【時】永久0274年
【空】鍵穴星
【人】ホーリー サーチ ミト フォルダー イリ 住職 リンメイ Rv26
巨大コンピュータ
***
はるか離れた数個の恒星からの光をわずかに反射して鍵穴星が宇宙の地平線の内側に浮かんでいる。その上空に銀色に輝く十隻の宇宙戦艦とブラックシャークが時空間移動してくる。
「無人の時空間移動装置を鍵穴星に送りこめ」
艦体の側面に赤い線を塗装した地球艦隊旗艦カシオペアの艦長ミトが命令する。カシオペアにはミトのほかホーリー、サーチ、ケンタ、ミリン、五郎、リンメイそして住職が乗りこんでいる。そのほかの乗務員はすべてアンドロイドだ。もちろん、Rv26も副艦長として同行している。
各戦艦の時空間移動装置の格納室では五基を一組として十組、合計五〇基の無人の時空間移
[500]
動装置が格納室から消えて、鍵穴星の地表一キロメートル上空に空間移動する。各宇宙戦艦の艦橋のメイン浮遊透過スクリーンの画面が五十分割されて時空間移動装置から送られてきた映像を表示する。どの画面にも色のない荒涼とした地表が映っている。
「あれは」
リンメイが十八番目の映像を指差すとホーリーがうなずく。
「フォルダーが言っていた鍵穴の形をした窪地だ」
「御陵の土を取りのぞけばあんな感じになるわ」
「フォルダーの話によると数えきれないほどあるらしい」
ブラックシャークの中央コンピュータからこの星のことを詳しく聞いていたリンメイがうなずきもせずにじーっとメイン浮遊透過スクリーンをながめる。
「あの中に巨大土偶がいたのは間違いないわ」
副艦長のRv26が自分の席をリンメイに勧める。リンメイはスクリーンから目を離さずに住職に手を引かれながら副艦長席に着く。
「巨大コンピュータはいったいどこにいる?」
ミトがあせる。
「四十八、四十九、五十号装置を鍵穴星の向こう側に移動させろ」
三基の時空間移動装置が鍵穴星からゆっくりと遠ざかる。その行き先は宇宙の地平線だ。
[501]
「縦隊で移動させろ。先頭は四十八号装置、以下四十九号装置の順だ」
「三十一番目の映像をアップして!」
リンメイが叫ぶ。サブ浮遊透過スクリーンがメインスクリーンの手前に現れると、三十一番目の映像が拡大されて映しだされる。住職もホーリーもサーチもサブスクリーンに視線を移す。
うっすらと赤く輝くものが見える。
「もっと!」
三十一号装置が地表に近づく。
「火炎土器だわ」
真っ先にサーチが声をあげる。火炎土器が地面に突きささっている。続いてリンメイも大きな声をあげる。
「赤い!熱を帯びているのかしら?」
Rv26の耳元が赤く輝く。
「熱で赤くなっているのではありません。火炎土器の表面温度はマイナス百二十度です」
火炎土器がすぐに土色に戻る。
「どういうこと?」
ブラックシャークが降下するとフォルダーの声がミトに届く。
「巨大コンピュータはここにはいない」
[502]
「どうしてわかる」
「うちのオンボロコンピュータが言っているのだから間違いない」
フォルダーが中央コンピュータに向かって念を押す。
「まったくコンタクトが取れないのだな」
「しかし、この付近から時空間移動した形跡はありません」
「どこかに隠れているとでも」
「それはありません」
「ミト、今のところ危険はないようだ。思い切って探索したらどうだ」
「わかった」
ミトは二隻の戦艦をしたがえて鍵穴星に降下する。
「主砲はスタンバイしておけ」
あらゆる方向の攻撃に対応するために砲身が右左に振られる。
「無人時空間移動装置の半数を鍵穴星の上空千キロメートルのところへ移動させろ」
この星へ近づく物体を補足するためだ。
「こんなに外の温度が低いと生身の人間は時空間移動装置で外へは出られないわ」
「ここを前線コロニー化するほどの悠長な時間もないしなあ」
サーチとホーリーの会話にミリンが割りこむ。
[503]
「あれは!」
