【時】永久0215年〜0220年
【空】完成第十二コロニー
【人】ホーリー サーチ カーン キャミ
***
物々しい数の女の軍隊の青い時空間移動装置と男の軍隊の緑の時空間移動装置が完成第十二コロニーに到着してから十時間たった。
このコロニーで起こった事件がいかに重要かは、両軍の将軍はもちろんのこと関係する全司令官が集まっていることからも明らかだ。
女の軍隊も男の軍隊も争うことなく、むしろ協力的にシェルターの外で破壊された時空間移動装置や宇宙フリゲートそして地上の戦車の残がいを集めて調査する。
シェルターの外ではありとあらゆる方向にレーザー光線が飛び回わる。攻撃用のレーザー光線ではなく、時空間の歪みの痕跡を調べる特殊なレーザー光線だ。
テントの中で両軍の将軍が討議している。将軍も含め両軍の人間はすべて二十歳代に見える。
「この完成第十二コロニーの支配権はどちらにもなく、アンドロイドが復旧させるまでは前線
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第十二コロニーに格下げということでいいな」
男の軍隊の将軍カーンはかっぷくのいい上半身を揺すりながら女の軍隊の将軍のキャミに念を押す。
完成コロニーというのは、人間が不自由なく地球と同じように生活ができるようにアンドロイドに改造させた星のことだが、不自由なくとはいっても二重のシェルター内の限られた空間でのことで、星全体が地球とまったく同じ環境に改造されているという意味ではない。シェルターの中では何とか快適に暮らせるということだ。これに対して前線コロニーというのは改造中の星のことだ。
「カーン将軍の仰せのとおりで結構ですわ」
大きな胸の前で腕を組んだキャミが大袈裟にうなずくと逆に提案する。
「ここで収集したデータは前線第四コロニーの中央コンピュータに保存することでよろしいでしょうか?」
カーンは前線第四コロニーが所属する方面を統括する司令官に視線を向ける。前線第四コロニーの中央コンピュータは、男の軍隊を脱走した裏切り者が製造した史上最高の性能を持つ量子コンピュータだ。様々な経緯があって、前線第四コロニー及びそのコロニーの中央コンピュータは両軍の共同統治となっている。しかも人間でなくアンドロイドが管理している。そういう意味では前線第四コロニーは永遠に完成コロニーに格上げされることはない。
[45]
先ほどの司令官がカーンに近づき耳打ちする。カーンがうなずくとキャミに向きなおって確認する。
「全コロニーのなかで唯一、量子コンピュータを持つコロニーのことだな」
キャミの目線が少しゆるむ。
「そうです」
カーンがキャミを正視する。
「条件がある」
カーンが条件を付けることを待っていたかのようにキャミは首を縦に振って言葉をうながす。
「前線第四コロニーは両軍の共同統治のコロニーだ」
「そうです」
男と女は壮絶な戦争をしているが、人類共通のデータについては例外的に前線第四コロニーの中央コンピュータが保存管理している。
「データの保存方法と利用の方法を担当司令官の間で綿密に検討させたい」
「もちろん、賛成ですわ」
カーンがすぐに先ほどの司令官に作業に入るよう命令する。
「ミト司令官、検討作業を」
キャミも横にいるミトと呼ばれた司令官に指示する。ミトが部下を呼んで作業内容を伝える。
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どう見ても男に見えるミト司令官をカーンは苦々しく見つめてから視線をキャミに戻す。
「妙に落ち着いているな」
「そうかしら」
キャミがカーンを見すえる。男と女が戦争をする前、カーンはキャミの部下だった。カーンはキャミに圧倒されまいと視線を外さない。
「あのふしぎな男と女に関して何か知っているのか?」
カーンが単刀直入に尋ねる。
「知っていれば、ここへ来ませんわ」
元部下だったカーンの元上司キャミに対する嗅覚は鋭い。それは部下の観察力の方が、上司の部下に対するそれよりも鋭いという法則が働くからだ。しかし、キャミはうろたえることなく逆にカーンの言葉を注意深く分析する。
キャミはこの質問からカーンがあのふたりに関して何も知らないことを確信する。もっとも、カーンと同様、はるか昔に瞬示と真美に出会っていたことに気が付くどころか、記憶もない。それは今のキャミとカーンには自覚することが不可能というより因果律に従わない遠い過去の出来事だったからだ。
