第四十章から前章(第四十三章)までのあらすじ
瞬示と真美は巨大コンピュータと交渉するがすぐ戦争を始める人間を非難して譲らない。それどころか無言通信を利用してノイズで人間を屈服させるという。地球に戻ってノイズ攻撃のことを伝えると一太郎がノイズ遮断プログラムの開発にかかる。
ミトとホーリーが前線第四コロニーの五十隻もの戦艦に戦いを挑むが追いつめられてアンドロイドに脱出命令を下すと、敵戦艦の攻撃が停止して戦艦の中央コンピュータ同士の会話が始まる。アンドロイドが戦死したことに疑問を持った中央コンピュータが一斉に説明を求めると巨大コンピュータが絶句する。
この事件を通じてコンピュータやアンドロイドが意思を持ったことを誰もが認める。キャミが巨大コンピュータに先制攻撃を決断したときノイズが流れる。一太郎と花子はノイズ遮断プログラムを完成させたが、ノイズに苦しむ全人類にインストールすることは不可能に近かった。
カーンとホーリーとRv26がノイズの元を断つために宇宙戦艦で前線第四コロニーに向かう。
【時】永久0274年
【空】前線第四コロニー
【人】ホーリーサーチミトカーンRv26
[414]
***
「カーン将軍の復活だ」
宇宙戦艦の艦橋に現れた堂々たる若いカーンに、先に生命永遠保持手術を受けたホーリーが思わず叫ぶ。
「茶化すな。それより通信は?」
「通じません。前線第四コロニーは時空間バリアーに包まれています」
「俺たちを意識しているんだ」
ホーリーがカーンからアンドロイドに視線を移す。
「カーン艦長、以前からバリアーを張っています」
「それなら、かなりのエネルギーが必要じゃないか」
「もちろんです。核融合炉のエネルギーでまかなっています」
「作戦を確認します」
艦橋のメイン浮遊透過スクリーンに作戦の概略図が映しだされる。カーンのアイデアを下敷きにミトが練りあげた捨て身の戦法だ。まず宇宙戦艦の全主砲を時空間バリアーの一点に集中させたあとその同じ場所にリモートコントロールで無人の時空間移動装置を時空間移動させる。
[415]
当然バリアーに阻止されて時空間移動装置は大爆発を起こす。時空間移動中に時空間移動装置が爆発すると大量のエネルギーを放出する。そのエネルギーでバリアーを破壊できれば前線第四コロニーにたやすく時空間移動装置を侵入させることができる。
これは以前、同じ前線第四コロニーで男と女の追跡隊が次々と時空間バリアーにぶつかって、バリアーが破壊されたことをヒントにしてたてられた作戦だ。
「宇宙戦艦に搭載した二百基程度の時空間移動装置でバリアーを破ることができるだろうか」
「本来は百基しか積みこめないのを無理して二倍積みこんだのです。それに地球からもミトの命令で百基ほどの時空間移動装置がリモートコントロールでバリアーに突っこむ予定です」
カーンがサブ浮遊透過スクリーンの地球を見つめる。
「ノイズ遮断プログラムのインストール作業にいくらあっても足らない時空間移動装置をミトは都合三百基も用立てしてくれたのか」
ホーリーがカーンに笑顔で応える。
「そうです」
Rv26はこんなときに笑顔を見せるホーリーをふしぎそうに見つめる。
「Rv26の表情が豊かになってきたな。失礼だが……」
ホーリーは背の高いRv26の顔に手を伸ばしてさわってみる。
[416]
「案外、やわらかいんだな」
Rv26も自ら顔をなでる。
「やわらかい?」
警報が鳴り響く。
「ミサイル接近中!」
「なに!」
「球形レーザービーム砲発射!」
宇宙戦艦の周辺で十数回低い爆発音がする。
「敵はバリアーを解除したのか?」
「違います。あれを見てください」
Rv26がメイン浮遊透過スクリーンを指差す。前線第四コロニーのまわりに数えきれないほどのミサイルランチャーが見える。
「コロニーの外にミサイルランチャーを配備しているんだ」
「数は?」
「二千基以上あります」
「何という数だ」
「ミサイルランチャーが移動しはじめました」
[417]
ホーリーの頭がフル回転する。
「カーン艦長。巨大コンピュータはこれまでとまったく異なる戦法を採用したようです。それに……」
カーンがホーリーの意見をさえぎる。