リンメイがミリンの指差す映像を見る。
「御陵だわ」
今度はホーリーが叫ぶ。
「丸いものがある!」
それはホーリーが関ヶ原の合戦の時代に時空間移動したときに見た円墳とよく似ている。ただ、木がないことだけが違っている。
「裸の古墳、裸の御陵だわ」
サーチが感慨深げにつぶやく。ほとんどが窪地になっているが、フォルダーが言っていたように形あるものも存在する。
「おかしい」
フォルダーからミトに通信が入る。
「何が」
「以前は鍵穴の形をした小山のようなものがかなりあったのにほとんどない。もちろん、鍵穴のように見える窪地も結構多かったが」
フォルダーがここで言葉を切る。ブラックシャークが地表に到着する。
「フォルダー、リンメイが完全な形をしたものを発見した」
[504]
「本当か」
フォルダーが過去の記憶を正確にトレースするとミトに指示する。
「こっちへ来い」
旗艦カシオペアの艦首が大きく右に傾くと前方下に真っ黒なブラックシャークが見えてくる。
ブラックシャークの近くには鍵穴の形をした窪地がところせましと並んでいる。
「もっとこっちだ」
ブラックシャークが少し加速して前進する。カシオペアも遅れずに追従する。
「見ろ!」
フォルダーの声がカシオペアの艦橋に響く。
「ああ」
リンメイが誰よりもほんの少しだけ早く悲鳴をあげるが、すぐにそれが全員の悲鳴になる。御陵のちょうど真ん中、方形部分と円形部分のつなぎ目のところが大きくえぐられている。
「のど元が破壊されているわ」
その辺の御陵はほとんどが同じ状況だ。そしてよく見るとそのえぐられたところから巨大土偶のアゴと首の付け根が見える。
フォルダーから断定的な通信が入る。
「付近の温度から、破壊は二日前ぐらいに起こったようだ」
[505]
***
「見直したぜ」
フォルダーが船長室に入ると中央コンピュータに話しかける。
「今まで信用してくれてなかったのですか」
「おまえの言ったとおり巨大土偶の故郷だったな」
「あれだけ自信を持って言ったのに」
中央コンピュータが不満を繰り返す。
「まあまあ、チューちゃん、フォルダーは口が悪いから許してあげて」
「今回は我慢できません」
「いや、すまんすまん。これで許してくれ」
フォルダーがホーリーと飲んでいた酒の残りを高々と振りあげる。
「そんなものではだまされません」
「もう一本ある。こちらは未開封の正真正銘の新品だ」
「ありがたくいただきます」
「何だ?現金なヤツだな」
「私、前々からふしぎに思ってたんだけれど、チューちゃんってどうやって酒を飲むの?」
フォルダーではなく中央コンピュータからの返事がイリに届く。
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「燗にします。酒は燗に限ります」
「ウソー」
イリが可愛い目を丸くして驚く。
「一度いっしょに飲みたいわ」
「酒はひとりで飲むものです」
「よく酒がなくなると思っていたら、くすねていたんじゃないだろうな」
「正直なのがとりえだから白状しますけれど、そうです」
「こいつ!ときどきわけのわからないことを言っていたときは飲んでいたな」
「飲まなきゃ、やってられないときもあります」
「フォルダー、あなたはチューちゃんとよくお酒を飲むんでしょ」
イリはこれまでフォルダーの冗談だと信じていたことを白紙に戻す。
「もちろん」
「あきれたわ。どうやって飲むの?コンピュータが」
「意外とちびちびと飲むのがクセだ」
からかわれたと思ってイリがプイと横を向く。
「フォルダー」
ミトからの通信が入る。
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「宇宙の地平線の向こう側に移動させていた時空間移動装置三基すべてがこつ然と消えた」
「ミト!地平線の向こうは因果が逆転する世界なんだぞ」