「あのふたりを捜しだしてつかまえるつもりか」
はぐらかすように逆にキャミがカーンに質問する。
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「カーン将軍はどうお考えなのですか?」
「今わかっているデータからすると、捕らえるのは不可能に近い」
「そうですね」
すぐにキャミは相づちを打ってテントの端にいるサーチとコーマを見つめる。カーンはキャミの視線の先に戦闘ヘルメットをかぶったままのサーチを見つけて驚く。すぐさまキャミはカーンに余裕がないことを見抜く。
「サーチ、それにホーリーの報告が真実だとしたら、あのふたりはとてつもない能力を持っていることになるわ」
「サーチ……生命永遠保持機構の手術室長だったサーチがなぜここにいる?」
「人事異動はどこにでもあること。サーチは完成第十二コロニー攻撃部隊の隊長でした」
サーチが今回の事件で重要な役割をしたという報告を受けていなかったことに気が付いてカーンはうろたえる。そして、悟られてはならないことを口にしてしまう。
「どうやら新しい生命永遠保持手術を開発したのではないことだけは確かなようだな」
キャミは余裕を持ってふしぎな男と女がなぜ同時に現れたのかを考えながら、カーンを退屈させないように口元を開く。
「もしそうなら、男に手術をしませんわ」
「いや、実験台として捕虜の男を使うという手もある」
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キャミはカーンが生命永遠保持手術の技術面で劣等感を持っていることを感じとる。そして同時にカーンの発言から男の軍隊が新しい生命永遠保持手術を開発していないことがわかってほっとする。
「今のところ、どちらの味方でもないのでは?」
カーンはキャミに中途半端にうなずいてから、やはりテントの端の方にいるホーリーをいち
べつする。キャミはカーンの視線が少しゆるんだのを見計らって組んでいた足を入れかえる。
「ホーリーがいなければ、ここでカーン将軍とお目にかかることはなかったでしょう。でも私達が有利に戦闘を進めているのは認めますか?」
「あのふたりを殺すという答えか」
カーンが先回りするとキャミはカーンの言葉に用心する。
「カーン将軍、あのふたりを捕らえるどころか味方にするのは不可能だと思いませんか」
テントの入り口が開いて男と女の将校がふたりずつ入ってきて、それぞれ両将軍の前に進むと敬礼する。
「データの収集が終わりました」
キャミが立ち上がって女の将校に命令する。
「データをすべて前線第四コロニーの中央コンピュータに転送するように」
カーンは座ったまま男の将校に命令する。
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「すべてのデータが前線第四コロニーのコンピュータに転送されるかチェックしろ」
そして、カーンとキャミが声をそろえる。
「撤退!」
***
テントの外で両軍が集結する。男と女の司令官が戦闘ヘルメットに組み込まれたマイクを通じて交互に指示する。
「今から十分後の一八時にこのコロニーから離脱する」
「離脱の方向はすでに伝えたように、お互い正反対の空間に向かう」
「その一時間後の一九時に休戦協定が終了する」
指示が終わると全軍があわただしくそれぞれの時空間移動装置に向かう。
テントの中では立ち去ろうとするホーリーにカーンが近づく。そして肩を叩くと偶然近くにいたサーチを懐かしそうに見つめる。
「ふたりともご苦労だった」
キャミもふたりに近づいて、カーンをにらみつけるサーチに自制をうながすとポットが置かれたテーブルを指差す。
「あと七、八分しかないけれど、コーヒーでも飲んでゆけば」
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キャミはそう言い残すとカーンとともにテントを出る。サーチは今ここにいた両将軍と、壮烈な戦闘を繰り返して対立しているそれぞれの将軍とは別の人間ではないかと錯覚しそうになる。一方ホーリーは両将軍を見送るとテーブルに近づく。しかし、サーチにはキャミがなぜカーンといっしょに自分たちにコーヒーを勧めたのか理解できずに、カーンの背中がテントのすき間から消えるまで見つめ続ける。