「どういう戦法だ?」
「前回の戦闘で中央コンピュータやアンドロイドが寝返ったから、機械的な単純な武器で戦おうとしているんです」
「数にものを言わそうとしているのか」
「それだけではありません。レーザー光線発射ランチャーではなくミサイルランチャーで対抗しようとしている。レーザー光線発射ランチャーの方が強力ですが、外れたれレーザー光線が誤って地球に向かうのを考慮している。つまり、地球を無傷で手に入れたいのです」
「わかった。よし!すべて破壊しろ」
カーンの声が艦橋に響く。
「主砲発射準備よし!自動照準確定!バリアー解除」
「発射!」
「ミサイル接近中」
「バリアーを張れ!」
[418]
ミサイルがバリアーに引っかかって戦艦の周辺で低い爆発音がする。
「ミサイルランチャーの約二パーセントを破壊した模様」
「巨大コンピュータが作った攻撃システムにしてはちゃちだな」
「油断するな」
カーンがホーリーを引きしめる。
「次のミサイルの接近確認」
アンドロイドのきびきびとした応答が艦橋に響く。
「これではバリアーを解除して攻撃できない」
「それより、バリアーが保つかな」
「数が多すぎる」
「先を越された」
ホーリーが悔しがる。
「蛇行しろ。バリアーを張らずに球形レーザービーム砲で対処する方がよかったのか?」
「いいえ、数が多すぎて球形レーザービーム砲では対処できません」
「できるだけミサイルがバリアーにかからないようにするしか、ほかに手はない」
カーンの言葉を受けてRv26の大きな声がする。
「全速蛇行続行!」
[419]
「バリアーをしたままでは主砲を発射できないばかりか、空間移動もできない」
「ミサイルの在庫がなくなるまで我慢するしかないのか」
ホーリーはカーンの言うとおり、とてつもなく手強い相手だと認識する。
「ミサイルの到達の間隔が十秒以上あれば、バリアーを解除して数秒間主砲を連射できないことはない。艦長を命令を!」
カーンがホーリーの提案に大きくうなずく。
「測敵開始」
Rv26がすぐさま指示を実行する。
「五十三秒後に九秒間ミサイル攻撃の間隔が開きます」
「主砲発射の準備にかかれ。やるしかない!」
Rv26に命令するとホーリーを見つめる。カーンはホーリーがそばにいてくれてよかったとしみじみと感じる。ホーリーは副官あるいは副艦長として起用すると最も実力を発揮する。
ホーリーの作戦がすぐに効果をあげる。ミサイルランチャーの数が減るにつれ、逆に宇宙戦艦の攻撃の回数が増えていく。
「あと一息だ。油断するな」
カーンの声が響く。アンドロイドの反応がさらに向上する。カーンもホーリーも十分に手応えを感じる。ひょっとしたら一隻で攻撃を仕掛けたのが正解だったのかもしれない。
[420]
もし五十隻もの戦艦を引きつれて戦いに望めば、とっさにこのような戦法が実行できたかどうか疑問だとカーンは考える。しかし、本格的な戦闘はこれからだ。
「全ミサイルランチャーを破壊!」
アンドロイドから歓声があがる。カーンもホーリーも一瞬耳を疑う。
「エネルギーがまもなく底をつきます」
「地球連邦軍司令部、応答せよ」
カーンがミトを呼びだす。
「こちら地球連邦軍司令部。ミトだ」
「ミト、エネルギーの充填を頼む」
「了解」
「こちらはまだ無事に戦いを続けているが、そちらはどうだ」
「アンドロイドのめざましい活躍でなんとかなりそうだが、死者が続出している」
ミトの声はあくまでも冷静だが、事態が好転している状況ではなさそうだ。宇宙戦艦がわずかに揺れる。地球からエネルギーがマイクロウエーブで送られてきた。
「前線第四コロニーのバリアーが解除されました!何か仕掛けてきます」
今までにないアンドロイドの素早い反応だ。
「エネルギー充填中止。全速前進!いや、前線第四コロニー手前に空間移動せよ!ぶつからないように用心しろ」
[421]
アンドロイドの手足が忙しく動く。
「強力なレーザー光線が向かってきます」
宇宙戦艦のまわりが急に明るくなるのと、戦艦がその場から消えるのがほぼ同時だった。宇宙戦艦の目の前に前線第四コロニーが現れる。というより前線第四コロニーのすぐ近くに宇宙戦艦が空間移動したのだ。
