【時】永久0288年
【空】地球、その上空
【人】瞬示 真美 フォルダー イリ ホーリー サーチ 住職 リンメイ キャミ ミト
カーン・ツー ミリン ケンタ 四貫目 お松 Rv26 MY28
***
ホワイトシャークが地球のはるか上空に現れる。
「いつ見ても美しい星ね」
フォルダーはイリの言葉にうなずいてから中央コンピュータに命令を下す。
「すべての回線を開いてアンドロイドの最高責任者に連絡を取れ」
「わかりました」
「MY28、多次元エコーの資料をすぐ作成しろ」
「資料といいますと」
「地球にいるアンドロイドに多次元エコーの威力を説明するための資料だ」
MY28はフォルダーの意図が理解できずにじっとフォルダーを見つめる。
「命令を実行しろ」
「はい」
[136]
「中央コンピュータ、通信回線は?」
「繰り返し呼んでいますが、応答はありません」
「続行しろ」
MY28は肩からコードを伸ばして端末につなぐと中央コンピュータと同期を取る。
「どうするつもりなの」
イリが心配そうにフォルダーを眺める。
「地球を盗む」
「地球を!今までで最高の盗品になりそうね!」
イリの表情がくずれる。
「どういうことだ?地上戦になれば勝ち目がないと言っていたのに」
ホーリーがフォルダーに近づく。
「通信回線がつながりました」
ホーリーの質問が中断される。
「ワタシは地球アンドロイド政府の臨時代表のRv26です」
ホーリーたちにどよめきが広がる。
「宇宙海賊のフォルダーだ。地球を明け渡せ」
「とうとつなことを言われても返答しかねます」
[137]
「今、マシン語に翻訳した資料を送信する」
フォルダーがMY28に目配せする。再びフォルダーをじっと見つめていたMY28が腕に埋めこまれた精巧なキーボードを指を使わずに操作する。
「送信しました」
「Rv26、一分以内に返答しろ」
ホーリーがいったんあきらめていた質問の答えを催促する。
「何をしでかすつもりだ」
「地球を明け渡さなければ多次元エコーで攻撃する」
「えっ!」
フォルダーが驚きの声しかあげられないホーリーに言葉を続ける。
「生物にはなんら影響はないが、アンドロイドは鉄くずになってしまう。地上で戦うべき相手がいなくなってしまうということだ」
「荒っぽすぎる!」
ホーリーの言葉にイリは軽くうなずくが、多次元エコーの威力を知っている瞬示や真美はもちろんのこと、誰もがこわばった表情をする。
「荒っぽいのは俺の流儀だ。カーン・ツーに連絡を取れ」
フォルダーが次々と命令を下す。MY28がフォルダーに何かを訴えようとするが、今のフォルダーにMY28の意見を聞く余裕はない。
[138]
「カーン・ツーだ」
「俺は宇宙海賊のフォルダーだ。よく聞け、一度しか言わないぞ」
「待ってくれ。海賊がなんの用だ」
「おまえたちを助けてやろうというのに余計なことを聞くな。すぐに全時空間移動船を地球に空間移動させろ。地球に着いたら、時空間移動船を全部アンドロイドにくれてやれ」
「詳しく説明してくれ」
「生意気なことを言うな。親心でひとつだけ助言しておく。耳栓を用意しておけ。以上だ」
フォルダーがカーン・ツーとの通信回線を切ったとたんRv26からの通信が入る。
「わかりました。地球を明け渡しましょう」
「Rv26……おまえは物分かりのいいアンドロイドだ。六時間以内に明け渡せ。アンドロイドがひとりでも地球に残っていたら、六時間後に多次元エコーを地球にぶち込む」
「それは無茶です。時空間移動船の数が足りません」
「大丈夫だ。ポンコツだが大量の時空間移動船が人間からプレゼントされる。あとはおまえたちの知恵を働かせろ」
「ワタシは全権を掌握していません。一部のアンドロイドが反乱するかもしれません」
「おとなしく地球を出るアンドロイドには攻撃はしない。たてつくアンドロイドには容赦なく攻撃する」
[139]
中央コンピュータが警告を発する。
「宇宙戦艦が空間移動してきます」
続いてRv26からの報告が入る。