ホーリーはそんなサーチの態度をふしぎに思いながら、両将軍が瞬示と真美の目撃者としての自分たちを特別扱いしていることを理解する。一瞬とはいえ協力しあったからこそ貴重な報告が可能となったのだから当然だと考える。そして、現実は厳しいとしても、今の男と女の関係がひょっとしてよい方向に向かうかもしれないとも思う。さらにこれから先、重大な事件が待ちかまえているのではと、直感的に感じとるとサーチの後ろ姿に女を感じる。
「サーチ。せっかくのごほうびだ。コーヒーで乾杯しようじゃないか」
サーチはホーリーに返事することなく戦闘ヘルメットを外す。ヘルメットからサーチの亜麻色の長い髪の毛がはじけるように両肩を包む。そして無言のままテーブルの前に立つとポットを持ちあげてコップに熱いコーヒーを注ぐ。ホーリーがにっこりとして待つ。
「ありがとう。サーチ」
詳細な報告を求められたあと緊迫した両将軍の応酬にホーリーもサーチも疲れ果てた。今、ぽっと穴のあいたような時間と空間がふたりを包みこむ。やっとサーチが口を開く。
[51]
「夢でも見ているようだわ」
ホーリーとサーチは幅の狭いテーブルに向かいあって腰をかける。サーチが初めて余裕を持って間近にいるホーリーを直視する。髪の毛は硬そうで顔は浅黒くて額には男らしさがにじみ出ている。精悍な顔立ちだが、笑うと妙に人なつっこい少年のような顔になる。
「俺達、何のために戦ってるんだろ」
ホーリーは一口飲んだあとのコーヒーの余韻を楽しむ。
「宿命よ」
女の軍隊の方が有利に戦いを進めていることもあってサーチの言葉に勢いがある。
「あのふたりは何者なのかしら?」
「重要人物だ」
首を傾げてからサーチがコーヒーを飲む。
「共通の敵なのかしら」
「なぜ、そんなふうに悲観的に考えるんだ?共通の味方かもしれないぜ」
ホーリーは少なくとも敵ではないと確信する。返事のないサーチに再び言葉を送る。
「何を調べていたのか、わかるか?」
両軍併せて五百人を超える技術官が地上と上空を様々な測定器やコンピュータを駆使して精査していた。サーチには何を調べているのか見当もつかなかったが、光学無線技士だったホー
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リーにはおおよその見当がついている。
「あのふたりがここに現れたときの時空と、黄色い球体が消え去ったときの時空のデータを集めていたのさ」
「時空?」
ホーリーが少年のように笑う。
「本体に戻ればいやでも勉強させられるぞ」
「なぜ?」
「それはこれからのお楽しみだ」
ホーリーは残ったコーヒーを一気に飲みほすとコップをテーブルにおいて微笑みながら立ち上がる。
「お代わりといきたいところだが時間がないな」
サーチも立ち上がる。
「もう会うことはないんでしょうね」
「いや……」
ホーリーはいったん言葉を切ってサーチに一歩近づく。
「必ず会う」
サーチはホーリーの力強い言葉と息を顔に受けながら何とか言葉にする。
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「敵として?」
「なぜそんなふうにしか考えないんだ。俺は友人として再会する」
ホーリーの断定的な言葉にサーチは一呼吸置いて真顔で応える。
「もしそうなら楽しみにしているわ」
サーチはまだ笑顔でいるホーリーに今までにないゆったりとした気分になる。ホーリーがまっすぐにサーチを見つめ、ごく自然に手を差し出す。何とか微笑みかけたサーチは急に全身が震えるのを止めようとこわばった表情をする。
「必ず、会う」
ホーリーが自信満々の表情をしてから、さっとサーチに背中を向けてテントの外へ歩きだす。
「ホーリー」
サーチが唇の端で呼ぶ。その言葉を予想していたようにホーリーが首だけをサーチに向ける。
「ありがとう。ホーリー」
サーチがぎこちなく微笑むとホーリーが立ち止まる。
「あなたがいなければ、一生この完成第十二コロニーに閉じこめられていたかもしれなかったわ」
ホーリーはサーチに動く気配がないのを感じると腕時計を見ながら残念そうに再びテントの出口に向かって歩きだす。そして、背中を向けたまま右手を挙げる。
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「もう少しのところで協定を結べたのに。今度会うときは是非素晴らしい協定を結びたい」
ホーリーが振り返って握手を求めてくるのではと期待したサーチの目に涙が浮かぶ。ホーリーの最後の言葉がサーチの脳裏に刻みこまれる。
***
女の軍隊の反応は速かった。