「全砲門発射!」
宇宙戦艦の全主砲が前線第四コロニーに向かって発射される。
「バリアーが張りめぐらされる前に到達してくれ」
カーンは祈るようにメイン浮遊透過スクリーンを見つめる。主砲のレーザー光線が前線第四コロニーのシェルターの手前ではじき飛ばされる。
「惜しい!」
カーンが床を二、三度踏みつける。
「同じ場所に全主砲を集中して撃ち続けろ。全エネルギーがつきるまで」
再び主砲が発射される。
「距離をつめろ!」
若くなったカーンは巨体を震わせながら次々と命令を下す。Rv26の中継なしにアンドロイドがカーンの命令を的確にこなす。
[422]
「時空間移動装置、発進準備!」
「エネルギー低下」
「第二連装から第五連装までの主砲打ち方やめい!第一連装の主砲にエネルギーを集中しろ!」
眼下の前線第四コロニーのはるか彼方に地球が青く光っている。宇宙戦艦がわずかに揺れる。
「地球からエネルギーが送られてきました」
「よし!エネルギー回路を全主砲に直結しろ!」
「直結完了!」
五連装十五門すべての主砲が火を噴く。
「時空間移動装置を順次、時空間移動させろ」
「格納室!準備は?」
「二十基、時空間移動完了。次の二十基準備中」
「間隔をつめろ」
ホーリーがここでミトに無言通信を送る。
{攻撃地点の座標に向けて地球からも時空間移動装置を発進させてくれ}
{了解!第一陣の時空間移動装置、発進!}
[423]
力強いミトの無言通信がホーリーの頭に響く。
主砲の集中攻撃でバリアーの一角が赤味を帯びて輝く。次々と時空間移動装置が時空間移動して、赤く輝く地点で大爆発を起こす。しかし、バリアーはびくともしない。爆発の振動が宇宙戦艦に伝わってくる。
「残り四十基。二十基時空間移動開始!」
ホーリーが時空間移動室に向かうために艦橋を出る。
「頼むぞ!」
カーンの力強い期待がホーリーの背中に突きささる。
「私も行きます」
Rv26がホーリーのあとを追う。すごいスピードだ。以前のRv26とはまったく違う動作だ。メイン浮遊透過スクリーンではそれまで赤味がかっていた透明のバリアーの一部がまぶしく輝きだす。
「最後の二十基です」
最後の時空間移動装置がバリアーに突っこむ。休むことなく主砲はレーザー光線をはきだす。
「だめか」
カーンが息を止めて目元をピクピクさせてメイン浮遊透過スクリーンを見つめる。
「第四連装、第五連装の主砲打ち方やめい!艦首をあの地点に突入させろ!」
[424]
艦首を前線第四コロニーに向けると三連装計九本の主砲がなおもレーザー光線をはき続ける。
「カーン、準備完了」
ホーリーの声が艦橋のスピーカーから流れる。
「まだだ!待機。ショックに備えろ!」
宇宙戦艦の艦首がバリアーにめりこむように激突する。次の瞬間、目もくらむような強烈な輝きを伴って艦首が跡形もなく吹っとぶ。同時にバリアーが消滅する。
「今だ!」
カーンが叫ぶ。二十基の時空間移動装置が前線第四コロニーのシェルターの内側に現れる。カーンはそれをメイン浮遊透過スクリーンで確認すると地球連邦政府に送信する。
「侵入成功!」
カーンがそう言い終わるのを待っていたかのように宇宙戦艦が大爆発を起こす。
***
「アンドロイド同士が戦うことになる」
ホーリーがRv26の時空間移動装置に連絡を取る。
「了解しています」
Rv26から力強い返事が戻ってくる。
「どのようにして巨大コンピュータを破壊するかだ」
[425]
「このまま時空間移動装置で巨大コンピュータルームに行くのは危険です」
「巨大コンピュータに会いに来たんじゃないものな。巨大コンピュータは膨大なエネルギーを消費しているはずだ。核融合炉を破壊すれば」
「あそこは警備がきびしすぎます」
「よし、主電源装置を破壊しよう」
Rv26から返事がない。ホーリーが不安になって叫ぶ。
「どうした!」
少し遅れてRv26の弱々しい声がスピーカーから流れる。
「カーン艦長からの通信が途絶えました」
「!」
瞬間的にすべてを理解したホーリーは両手の拳にありったけの力をこめて震わせる。
「カーン、素晴らしい艦長だった」
「たった一隻の戦艦でここまで戦えるとはワタシの演算範囲をはるかに超えています」