「えっ!因果が逆転するとはどういうことだ?」
「いや、俺も詳しくは知らない」
そのとき、ブラックシャークの中央コンピュータがすべての宇宙戦艦との通信回路を強制的に開く。フォルダーとイリは船長室天井の浮遊透過スクリーンを見つめる。
「緊急事態発生!巨大な時空間移動装置がこの近辺に時空間移動、いいえ、時間移動ではなくて、えーと、とにかく現れます。大きすぎます。すでに時空間がねじ曲がっています」
「あれは」
ミトの、そしてフォルダーの叫び声が完全に一致する。以前の大きさとは比べようがないほどのスケールに成長した紫色の球体が鍵穴星の上空に現れる。真空なのに「ドドドー」という振動が直に伝わってくる。
「あの中に巨大コンピュータが格納されているはずだ」
ホーリーが冷静に状況を説明するとミトが大声で命令を下す。
「最大級の攻撃態勢を取れ!上昇だ!」
旗艦カシオペアと二隻の戦艦が上空に待機している七隻の戦艦に向かって上昇する。ブラックシャークも急上昇して同じく最大級の攻撃態勢を取る。
[508]
「たたきつぶしてやる!」
フォルダーが拳を震わせながら、船長室から艦橋に向かう。
***
「時空間移動装置である以上武器は装着してないだろう」
ホーリーの説明を一通り受けたミトが同意を求める。
「わからない。しかし、あの時空間移動装置は常識をはるかに越える大きさだ。俺たちのちっぽけな時空間移動装置を下敷きに判断すると、判断そのものを誤ることになりはしないか?」
ホーリーは慎重だ。ブラックシャークの中央コンピュータも警告を断続的に発する。
「以前申し上げたことを思い出してください。あの超巨大時空間移動装置にはワレワレの想像力をはるかに超えた攻撃力があると認識してください」
そのとき低く重い声が船内に響く。
「おまえたちの武器でワタシと戦うことは不可能だ。いや、武器の問題ではない。神を攻撃すれば手痛い罰を受けることになる」
「おまえは巨大コンピュータだろう」
「神だ」
ホーリーがミトを制してささやく。
「主砲を発射すればこちらに戻ってくるという特殊なバリアーを持っている」
[509]
「わかっている。その話は以前聞いた」
ミトがホーリーにささやき返す。そして即座にフォルダーに攻撃を差しひかえるように伝えるとすぐに怒鳴り声が帰ってくる。
「超巨大時空間移動装置から離れろ!」
紫色をした超巨大時空間移動装置が十隻の宇宙戦艦との距離を徐々につめる。
「無理だ!主砲を発射すれば逆にやられるぞ」
ミトに替わってホーリーがフォルダーに説明する。
「とにかく、すぐに離れろ!ここは俺に任せろ!」
ホーリーはフォルダーの言葉にふしぎなものを感じる。そしてフォルダーが何か秘策を持っていると確信する。
超巨大時空間移動装置が宇宙戦艦との距離をさらにつめる。ミトは距離を取ろうと鍵穴星の向こう側に艦隊を進ませる。そのときRv26がミトに近づいて大きな声を出す。
「このまま進むと宇宙の地平線に出ます」
ミトのこめかみがピクッと動く。超巨大時空間移動装置がますますミトたちの艦隊を宇宙の地平線の方に追いこむように接近する。
「速度を上げろ。超巨大時空間移動装置の反対側に回りこめ」
すべての宇宙戦艦が加速する。超巨大時空間移動装置も自転する速度を上げながら加速して
[510]
戦艦の回避行動をさえぎる。フォルダーから叫ぶような通信が入る。
「何をもたもたしている。早く空間移動してどこかに隠れろ」
「できない。今さっき地球からここへ時空間移動して来たばかりだ。いったん時空間移動すると六時間、時空間移動はもちろんのこと、少し時間を置かないと空間移動さえもできない」
「何だと!ホーリーたちの戦艦はポンコツじゃないか」
フォルダーがあ然とする。時空間移動装置は臨機応変に時空間移動可能だが宇宙戦艦はそうはいかない。そのかわり武器をたらふく装備することができる。しかし、ブラックシャークは違う。時空間移動装置と同じようにいつでも直ちに時空間移動を自由に行うことができる恐るべき海賊船だ。
