サーチを知っている?」
「明智光秀時代の関ヶ原で地面に這いつくばったサーチやホーリーを上空から見ていたんだ」
[292]
「えー」
ホーリーとサーチがあまりのことに驚いたままノロを見つめる。ノロはイリの手をふりほどいて、今度はホーリーのうしろにいる坊主頭の青年に近づく。
「ブラックシャークの乗務員にしては服装が変だなあ」
「まだ紹介していなかったわね。住職よ」
イリが半ばあきれながら住職を紹介して、続いてリンメイを紹介しようとしたとき、再びノロの大声がする。
「住職!俺が知っている住職はもっと歳をとった……ひょっとして生命永遠保持手術を受けたのか!」
「そうじゃ」
「前線第四コロニーの中央コンピュータ室で『C・OS・M・OS』という理論をみんなに説いていたでしょ?」
ノロは顔中をくしゃくしゃにして住職にたずねる。ホーリー、サーチはもちろんのこと住職やリンメイの絶対的な驚きがノロに向けられる。住職が少し間を置いてからノロにたずねる。
「ああ、覚えておる。じゃが、なぜそんなことを知っておるのじゃ」
「あのとき前線第四コロニーの中央コンピュータ室の隣の部屋で住職の話を盗み聞きしていたんだ」
[293]
「なんと!」
イリが住職の横のリンメイを紹介するのも忘れてやっと声を出す。
「今までのことをすべて話して」
イリがノロに詰めよる。そのとき、中央コンピュータからの報告が入る。
「お取込みのようですが、この付近の時空間移動の痕跡のデータの分析が終了しました。数時間前に生命体と推定される多数の物体がこの付近一帯に時空間移動してきました」
すぐさまノロが反応する。
「生命体だって?多次元エコーで全部消え失せてしまったぞ!多次元エコーで消滅するということは……」
ノロの言葉が切れると中央コンピュータが先回りする。
「生命体ではなく、無機質な物体だと言いたいのでしょ」
中央コンピュータの気楽な言葉にフォルダーも反応する。
「どんな物体なんだ」
「巨大な土偶だ。中央コンピュータ、どこから来たのか時空間座標を調べてくれ」
「特殊な時空間移動です。瞬示や真美、それに時間島の時空間移動に似ています」
中央コンピュータはノロにというよりは艦橋にいる全員に報告する。
「思ったとおりだ!」
[294]
ノロの目が輝く。
「巨大土偶がここへ時空間移動して来る前の時空間へ行くぞ」
「時空間座標が解析できました。この座標はどこかで見たような、ないような、やっぱり違うな、いや同じかなあ……」
中央コンピュータの歯切れの悪い言葉にノロへの怒りをすっかり忘れてフォルダーが怒鳴る。
「何をぶつぶつ言ってる!」
ノロがフォルダーに一歩近づいて真下からまっすぐ見上げる。
「大目に見てやれ。俺はこの恐竜時代のデータを中央コンピュータから消してしまったんだ」
「準備完了!ノロの命令を実行します」
やっと中央コンピュータの明快な言葉が返ってくるとフォルダーがうなずく。
「よし、時空間移動に入る」
「そこへは平行移動で時空間移動するんだぞ。これから巨大土偶がこの恐竜時代の地球に来る前の世界に時空間移動するぞ」
ノロはフォルダーへの視線をそのままにして天井のクリスタル・スピーカーに向けて力強く指示する。ホーリーがノロの「平行移動」という言葉に驚く。
――ノロは時空間移動の本質を理解している!
***
[295]
「間違いないか。本当にここから巨大土偶が恐竜時代の地球に大挙押しよせてきたのか?」
暗黒の宇宙を映しだしたメイン浮遊透過スクリーンに向かってフォルダーが中央コンピュータに念を押す。
「間違いありません。ノロの命令通り、用心して平行移動しました」
「何もないぞ」
「思い出しました。鍵穴星です」
ある一点がズームアップされてメイン浮遊透過スクリーンに星が映しだされる。
「時空間が不安定です」
ノロが反射的に中央コンピュータに命令する。
「この付近の時空間の状態をメイン浮遊透過スクリーンに映せ」
メイン浮遊透過スクリーンが真っ青な色に変わると無数の白い線が現れる。
「この付近の時空間の状況を可視的に表示しました」
無数の白い線が伸びたり縮んだりしながら、やがて碁盤の目のような模様を形成する。そのひとつひとつの目(グリッド)が呼吸するように大きくなったり小さくなったりする。フォルダー、イリ、ホーリー、サーチ、住職、リンメイが巨大コンピュータとの激戦を思い出す。
「これは神と名乗っていた巨大コンピュータが現れたときと同じ映像だ」
ノロはふしぎそうにメイン透過浮遊スクリーンを見つめてフォルダーに質問する。
[296]
「巨大コンピュータ?」
「そうだ。前線第四コロニーの中央コンピュータが暴走して鍵穴星の近くに現れたとき、同じような時空間のゆがみに遭遇した」