Rv26の感心した声をさえぎってホーリーがつぶやく。
「カーンだからこそできた」
「やってみなければわからないということですか」
「やるぞ!Rv26」
[426]
「手動で主電源装置室に移動します。着いてきてください」
「わかった。頼むぞ」
ホーリーたちの時空間移動装置が現れた場所は戦闘艦やフリゲートの格納室だ。誰もいない。時空間移動装置のドアが跳ねあがるとホーリー、Rv26や武装したアンドロイドが次々と降り立つ。
「ここは主電源装置室ではないぞ」
ホーリーがRv26をにらみつける。
「巨大コンピュータをだますためウソを言ったのです。時空間移動装置間の、そしてアンドロイド同士の通信はつつぬけです」
ホーリーはただひたすらRv26の大きな背中についていく。階段を上ったりいくつかのドアをくぐり抜けたところは見覚えのある広い空間だ。ここは旗艦セント・テラの艦橋。
「旧式ですが現役の戦闘艦として十分戦えます」
Rv26が自ら操縦席に座る。旗艦セント・テラが生き返ったように振動しはじめる。
「すべての電源オン。発進します」
格納室の天井が大きく開く。セント・テラがゆっくりと上昇を開始する。
「すごい!立派に動くじゃないか」
ホーリーが再びRv26の肩をたたく。
[427]
「Rv26、このセント・テラで主電源装置を破壊するのか?」
「いいえ、直接巨大コンピュータを攻撃します」
ホーリーがRv26の肩をポーンとたたく。
「任せる。ここはRv26のふるさとだからな」
Rv26が肩を落として目を閉じる。
「どうした」
「ワタシは初めてウソをついたアンドロイドになるのが残念です」
「これでRv26は人間の仲間になったわけだ」
「人間の仲間になるためにはウソをつかなければならないのですか」
ホーリーがいつもの人なつこい表情をRv26に向ける。
「Rv26がウソつきアンドロイドの第一号として永遠に名声が残るように一肌脱ぐぞ」
「あまり名誉なことではありませんが、わかりました」
セント・テラが天井に近づくと急に格納室が騒がしくなる。どこから現れたのかアンドロイドが格別驚いた様子を見せることなく淡々とフリゲートに乗りこむ。開いていた格納室の天井が閉まりはじめる。
「急げ!」
「急上昇は危険です」
[428]
急上昇するとシェルターにぶつかる恐れがある。
「間に合うか」
セント・テラの艦橋が格納室の天井からはみ出す。閉まりかけた天井の一部が甲板に迫る。セント・テラが少し傾く。艦首が天井に引っかかるが、かまわず上昇を続ける。天井が持ちあがるように大きく曲がる。バリバリという大きな音がして一部がくずれる。何とかセント・テラは格納室から離脱する。
「後部主砲は追っ手のフリゲートが格納室から出てきたところを狙え」
「その必要はありません。格納室の天井が閉じました」
「開けっ放しにしておけばよかったものを。よし!巨大コンピュータを攻撃する」
格納室の天井が再び開かれようとするが、損傷したところが引っかかるのか少し開いただけで動きが止まる。
「ありがたい。追っ手を気にしなくて済む」
ホーリーが敵失を歓迎する。
セント・テラは要塞のような丘に近づくと浮かんだまま停船する。
「全砲門を開け。標的はあの丘だ」
ホーリーが百人足らずのアンドロイドを引きつれて、戦艦ほどの強力な主砲は積んでいないがセント・テラという準戦艦級の戦闘艦で真っ向から巨大コンピュータに戦いを挑む。
[429]
「発射!」
太いレーザー光線が大きな丘に撃ちこまれる。丘は吹っとんで巨大なシェルターに無数のヒビが走る。シェルターは外からの攻撃には強いが、内側からの攻撃にはもろい。
「衝撃に備えろ!」
シェルターが破裂するように粉々に割れる。飛び散った岩石が勢いよく前線第四コロニーの上空に飛びだす。
「踏みとどまれ」
真空の宇宙に放りだされまいとセント・テラは船首を地表に向けてエンジンを全開する。
「体勢を立てなおして第二次攻撃の準備をしろ」
Rv26がセント・テラを水平に安定させると主砲の照準を合わせる。
「舞いあがった岩石が落ちてくる前に攻撃する」
すでに小さな岩石がセント・テラの艦体にコツコツと音をたててぶつかる。