「くそー。今、攻撃するとホーリーたちをまきぞえにしてしまう」
フォルダーの無念そうな通信が流れる。
「神に逆らうことは許されない」
再び巨大コンピュータの重々しい声が聞こえてくる。すぐさまフォルダーが反論する。
「何が神だ。少しばかり作戦がうまくいっているだけじゃないか」
旗艦カシオペアでは住職がマイクを持つホーリーに近づく。
「そのマイクで巨大コンピュータと通信ができるのか?」
「できます」
[511]
住職がおもむろにマイクをホーリーから受けとると、軽くせき払いをしてから巨大コンピュータに向かってしゃべりだす。
「わしは仏の教えに身をおく僧侶じゃ。神様、聞こえるか」
返事はない。住職が一呼吸おいてさらに言葉を続ける。
「あなたが神様なら、この宇宙を創造したのはあなたか?」
住職の持ちあげた言葉に巨大コンピュータが反応する。
「そうだ。おまえたちを生かすも殺すも、神であるワタシの気持ち次第だ」
住職のしわばんだ顔に血の気が広がる。
「神様の力は認める。しかし、それは脅し以上でも以下でもない」
「ならば、今すぐワタシの偉大な力を見せてやろう」
「すべての人間を今すぐ消し去ることができると言うのじゃな」
超巨大時空間移動装置の回転が少し遅くなる。しかし、宇宙戦艦との距離は縮まる一方だ。
「このままでは超巨大時空間移動装置に触れて粉々になるか、宇宙の地平線に吸いこまれるか、危険な状況です」
Rv26が警告する。
「ワタシの力を見せてやろう……」
「見せしめなどケチなことをするのなら、それは神の行為ではない。すべての人間を今すぐ抹殺してみろ。今すぐじゃ!」
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住職は骨ばった長い人差し指をあらぬ方向にかざして空を切ると、ホーリーがミトに耳打ちする。
「住職が時間を稼いでくれるかもしれない」
「空間移動の準備を急げ」
ミトがRv26に命令する。
「住職が神だとしたら、まるでアナログの神とデジタルの神の戦いだ」
ホーリーが口角を飛ばしてマイクに向かってしゃべる住職を見つめる。ミトがホーリーにうなずくと誰に言うのでもなく、言葉を発する。
「ブラックシャークにあの超巨大時空間移動装置のバリアーを打ち破るような兵器があるのか」
ホーリーやミトの言葉が聞こえないほど住職の大きな声が巨大コンピュータに向かう。
「どうした!神様!」
住職がメイン浮遊透過スクリーンを仰ぎみる。その視線を艦橋の窓に移すとすぐそばに超巨大時空間移動装置が壁のように立ちはだかっている。
住職の言葉はまるで電光を発するかのようにはげしくなる。
「返事をしろ!すべての人間を抹殺できんのなら、宇宙を創造した神ではないぞ!」
[513]
いったん落ちた超巨大時空間移動装置の回転が急に速くなる。
「……すべての人間を抹殺すれば……ワタシの力を知る者がいなくなってしまう……」
ホーリーが止めていた息を一気にはき出して隣にいるサーチの手を握ってつぶやく。
「無限後退だ。巨大コンピュータが無限後退に陥るぞ!」
「神というものは、人間がいないと存在せんのじゃ!」
「ワタシは……神……神……」
超巨大時空間移動装置の回転がますます加速する。
「これ以上回転が速くなると、この付近すべての時間が不安定になります」
Rv26が悲痛な声をあげるのと、ホーリーが住職からマイクを取りあげるのが同時だった。ブラックシャークの中央コンピュータが通信回線に割りこんでくる。
「緊急事態発生!全艦衝撃に備えろ。もう一回しか言わないぞ。衝撃に備えろ!」
超巨大時空間移動装置を中心に空間が大きくねじれはじめて、超巨大時空間移動装置にも宇宙戦艦にもブラックシャークにもそしてかなり離れた鍵穴星にも、宇宙の地平線からとてつもないエネルギーが押しよせてくる。