「すでにワタシの意向を無視したアンドロイドが行動を起こしました」
「意外と素早い行動だ」
驚くこともなくフォルダーがMY28に命令する。
「第一級の攻撃体勢を取れ」
MY28がフォルダーの視線をしっかりと受け止める。
「全主砲発射準備!」
フォルダーの声が艦橋に響きわたる。
「敵宇宙戦艦よりレーザー砲が発射されました」
「空間移動!背後に回りこめ」
「了解!」
ホワイトシャークが消える。数秒後にホワイトシャークが消えた空間を複数のレーザー光線が通過する。
「敵宇宙戦艦十六隻。再確認します。十六隻、間違いありません」
[140]
ホワイトシャークのメイン浮遊透過スクリーンに宇宙戦艦が映しだされる。
「全砲門開け!連射!」
ホワイトシャークの主砲から太いレーザー光線が宇宙戦艦に向かう。次の瞬間、すべての宇宙戦艦が大爆発を起こす。中央コンピュータから次々と報告が入る。
「地球に多数の空間移動反応を観測!」
「カーン・ツーの率いる時空間移動船が地球に到達した模様。その数百八十九隻」
***
カーン・ツーとその部下が堰を切ったように時空間移動船の出入口に殺到するアンドロイドに身構える。
「下船が先だ」
カーン・ツーが大声を張りあげるが、アンドロイドが叫びながら船内になだれ込む。
「早く降りろ!」
「アンドロイドの行動にしてはおかしい。まるで追いつめられた俺たちと同じじゃないか」
やっとの思いで地上に降りたカーン・ツーが次々と時空間移動船に乗りこむアンドロイドをぼう然と見つめる。
「アンドロイドがこんな激しい感情を持っているとは!なぜ、今の今まで気付かなかったんだ」
[141]
ひときわ大柄なアンドロイドが耳をしきりに赤く点滅させながら時空間移動船内に現れる。
「ずいぶん、旧式のアンドロイドだ」
胸にはRv26と書かれている。
「アンドロイドの会話を盗聴しろ」
部下がすぐさま通信機を操作するとアンドロイドの無線交信が翻訳されて音声で流される。
「時空間移動船の整備を急げ」
「今、空間移動してきたばかりだから、数時間は空間移動できない」
「わかっている。準備を急げ」
「多次元エコーに同調すると身体がバラバラになるのか」
「わからない」
Rv26は多次元エコーの威力を知っているが、一切そのことを口にしない。旧式でありながら、Rv26は最新型のアンドロイド以上の判断能力を身につけている。
「時空間移動船の総数は?」
「人間が戻ってきたのと合わせて約三百隻です」
「そうか。少し足りない」
「手持ちの百隻ほどの時空間移動船はまもなく出発できます」
「残っている宇宙戦艦も利用するんだ」
[142]
「通告時間に間に合わなければ?」
「時空間移動装置を使おう。時空間移動装置ならすぐにスタンバイできる」
「時空間移動装置で移動できる数はしれてます」
「完成コロニーに連絡してできるだけの数の時空間移動装置を手配しろ」
「人間が乗っていたほとんどの時空間移動船はエネルギーを使い果たしています!」
「エネルギーの充填を急げ」
「宇宙海賊の攻撃時間を遅らせることはできないのか」
「交渉してみる」
Rv26は人間が地球に戻ってきた時空間移動船の状態を把握すると船底の出入口に向かう。しかし、次々と乗りこんでくるアンドロイドに阻まれてなかなか下船できない。
***
「Rv26が会談を申しこんできたわ」
イリがヘッドセットを外すと、少し乱れた髪の毛を整えながらフォルダーに告げる。
「場所は?」
「大統領府の近くにある建物で以前リンメイが使っていた研究室を指定しています」
「私がいたころのままだとすれば、貴重な資料が残っているかもしれないわ」
リンメイの言葉に真美が反応する。
[143]
「火炎土器があったわ。本物よ」
「本物?本物ってどういう意味なの」
リンメイが真美に一歩近づく。
「えっ、えーと」
真美はリンメイの真剣な眼差しに一歩引きさがると瞬示の腕をたぐる。
「その火炎土器はぼくらを、いや、ぼくらだけじゃないけれど、なんでも勝手にどこにでも運ぶことができるんだ」