「第二次攻撃開始」
再び主砲から太いレーザー光線が半分以上破壊された丘陵部分に撃ちこまれる。ホーリーは息を殺してレーザー光線の行方を見守る。大きな爆発音がするはずだがシェルターが破壊されて空気がないから何も聞こえない。しかも砂塵でよく見えない。しばらくすると紫色に輝くものが現れる。
[430]
「あれは何だ?」
巨大な球形の物体がゆっくりと上昇する。ホーリーには丘そのものが上昇しているように見える。
「三次攻撃の準備!」
ホーリーが生唾をのみこむ。
「あれは!まるで時空間移動装置のお化けのようだ!」
ホーリーは巨大な紫色の球体を見て直感的な言葉をはく。そしてすぐにこの球体の中に巨大コンピュータが格納されていると確信する。それにしても大きな球体だ。直径二、三キロメートルはあろうかという球体だ。その紫色の球体がゆっくりと回転を始める。
「撃て!撃ちまくれ」
ホーリーの命令がとどろく。巨大な球体の回転がまたたく間に速くなる。セント・テラの主砲が白い火を噴く。レーザー光線が高速回転に達した巨大な紫色の球体を捕らえる。しかし、その光線ははじかれるようにあらゆる方向に散らされる。散乱したうちの一本のレーザー光線がセント・テラに戻ってきて艦尾に命中すると爆発する。セント・テラは大きく傾いて横向きに落ちていく。高度が低かったため地表に激突することはなく、地面を数千メートルほど土煙をあげながら這うようにして停止する。
「大丈夫ですか」
[431]
Rv26が座席から放りだされてうずくまるホーリーのそばに手をついてのぞきこむ。
「大丈夫だ。被害は?」
ホーリーはうめきながらも状況を把握しようとする。
「艦尾が完全に破壊され、航行不能です」
「時空間移動装置の格納室へ行くぞ」
Rv26がホーリーに肩を貸そうとする。そのとき誰かが叫ぶ。
「敵フリゲートがこちらに近づいてきます」
「距離は?」
格納室のこわれた天井を修復してフリゲートがセント・テラを追跡してきたのだ。
「すでに敵の照準が本艦をロックしました」
「主砲は使えるか」
「全門使用不能です」
「これまでか」
ホーリーがRv26に向かって「すまない」と言ってから頭を下げる。そして顔をあげてRv26を見つめる。
「最後の仕事だ。ノイズ遮断プログラムをアンインストールしてくれ」
Rv26はホーリーに言われたとおり肩から素早く髪の毛のような細いケーブルを引きだし
[432]
てホーリーの頭に埋めこまれた無言通信チップの端子に差しこみ、一太郎が開発したノイズ遮断プログラムをアンインストールする。そのとき艦内の照明がすべて消える。
ホーリーはすぐさまサーチに無言通信を試みる。サーチの無言通信が返ってくるまでに雑音が混じっていないかじっと耳を澄ます。
「ノイズが消えている!」
ホーリーはRv26の肩を借りて立ちあがって大きな声を出して笑う。暗いがRv26にはホーリーの笑顔が引きつっているように見える。あばら骨が折れているらしく、骨の一部が腹部を突き破っている。ふしぎなことに出血はない。生命永遠保持機能がホーリーの身体を何とか支えている。
「ノイズの発信源の破壊に成功したようだ」
Rv26がホーリーをふしぎそうに見ながら、近くにいるアンドロイドに向かって叫ぶ。
「回復剤を持ってこい!」
「ありがとう、Rv26。作戦は成功した」
「でも、ワレワレはフリゲートの攻撃を受けます」
横倒しのセント・テラの艦橋の窓から集結したフリゲートの主砲がセント・テラに向けられているのがよく見える。
「白旗でも振ってみるか」
[433]
Rv26がホーリーをしげしげと見つめる。
{ホーリー!}
やっとサーチからの無言通信が入る。
{さっき、ノイズが消えたわ}
{よかった。すぐ反撃開始だ!}
{わかったわ}
いつの間にかフリゲートの主砲がセント・テラからはるか彼方に向けられているのにホーリーもRv26も気が付かない。
{ホーリー、ホーリー}
返事がないのでサーチから無言通信が断続的に送られてくる。
{ミリンを頼む}
{ホーリー!}
サーチから強烈な無言通信がホーリーの頭をゆさぶる。ホーリーは無言通信を切る。
[434]