「前線第四コロニーの中央コンピュータが?量子コンピュータが神と名乗っていただって!」
「やはり前線第四コロニーの中央コンピュータは量子コンピュータだったんだ。しかも、おまえが造ったんだろ?」
「うん。しかし、なぜ量子コンピュータがそんな意識を持ったんだ?」
ノロが「あっ」と叫ぶ。
――ひょっとして……
ノロは原因が自分にあると自覚しながらフォルダーの解説に耳を傾ける。
「話せば長くなるが、簡単に言えば人間と同じような言語体系を持って意識が生まれ、自分を神と思うようになった。ここに現れたときには銀河ぐらいの大きさのとてつもなく巨大な脳に成長して神だと名乗ると、俺たちに鍵穴星のデータをよこせと迫ってきた」
口をあんぐりと開けたまま、ノロはフォルダーを制してメイン浮遊透過スクリーンを見つめると目の前の現象がどのようなものかをすぐに推測する。
「まるで時間が前後左右上下に激しく動いている。まさしく時震が起きている。俺の考えが正しければこの鍵穴星は星ではない。星に見えるが六次元の世界の何かの一部なんだ。いずれにしてもここに俺たちに想像もできないふしぎな生命体が現れるはずだ。それが巨大土偶だ」
[297]
そのとき中央コンピュータが警告を発する。
「何かが通過します」
「備えるべき体勢は?」
フォルダーが天井に向かって叫ぶ。
「予測不能」
中央コンピュータがこの言葉をもう一度繰り返すと、ノロが大声をあげる。
「時空間バリアー!」
「キュウウウーーン」
時空間バリアーの作動する音が聞こえたかと思うと、急にメイン浮遊透過スクリーンから映像が消えて黄色一色になる。同時に艦橋も黄色一色となってねじれたように変形して見える。
驚きの声も奇妙な音に変換されてそれぞれの頭の中で不気味に響く。思わず誰もがゆがんだ頭を両手で押さえるが、その奇妙な音の侵入を防ぐことができない。
しばらくするとすべてが元に戻って、様々な興奮した声も正常に聞こえる。
「六次元の世界が通過したんだ!」
ノロが叫ぶ。そして感慨深そうに続けて言葉にする。
「これが三次元の世界から見た六次元の世界の三次元部分なのか」
[298]
誰もノロの言葉を理解できない。
「なぜ、六次元の世界が俺たちの世界を通過したり、部分的に姿を現したりするようになったんだ!」
ノロは両手を握りしめるとポキポキと音をたてて指を鳴らすとうれしそうに叫ぶ。
「おもしろくなってきたぞ!」
「鍵穴星へ移動!」
フォルダーが久しぶりに中央コンピュータに指示する。
「どんな現象が起こるのかはだいたい想像できるけれど、せっかくここまできたんだ。じっくりと見物しよう」
ノロがフォルダーを見上げる。
「ノロはすべてお見通しなの?」
それまで黙っていたイリがやっとの思いで言葉をノロに向ける。
「ああ、俺は神だ!」
「変な神様だわ。人をだます悪い神様だわ」
ノロが急に表情をこわばらせる。イリはこの程度の言葉でノロが不機嫌そうな顔をするのに驚く。
「俺はウソをつくことを教えてしまったんだ」
[299]
「チューちゃんに?」
ノロはイリに反応することなく言葉を続ける。
「俺は前線第四コロニーの中央コンピュータにウソをつけと命令してしまったんだ」
イリはてっきりブラックシャークの中央コンピュータのことだと思っていた。
「アイツ、量子コンピュータだから、俺の命令を理解できたのかもしれない。そしてウソをつくことを覚えたのかも。ウソを自覚するしないにかかわらず、どんどん人間に近くなったのかもしれない。そして人間を通りこして、自分のことを神だと思うようになったのか」
「チューちゃんにもウソをつくこと、教えたの?」
「チューちゃん?」
「私が付けた中央コンピュータのあだ名なの」
「そうか。俺は約束を絶対に守れと言っただけだ」
フォルダーがノロの言葉を無視して突然怒りだす。
「俺たちは中央コンピュータにだまされた」
言い訳の声が天井から聞こえる。
「ワタシはしゃべらないと言っただけでウソはついていません。ワタシは正直で誠実な量子コンピュータです。前線第四コロニーのような節操のないコンピュータとは違います。大事な約束を守っただけなのであります」
[300]
「黙れ!」
フォルダーが大声を出すと、左手でノロの胸ぐらをつかんで右手を振りあげる。
「おまえのせいで俺たちはどれだけ……」
イリが細い両腕をあげてフォルダーとノロの間に割りこむ。
「もういいじゃないの。フォルダー」
ノロはイリが高くあげた両腕をうれしそうに見上げて笑顔を振り向ける。
「イリ、ありがとう……」
ノロはついそんな言葉を出してから、イリの目元がケイレンするのを見て開いた口に手を当てる。そのとき高くあげていたイリの両手がノロの左右のほっぺたをパシッ、パシッとたたく。メガネが吹っとぶとノロの身体も吹っとぶ。