瞬示が真美に代わって答えると少し間を置いてリンメイが大きな声をあげる。
「えー!」
フォルダーは火炎土器の件でイリと中央コンピュータにバカにされたことを思い出して苦笑しながらも事の重要性を認識すると、次の言葉が出ないリンメイに代わって瞬示に質問する。
「ちょっと聞きたいことがある。その火炎土器は土で作られているのか?」
「多分、そうです」
瞬示がリンメイからフォルダーに顔を向けて心の中を探る。
――多次元エコーで火炎土器が破壊される恐れがある
フォルダーは瞬示をだますほどの名演技を終えると視線を外して少しだけ口元をゆるませる。
瞬示はそのフォルダーの表情を見逃さないが、それ以上心の中を探るのをやめる。フォルダー
[144]
は口元を引きしめると瞬示に背中を向けてホーリーに頼む。
「ホーリー、Rv26のところへ行って話を聞いてやってくれ」
「わかった」
「私も行くわ」
「私も」
サーチとリンメイが同時に声をあげる。
「わしもじゃ」
住職が手をあげる。
「私も」
ミリンがケンタとともにホーリーの横に立つ。
「ホーリー、サーチ、リンメイ、住職の四人だ」
フォルダーの言葉にミリンがふてくされる。
「いつも置いてきぼりだわ」
「瞬示は?」
「時空間移動装置に六人は乗れないわ」
イリがたしなめる。
「ぼくらは自力で空間移動します」
[145]
瞬示が真美を見つめる。
「一足、先に行ってるね」
瞬示と真美の姿がフォルダーたちの前から消える。あっけない瞬間移動を目の当たりにしてMY28が驚いてフォルダーに視線を移す。
「時空間移動装置を使わずに移動できるとはすごい人間ですね」
「ああ、何度見てもあきれてしまう」
フォルダーがMY28にうなずく。
「ところで……」
まだ驚いているMY28がフォルダーの耳元でささやく。
「フォルダー、多次元エコーのことなのですが」
「わかっている。誰にも言うな」
***
「Rv26」
リンメイの研究室の窓から外を眺めていたRv26が瞬示の声に振り返る。Rv26はまるで瞬示と真美がここに来るのを待っていたように驚くこともなく棚から火炎土器を軽々と持ちあげる。
「これを持っていってください。多次元エコーの攻撃を受けると土に帰るでしょう」
[146]
火炎土器の役割を知っている瞬示はRv26の気づかいに満面の笑みを浮かべて受けとる。
「ありがとう。これが多次元エコーの攻撃で消滅したから巨大なニューロコンピュータが動かなくなってしまったんだ」
少し感傷的になった瞬示を無視して真美がRv26に告げる。
「フォルダーの代理人としてホーリーとサーチ、住職とリンメイが来るわ」
瞬示も表情を引きしめるとRv26にたずねる。
「状況はどうだ?」
「よいとは言えません」
「フォルダーが指定した時間に間に合いそう?」
「半数の脱出は十分可能なのですが、残りの半数については不明です」
「猶予時間を延長して欲しいと言うことか」
「そうです」
「フォルダーが応じるだろうか」
瞬示の表情がさらに固くなる。そのとき、窓の外に時空間移動装置が現れる。ドアが跳ねあがるとまずホーリーとサーチが窓に飛び移る。そして若々しい住職とリンメイも軽やかに跳躍して部屋に入ってくる。Rv26が一同に頭を下げる。
「重要な話があります」
[147]
「重要な話?」
瞬示は火炎土器を机に置くとRv26を見つめる。
「この地球が人間のものになったとしても、人間は生活できないでしょう」
Rv26の表情は変化することがないのに瞬示と真美にはきびしく見える。
「まず、アンドロイドの地球脱出がうまくいった場合、つまりアンドロイドが地球上にひとりもいなくなると、人間は食料を確保することや服を作ることもできません」
「そこまで人間は堕落したの?」
サーチが信じられないという表情をRv26に、そしてホーリーに向ける。