ブラックシャークのエンジンがゼロからいきなり最高出力になる。ブラックシャークに呼応するように各戦艦も急加速する。目には見えないが宇宙の地平線から膨大なエネルギーが向かってくる。ブラックシャークや宇宙戦艦はまるで宇宙の地平線の彼方から急に現れた巨大な津波に気が付いて必死で高台に登ろうとしているかのように見える。
[514]
巨大なエネルギーが最後尾の宇宙戦艦をのみこむ。その戦艦は木の葉がきりもみ状態になると航行不能になる。その次の戦艦もそしてその次の戦艦もそしてついにカシオペアも航行不能になる。
「反転!全速前進!」
中央コンピュータが自ら舵を握ってブラックシャークをコントロールする。ブラックシャークは津波に向かうように反転してまっしぐらに目の前まで迫る巨大なエネルギーに突っこむ。
強烈な衝撃がブラックシャークに襲いかかる。ブラックシャークの主砲が何本か折れ、艦橋の一部がくずれかける。
「緊急空間移動!」
フォルダーが叫ぶと中央コンピュータも叫ぶ。
「ショートワープ!」
ブラックシャークがもがきながら、すさまじいエネルギーの中心に突っこむ直前に姿を消す。
***
津波のようなエネルギーはどこに消えたのか、鍵穴星のまわりは再び静かな暗闇の空間に戻っている。ブラックシャークのワープは押しよせる巨大なエネルギーを避けるためだけのショートワープだった。しかし、艦橋には十数個の補助灯が頼りなく輝くだけで、その補助灯を頼りにフォルダーがシートベルトを外して船長席から立ちあがる。
[515]
「イリ」
隣にいるはずのイリから返事がない。
「イリ!」
暗闇に慣れてきたフォルダーの目が副船長席もろとも投げだされたイリを見つける。
「胸が、胸が」
イリのうめき声が聞こえる。イリの胸にシートベルトが食いこんでいる。
「抜けだせるか」
イリが「うっ」という短い声をあげる。
「ウオー」
渾身の力をこめてフォルダーがシートベルトを引きちぎるとまわりの者がイリを引っ張りだす。
「回復剤!担架を持ってこい!」
誰かが小さなビンを差し出すとフォルダーがふたを食いちぎってイリの口に押しこむ。
「う」
イリが短くうめく。
「骨折しているのか」
[516]
「大丈夫、心配しないで」
フォルダーが担架に載せられたイリを心配そうに見送った直後、スピーカーからひび割れた声が聞こえる。
「うーん」
「中央コンピュータ!どうした?」
「気を失っていたようです。すぐ現状を把握します」
フォルダーは中央コンピュータがまだ十分余力を残していることに気付いて冷静さを取り戻す。
「まず、全員の安否を確かめろ」
フォルダーが足元に注意しながらバチバチという音をたてて火花が飛んでいる場所に向かう。
「感電しないように配線を切れ。漏電に気を付けろ」
素早く誰かが火花に消火カートリッジを向ける。
「負傷者は?」
「イリです」
「本当か」
フォルダーが手を打つ。
「イリだけが重傷者か。どおりで中央コンピュータに強い緊張感がなかったわけだ」
[517]
フォルダーがコードレスのマイクを肩から取りだして医務室に連絡を入れる。
「イリは?」
「鎖骨を骨折しています。大したことはありません」
「すぐ治療にかかれ」
フォルダーがほっとため息をついてから天井に向かって大きな声を出す。
「中央コンピュータ!」
「ハイ、今すぐ報告します。ブラックシャークの損傷は軽微ですが主砲が三門折れました。エンジンまわりは問題ありません。船長室は全壊です」
「そうか」
「ただ……」
フォルダーの脳裏にホーリーの顔が浮かぶ。
「宇宙戦艦は恐らく壊滅状態だと思われます」
「すぐに救援に向かう!手配しろ」
「すでに宇宙戦艦に向かっています」
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