「心配をかけたことは別よ!」
イリがノロにぴしゃりと低く冷たい言葉を追加する。ノロは起きあがりながら、まったく何も見えないのか、フォルダーの方に向かって文句を言う。
「痛いじゃないか」
「一度、思いっきりたたきたかったの。スーッとしたわ」
ノロはイリの声がする方に向きなおるとしょげながらつぶやく。
「許してくれたと思ってたのに」
[301]
「俺もスーッとしたい」
フォルダーがニヤッと笑ってノロに近づくと、ノロは気配を感じてフォルダーの足音だけを頼りにして広い艦橋を器用に逃げまわる。
「鍵穴星の地表に変化が現れました」
中央コンピュータが親友に助け船を出すように報告する。鍵穴星の地表がメイン浮遊透過スクリーンに映される。ノロを追いかけていたフォルダーが立ち止まってスクリーンを見上げる。笑い転げていたイリからメガネを受けとるとノロもイリもスクリーンに視線を移す。
「いよいよ、巨大土偶が大量に生まれるぞ」
メイン浮遊透過スクリーンには御陵がいくつも整然と並んでいる。その御陵の土が次々とくずれながら舞いあがる。土の煙幕の中から巨大土偶が続々と姿を現す。
「すごい!千体はあるぞ」
ノロが興奮気味に叫ぶ。土煙ではっきり見えないがいたるところでぼやけた赤い輝きが点滅している。
「透視しろ!」
フォルダーが叫ぶ。メイン浮遊透過スクリーンに横たわる巨大土偶がはっきりと見える。
「数えきれないわ」
イリも興奮を抑えることなく大声を出す。赤い輝きがあちらこちらで点滅して、今度はその
[302]
点滅に応えるかのように次々と立ちあがった巨大土偶が姿を消す。
「時空間移動しているんだ。地球の恐竜時代に時空間移動、いや次元移動しているはずだ。移動先を確認しろ」
ノロがそう言ったとき、イリがレーザーポインターで指し示した部分が拡大される。
「これは!」
フォルダーが叫ぶ。リンメイも拡大画面を目に焼きつけるように見つめる。
「火炎土器だ」
ノロはメイン浮遊透過スクリーンに近づいて子供のようにはしゃぐ。
「やった!やったあ。俺が思っていたとおりだ!」
イリもノロと同じようにメイン浮遊透過スクリーンに近づくと静かな声を出す。
「説明して」
「もう、たたいたりしない?」
「もちろんだわ」
「あれは六次元の世界の万能時空間移動装置だ。火炎土器じゃない」
「でも普通の土器にしか見えないわ」
「火炎土器も、巨大土偶も、この鍵穴星もすべて六次元の世界の物質なんだ。三次元の俺たちにはそのように見えるだけで、実際はどんな形をしているのかわからない」
[303]
いつの間にかフォルダーもノロの横にいる。
「なんて突拍子もないことを言うんだ」
「にわかに信じがたいのはよくわかる。それにもっとビックリすることがある」
ノロがメガネの奥で笑う。
「瞬示と真美も六次元の世界の生命体だ」
「そうなの!やっぱり」
イリは同じことを中央コンピュータが報告していたのを思い出す。
「瞬示や真美のことを知っているのか?」
フォルダーがノロに質問する。
「あのふたりには何度も出会ったことがある」
「何度も!」
ホーリーはもちろんサーチ、住職、リンメイも驚く。ノロはそんなホーリーたちを意に介することなく中央コンピュータにたずねる。
「瞬示と真美のデータは?」
「あります。しかし、あのふたりの行動に関連するデータは大量にありますが、あのふたり自身のデータはまったくありません」
「俺が持っているデータが一番詳しいことになるのか」
[304]
ノロが少しがっかりしたような表情を見せる。フォルダーが何か重要なことを思い出したようにノロの頭に手を置いて会話に割りこむ。
「頭はないだろう。肩にしてくれ」
「すまん。おまえ、いつか『人間はアンドロイドに亡ぼされるかもしれない』と言っていたな」
「ああ」
「今の地球にはアンドロイドに亡ぼされかかった堕落した人間しかいない」
「ついに人間はとことん堕落してアンドロイドに見放されたのか」
悪い予感が当たったのか、ノロの表情が暗くなる。
「いつかは来ると思ってはいたが、詳しい話を聞かせてくれ」
「おまえも詳しくしゃべれ」
フォルダーがノロの肩を軽くたたいて続ける。
「俺たちの星に帰ろう」
「そうだな」
ブラックシャークは鍵穴星をあとにしてノロの惑星に時空間移動する。そして造船所のドックを目指してゆっくりと高度を下げる。ノロの惑星の地表がメイン浮遊透過スクリーンに映しだされる。なつかしい居酒屋の屋根が見える。
[305]
「あそこに降ろしてくれ」
ノロが指さす。
「居酒屋に横付けしろ」
フォルダーが命令する。
「あそこで語り明かそう」
ノロがうれしそうにフォルダーとイリを誘う。
「居酒屋のマスター、きっと腰を抜かして驚くわよ」
[306]