「今、人口が極端に少なくなっています。人間はほとんど子供を造らないのです。この十年間の平均出生率は一%です。生命永遠保持手術は、手術する医者はもちろんのこと設備もありませんから不可能で、老人は当然死んでゆきます。医者もすべてアンドロイドです。アンドロイドがいなくなると風邪もひけません。薬を造る能力も人間にはありません」
「一太郎が言っていたとおりじゃ」
住職が数珠を握りしめる。リンメイがRv26に首を横に振ってたずねる。
「キャミなら、なんらかの手を打ったはずだわ」
「ワタシが収集した情報では、地球連邦政府はそれなりに努力はしたようですが、民意はことごとく政府を無視したようです」
[148]
「なんと!話を続けてくれ」
住職の言葉にホーリーはもういいと投げやり的な態度を見せる。Rv26はそんなホーリーに気付くことなく話を続ける。
「逆にアンドロイドの地球脱出が完全に達成できない場合、地球は多次元エコーの攻撃を受けます。ご存じのとおり多次元エコーは無機質の物質を破壊します。アンドロイドはもちろんのこと建物や様々な施設も、この机や椅子もすべてチリのように崩壊します。そんな地球で人間は生きていくことができるのでしょうか」
全員、Rv26の言葉にがく然として沈黙する。真美の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
【瞬ちゃん、多次元エコーの攻撃を止めなければ!】
【フォルダーに何か考えがあるのかもしれない。もう少し様子を見た方がいい】
そのとき、ホーリーが机を激しくたたく。
「こんな事になるぐらいなら、すべてニセモノの神様にくれてやればよかった」
瞬示があわてて火炎土器を机から持ちあげる。
「ワタシはあきらめません」
ホーリーがはっとしてRv26を見つめる。涙でぼやけてRv26の姿が揺れる。
「手立てはあるのか」
「ありません」
[149]
「じゃあ、どうしてあきらめないと言うのじゃ」
住職が床に座ると足を組んで目を閉じる。しかし、Rv26からの追加の言葉はない。
「人間とアンドロイドを融和する方法があるはずじゃ。そうじゃろ、Rv26」
住職はかっと目を見開いてRv26の口元をにらむ。
「ワタシはアンドロイドを全員無事に地球から脱出させてから、その成果をアンドロイドに訴えて人間と仲良くするように説得しようと考えています」
「今すぐ、説得はできんのか」
「ワタシはすべてのアンドロイドの心を掌握していません。それにフォルダーの条件が過酷すぎます。アンドロイドの混乱を見てください」
住職がはっとして立ちあがる。
――アンドロイドが死を恐れておる!
「人間に餓死者が出ている。やむを得ない」
ホーリーの言葉に住職は今気づいた重大なことを仕舞ってつぶやく。
「フォルダーを説得しなければならんのう」
瞬示が住職に向かって大きな声で応える。
「ぼくらもフォルダーを説得します。でも、その前に……」
真美は黙って瞬示を見つめる。
[150]
***
「条件を変更するつもりはない。中央コンピュータ、残り時間は一時間だとRv26に通告しろ」
ホーリーを無視してフォルダーは腕時計を見ながら作戦室から姿を消す。
「アンドロイドが時間内にすべて地球から脱出できなければ、人類は全滅する」
キャミが作戦室内の今は何も映っていない浮遊透過スクリーンをぼんやり眺める。その浮遊透過スクリーンもタイムアウトとなって消滅する。
「人類は原始時代に戻ってやり直しね」
リンメイがホーリーから預かった火炎土器を大事そうに抱える。キャミが四貫目とお松を見てから首を横に振る。
「無理だわ。そんなたくましい人間はひとりもいない」
「なんとかするわよ」
「座して死ぬなんてあり得ない。葉っぱや根っこを食べてでも生きようとするはずだ」
ホーリーとサーチがキャミをなぐさめる。
「私、地球に戻ります」
キャミが急に立ちあがる。
「フォルダーが許可するだろうか」
[151]
ホーリーがミトを横目で見ながらつぶやくと、イリが黙って作戦室から出ていく。
「瞬示と真美は何をするために地球に残ったんだ」
急に思い出したようにミトがホーリーにたずねる。