あの黄色い球体についての手掛かりはまったくなかったが、想像をはるかに超えた高い性能を持った時空間移動装置だと断定した。
瞬示と真美は新しいタイプの人間なのか。しかも男と女でありながら互いを攻撃することなく消え去ったことに首脳は当惑すると、男の軍隊よりはるかに危険な存在だという結論に至る。すなわち、万が一あのふたりが男の軍隊の味方になったとしたら、という危機感を持った。
あのふたりが完成第十二コロニーにやってくる前の時空間をコンピュータで解析し、ふたりの探索に取りかかる。つまり、ふたりがやってきた時間座標(時代)と空間座標(場所)を解析して、ふたりが存在する時空間に時空間移動して正体を見極めようという作戦をたてる。
まず、時間座標の解析を行った。その結果次のデータを手に入れる。
時間軸45126
時間点68194
[55]
このデータはかなり大ざっぱで永久元年から永久0020年の二〇年間の一時点という程度の時間座標を示していた。永久という年号は生命永遠保持手術という画期的な不老不死の手術が確立されたことを記念して制定された年号だ。
この物語ではふたつの年号が使われる。ひとつが瞬示、真美、一太郎、花子の世界で「西暦」という年号だ。もうひとつはホーリー、サーチ、キャミ、カーンの世界で「永久」という年号だ。このふたつの世界は平行して存在している。いわゆるパラレルワールドだ。西暦2001年が永久元年すなわち永久0001年に対応する。永久の年数に2000を加えると西暦に換算できる。
さて女の軍隊は時空間座標に続いて空間座標のデータを得る。
空間軸98123
空間点71465
(場所は地球の日本の北海道)
女の軍隊の上層部は時間座標と空間座標のデータにあわてふためく。あのふたりは未来の世界からやって来たという予想がまったく外れた。何と約二百年前(永久0010年プラス、マイナス10年前後)の過去の地球から、前線第十二コロニーに格下げされた完成第十二コロニーへやって来た。自分たちに重要な関わりのある祖先かもしれないが、その過去というものが自分たちの世界の過去なのかというと、確信が持てない不明瞭なデータも存在する。データ解
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析は幾度もやり直されたが結果は同じだった。ただし、その解析自体が非常に甘いものだとは自覚していなかった。
そのころの地球のデータを前線第四コロニーの中央コンピュータのデータライブラリから収集する。データライブラリには、約二百年前から始められた生命永遠保持手術を受けた人間全員の顔と全身の写真や経歴などが保存されていた
その一人ひとりの顔写真とサーチとコーマとそしてホーリーの記憶から抽出された瞬示と真美の顔や体型のデータが突き合わされた。国籍、人種を問わず突合作業を行うが一致するデータは一件もなかった。
それもそのはずで、瞬示と真美は生命永遠保持手術が開発された永久の年号を持つ世界の人間ではなかった。
続いてふたりが完成第十二コロニーから移動先の時空の解析が行われた。驚いたことにほぼ元の時空へ戻っていた。すなわち永久元年から0020年の北海道に戻っていると解析されたのだ。過去から未来に来て、再び過去に帰ったことになる。
実際は、瞬示と真美は西暦2011年11月11日の摩周湖から西暦の世界とは異なる永久0011年11月11日の摩周湖に横滑りしてから、永久0215年の完成第十二コロニーに移動して、その後永久0012年6月の北海道に戻った。
女の軍隊は早速、最新鋭の青い球形の時空間移動装置に第一次先遣隊五人を乗りこませ、永
[57]
久元年の北海道に送りこみ情報を収集させた。過去に時空間移動するということは因果律を乱す恐れがあるため、この調査は慎重に行われた。しかし、そのころの北海道にこれといった異変は見あたらなかった。
次に同じように第二次先遣隊を永久0002年の北海道に送りこんだ。
その間、どうやってあのふたりを見つけだすかという作戦が連日のように議論された。
最終的に因果律を乱さないように小人数の兵士を北海道に派遣してその時空間の世界にとけこむように長期間滞在させて、ふたりを捜しだすという作戦に変更する。そのころの北海道のどこかに最悪の場合は十数年間滞在させるのだ。
第二次先遣隊も手掛かりなしで戻ってきた。当然第三次先遣隊の派遣は見送られて、先ほどの作戦が実行される。すなわち真美と遭遇したサーチとコーマが派遣されることになる。もちろん、サーチとコーマは進んでこの作戦に志願した。女の軍隊はふたりに興味があるものの、正体を探るよりは因果律に抵触しないように抹殺することを優先させることにした。
時間をさかのぼって瞬示と真美を抹殺すれば、完成第十二コロニーでの事件はなかったことになる。女の軍隊は単純にそれでいいと考えた。
ただ北海道であのふたりを発見しても、完成第十二コロニーに来る前のふたりなのか、完成第十二コロニーから戻ったふたりなのかを区別することができないというツメの甘い作戦となる。これは女の特性なのかもしれない。
[58]
いずれにしても女の軍隊の作戦は、完成第十二コロニーで起こった事件からわずか三か月で実行された。
***
男の軍隊はかなり手堅い方法を採った。というより、戦略の決定がなかなか進まなかったためにいたずらにすぎていく時間を何とか有効活用したと説明した方が正確だろう。表現を変えれば、男には女のような直感力がなく、議論を好むという欠点がこのような状況を招いた。
あの黄色い球体についての手掛かりはまったくなく、女の軍隊と同じように高度な性能を持った時空間移動装置ではないかと推測した。
瞬示と真美はいずれにしても新しいタイプの人間に違いない。そして女よりはるかに危険な存在と結論された。
しかし、一方ではあのふたりが男の軍隊の味方になってくれたら、という期待感も併せ持つ。結果として男の軍隊の支配下にあった完成第十二コロニーが女の軍隊に占領されずにすんだばかりか五分五分に持ちこめたのは、ふたりのおかげだと考えたからだ。
そのふたりが完成第十二コロニーにやってくる前の時空をコンピュータで解析し、ふたりを探索する方法を模索する。
まず精密に時間座標と空間座標を割りだすためのプログラムを開発した。女の軍隊があのふのふ
[59]
たりを抹殺する前提で作戦を実行するだろうと推測して、解析に時間がかかってもやむを得ないと考えた。つまり女の軍隊が先にあのふたりを発見して抹殺すれば、一件落着ということになるのだ。女の軍隊がたやすく抹殺できるはずがないし、正確にあのふたりがやって来た時空間を割りだせれば、あのふたりを発見するのは男の軍隊の方が結果的に早くなる可能性もある。味方にできなくても何らかの情報が得られれば、それは貴重な収穫になるのではと期待した。このように消極的な作戦しか立てられなかったのは男の軍隊が劣勢であったことが原因だった。カーンのキャミに対する劣等感がそのまま現れたのかもしれない。
男の軍隊は解析に五年費やした。その結果、精密なデータを得ることができた。
時間軸4512614596326124
時間点6819422143145674
(永久0011年11月11日午後7時頃)
空間軸9812322362067923
空間点7146500794290121
(場所は日本の北海道の摩周湖の展望台付近)
上層部はこのデータにあわてふためく。あのふたりは未来からやってきたのだろうという予想がまったく外れた。何と約二百年前の地球から、ふたりはやってきた。解析作業は幾度もやり直されたが結果はすべて同じだった。
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そのころの地球のデータを前線第四コロニーの中央コンピュータのデータライブラリから収集する。国籍、人種を問わず突合作業を行うが一致するデータは一件もなかった。
因果律が乱れるのを避けるため、無人の時空間移動探査機数基を永久0011年11月10日から12日までの摩周湖に送りこむ。
その結果、永久0011年11月11日午後7時ごろ、摩周湖付近で大規模な地殻変動があって、巨大なクレーターが出現したという事実をつかむ。
摩周湖の異変とあのふたりに重大な関連性があると確信した。これは女の軍隊が入手できなかった貴重なデータだった。
続いてふたりが完成第十二コロニーから移動した先の時空の解析が行われた。驚いたことに、ふたりは永久0012年6月のある日、摩周湖から少し離れたところに戻っていた。
女の軍隊から遅れること五年、永久0200年に瞬示を実際に見たホーリーと、ホーリーの部下として時空間移動装置のベテラン操縦者であるカイトという兵士が摩周湖に派遣される。
もちろん異変を起こす直前の摩周湖に時空間移動する。ただし任務の内容は、「味方になる可能性があれば別だが、そうでなければあのふたりを抹殺せよ」であった。
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