「気になることがあるとだけ言って、リンメイの研究室から消えてしまった」
「今度ばかりはあのふたりに奇跡を期待するのは無理なようだ」
ミトの言葉にサーチが首を傾げて意識せずにポツリと言葉を吐く。
「どうして」
「人間の心の問題だからじゃ」
住職が火炎土器をうつろな目で見つめるリンメイの肩に手を置きながらミトに代わって応える。リンメイはやっと視線を動かして上目づかいで住職を見つめる。
「退廃した人間の心を元に戻すことは大変なことじゃ」
否定する者は誰もいない。
「わしも地球に行く。今こそ仏の教えが必要な時じゃ」
作戦室の天井のスピーカーからフォルダーの声が流れる。
「俺にキャミを縛る権利はない。キャミ、カーン・ツーには念を押しておけ。おまえが墓穴を掘ったことを肝に銘じておけと」
どうやら、イリがフォルダーに頼みこんだようだ。キャミが若返ったように天を仰ぐ。
[152]
「ありがとう!フォルダー」
「私も行く」
「俺もだ」
次々と声があがる。最後に四貫目が低い声を出す。
「我らもご一緒する」
***
「時空間移動船の数が足りません」
「何隻足らない?」
「二十一隻です」
Rv26が肩を落とす。
「九十パーセント以上が脱出に成功しました」
「もう時間がありません」
Rv26は時空間移動船の艦橋でメイン浮遊透過スクリーンを見つめる。
「発信!月の軌道まで移動!他の時空間移動船は計画通り完成コロニーへ空間移動せよ」
「なぜ、ワレワレも完成コロニーへ空間移動しないのですか」
「気になることがある。とりあえず月の軌道から地球の動向を探る」
Rv26は肩から伸びたマイクを握る。脱出できずに地球に残ったアンドロイドにメッセージを送るためだ。
[153]
「ワタシの不手際で地球を脱出できないアンドロイド諸君に告ぐ」
Rv26が想いをめぐらして目を閉じると最も短い言葉を選ぶ。
「すまない」
返事はない。Rv26にとって返事があってもなくても同じようなものだった。
「時間です」
Rv26のそばにいるアンドロイドが叫ぶ。Rv26はメイン浮遊透過スクリーンに映しだされた地球を見つめ続ける。
「宇宙海賊からの通信です」
「つなげ!」
「フォルダーだ。Rv26、見事な指揮だ」
「多次元エコーは?」
「勘違いしていた。多次元エコーはブラックシャークに搭載されているが、このホワイトシャークには搭載されていないことを忘れていた」
「フォルダー……」
Rv26が絶句すると同時に気が抜けてしまう。
「かなりの数の空間移動反応を観測!おそらく地球に時空間移動船らしきものが到着します」
[154]
「警戒態勢!」
Rv26がすぐさま反応するとフォルダーの明るい声が聞こえてくる。
「ノロの惑星から人間へのプレゼントだ。一日分にも満たないが食料を満載している」
「なぜ、ワタシにそのようなことを伝えるのですか」
「いや、重要なことは今から言う」
「……」
「酸素に満ちた地球からの脱出おめでとう」
メイン浮遊透過スクリーンにホワイトシャークが映る。
「ホワイトシャークが地球からものすごいスピードで離脱しています」
「フォルダー!意味がわかりません」
Rv26がそう叫ぶとすぐに顔をあげてさっきより大きな声を出す。
「地球に残ったアンドロイドを指揮して、人間を助けてやれと言うことですか?」
フォルダーからの返事はない。
「できるだけのことをしましょう!」
Rv26が力強く叫ぶと、やっとフォルダーから返事が届く。
「頼むぞ。でも地球に長く居続けると錆てしまうことを忘れるな」
「どういう意味ですか」
[155]
「人間がアンドロイドの言うことを聞かなければ、すぐに地球を見限れ!」
フォルダーの言葉が終わるとホワイトシャークの姿が消える。
「ワープしました」
「地球に戻る」
Rv26が右腕をあげて袖をまくる。白い人工皮膚のあちらこちらから赤茶けた粉がふきだしている。そして器用に笑うような表情をしながら、そばにいる部下に話しかける。
「オイルを持っているか」
[156]